蟻の生活[詳細]
La Vie des Abeilles
『青い鳥』の作者メーテルリンクが綴る
倫理の博物誌
別役実=推薦
アリは本来が遠心的であるのに対して、われわれ人間は
自己中心的に生活しなければ生存できない、
宿命的なエゴイストなのだ……と、目の前の小さなアリたちが
くり広げる光景を観察するメーテルリンクは説く。
くわえて「倫理の基本が逆転している」と、こたえを見い出す。
蜜蜂においては「巣の精神」を白蟻においては人間社会の未来を、
そして蟻に出会うことから、
この地球にくらすすべての「生命の普遍性」を考察する。
■目次より |
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諸科学にヒエラルキーはなく、蟻類学はわれわれ人間にとってもっとも近傍の学問である。
1章 アリ社会の部分と全体
誰が統治し、調和するのか一向に理解することはできないが、有機的生活こそ存在の根本である。
第2章 アリ塚の神秘
アリは打算なしに与え、何ものをも自分の体内にあるものでさえ所有しない。彼らには食欲もない。
第3章 都市の建設
都市はただ一つの存在の生活であるかのように、時空を超えて生き続けることを要求している。
第4章 アリの住居
錯綜した異様な、綿密で幻想的なアリの住居は、まるで有史以前の化石のみが与える印象に似ている。
第5章 戦争
不正義きわまる種族こそが、もっとも文明化し知識の発達した種族であることを認めざるをえない。
第6章 伝達と方向感覚
アリ自身が巣の方向を示す羅針盤か、磁針ではなかろうか。巣の中では磁気を抜かれて休息している。
第7章 牧畜
密を求めて歩き廻る一匹のアリが、たまたまアリマキの一団のそばを通り過ぎたとき、新時代が始まった。
第8章 キノコ栽培アリ
未来の都市の創設者は結婚飛行に発つとき微細な菌糸の塊を携えて行き、自分の部屋に播き栽培する。
第9章 農業アリ
彼らは巣の周辺に繁茂する草を刈り、開墾して円形の空地を作り、アリ稲または針草を栽培する。
第10章 寄生者
お人良しで無分別といえるほど客を歓待するアリにとって、寄生とは自然が好む一様式なのだ。
エピローグ
■関連図書(表示価格は税別) |
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■書評 |
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●別役 実氏(劇作家)
生命の神秘に迫る「智恵の書」
そこから宇宙の神秘を読みとるために、蟻があまりにも小さすぎるということはない。メーテルリンクは、その独特の感受性を持つ繊細な指先で、“錯綜した異様な、綿密で幻想的な”蟻の世界を、何故かややもの悲しい語り口でそれを、私たちの目の前にくりひろげてみせてくれる。
これは単に科学的な観察記録でもないし、かといって、幻想的なメルヘンでもない。“数百万の天体がひしめく銀河系外星雲の途方もない球状団塊”から私たちが何ものかを読みとろうするように、人類以前から都市国家を開始したといわれるこの“小さなものたちの奇怪な集合体”から彼らによって読みとられた、いわば「智恵の書」である。