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本の美術誌[詳細]

時代の動きに敏感な芸術家はいま、本をどのように表現しているのだろうか。
ちょうどそのことを書いた本があった。
かつては神聖なものとして描かれてきた本が、
現代美術では、むしろ滅びのシンボルとして描かれるようになった、というのだ。

朝日新聞「天声人語」(1996年2月16日)



■目次より

巻頭カラー:本の美術ギャラリー

第1章 一冊の本
    パントクラトール像と聖書
    本のかたち
    呪物的な宝物
    燃え落ちた本の幻
第2章 複数の本
    聖母子像と聖書
    「受胎告知」の舞台風景
    所有熱
第3章 人間の時代
    デューラー「四人の使徒」の時代精神
    意識の図像学
    きらめく思想の宇宙と印刷術
第4章 本の虫への皮肉
    アルチンボルドの「法律家」と「司書」
    魔術の帝国にて
    ルドルフ二世の肖像「ウェルトゥムヌス」
    “目の人”が描く戯画
第5章 ヴァニタス
    メイプルソープとヴァニタス
    空虚なる画布
    日常的な死
    西村陽平の燃えつきた本
第6章 読書する女
    「源氏物語絵巻」と読書
    浮世絵に描かれた母と子の読書
    江戸の絵本文化
第7章 学問の道具
    李朝の文房図:斬新な書架の絵
    絵画への知的な思考
    本が奏でる夢空間
    ゆるやかな教育
第8章 アートワークとしての本
    柏原えつとむの本とは何か?
    加納光於と大岡信の本と箱
    若林奮と吉増剛造の箱宇宙
    河原温の数字本
第9章 記憶と創造力
    ボルヘスの無限の本
    星野美智子の溶解する本
第10章 大量消費生産物
    デイヴィッド・マックの大量消費物アート
    彫刻素材としての本
    反個人的イメージの氾濫
    現実のはざまで
第11章 滅亡のしるし
    知の罪を暴くアンゼルム・キーファー
    鉛の本の衝撃
    滅びの時代
第12章 メディア
    マルチメディアへのターニング・ポイント
    ウェンヨン&ギャンブルのホログラム・イコン
    山口勝弘の鏡の本
第13章 未来
    ゲーリー・ヒルのビデオ・イメージ
    河口龍夫の本と種子
    本の“光年”
    不死という未来





■著者紹介:中川素子 Motoko Nakagawa

1942年、東京生まれ。東京芸術大学美術学部大学院修了。文教大学教育学部教授(造詣芸術論)。
著書に現代美術の視点から新しい絵本論を展開した『絵本はアート:ひらかれた絵本論をめざして』(教育出版センター)があるほか、新聞や雑誌の読書欄、文化欄などで絵本論、現代美術論を執筆している。




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■書評

矢川澄子氏(『週刊読書人』1995年4月14日)
「打明けていえば、単なる装幀美術の専門書でも読ませていただくつもりでのんきに書評を引受けてしまったわたしは、送られてきた一冊の禁欲的なたたずまいにいささかぎょっとしたのだった。この種の本にしては図版の挿入が少なすぎる。そう思いながらばらばらページを繰っているうちに、やがて見開きいっぱいにのせられた一枚の写真に行きあたって、手はおのずととまってしまった。
 一見なんの変哲もないガラスの試薬瓶が3、40本、卓上に無造作におかれている。瓶にはそれぞれ白い粉が入っていて、その量も2、3分だったり9分どおり詰まっていたり、てんでんばらばらだ。もちろんラベルもひとつひとつ異なっている。不気味なまでに静かな薬品の陳列──けれどこれがなんでこの本の主題と関係があるのだろう?
 本文を読んで疑問は氷解した。白い薬品と見えたのは、じつは本を燃やしたあとの砂状の灰だったのだ。作家は現代の日本人である。
 そういえば最近読んだミステリーに、殺した夫の骨灰を砂時計につめて身近においている未亡人の話があった。人と本とどちらがきれいな粉になるのかは知らない。いずれにせよこの西村陽平氏の存在を教わっただけでも読者として得るところは大きかった。  
 西村作品ばかりではない。ここに論及された現代美術の数々は、筆者ならずともぜひ実物に接してみたくなるだろう。その意味でも信頼に値する案内役の登場といえよう」



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