ヒューマン・インフォマティクス[詳細]
ユビキタス時代を楽しむ最先端研究ドキュメント
人間の精妙さを徹底的に洗いだす研究から
相互テレイグジスタンスや都市の危機管理システム、
文化遺産のデジタルアーカイブ化、
協調学習の場づくり、ひらめきをもたらす情報空間の作り方まで、
ヒューマン・インフォマティクスの先端研究を
分かりやすく紹介。
■目次より |
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まえがき 遊び心や熱意を伝えあえる社会へ 長尾 眞(独立行政法人 情報通信研究機構 理事長)
第1部 触れる:心と心をかよわせる
1-1 デジタルヒューマンの誕生
金出武雄(産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究センター研究センター長)
生理、運動、認知心理の3つの軸から人間を統合的にモデル化して来るべき人間学をさぐる。
西田佳史(産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究センター)
1-2 表現豊かな声の秘密
ニック・キャンベル(ATRネットワーク情報学研究所 主幹研究員)
声の調子に隠された感情、意図、態度のかずかず。人にやさしい音声技術のポイントはどこに潜んでいるのか。
1-3 身ぶりは口ほどにものを言う
渡辺富夫(岡山県立大学情報工学部情報システム工学科教授)
身体的リズムの引き込みをうながすコミュニケーションシステム。共感や同情は身体的インタラクションから始まる。コミュニケーションの推進役、うなずきロボット。
第2部 伝える:時間・空間のバリアを超えて
2-1 離れていても存在感を伝えあう
舘 (東京大学情報理工学系研究科システム情報学専攻教授)
遠距離でもすぐそばにいるかのように顔を合わせて対話できる相互テレイグジスタンスシステムの展望と、それがもたらす次世代の日常生活。
2-2 生活を共にする情報パートナー
木戸出正継(奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科教授)
いつでもどこでも情報編集活動を支援し、記憶の拡張やナビゲーションをしてくれる情報パートナーの将来像。
2-3 デジタルシティのユニバーサルデザイン
石田 亨(京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻教授)
異文化の老若男女、障害者がバリアなしにふれあえる生活情報空間の構築。非常時の危機管理と環境学習をパイロット・アプリケーションとして。
column02 全方位カメラの開発
石黒 浩(大阪大学大学院工学研究科教授)
2-4 文化遺産を世代を超えて共有する
池内克史(東京大学大学院情報学環/生産技術研究所教授)
文化遺産をデジタル保存し、創建当時の復元や破損箇所の修復などによる新しい文化史への可能性。伝統舞踊や匠の技のデジタルアーカイブ化の道も探る。
第3部 究める:学びあいながらひらめく
3-1 共に学び共に高めあう
三宅なほみ(中京大学情報科学部認知科学科教授)
情報メディアを活用しながら協調的に学びあう新しい学びの場の誕生。カリキュラムの具体例から今後の展望まで。
3-2 多次元の発想を共有する
橋田浩一(産業技術総合研究所情報技術研究部門 副研究部門長)
1次元の文章の制約を超えるセマンティック・オーサリング・システム。個人とグループの知的生産技術の革命がもたらす「知識=知恵
循環社会」の可能性。
3-3 思考や文章の本質に迫る
池原 悟(鳥取大学工学部知能情報工学科教授)
「言語に依存した人間の思考形式」をセマンティック・タイポロジー(意味類型論)の観点から捉え直す。意訳型の機械翻訳システムや文書の内容検索などへの応用も可能。
3-4 専門の壁、オタクの壁を超える
辻井潤一(東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻教授)
ネットワーク社会で発信者・受信者が個別に持っている膨大な情報を有機的に統合して必要な人同士が必要な情報を活用しあえるコミュニケーション技術の真髄。スーパー知性の誕生。
column03 ウェブの大規模テキストから常識を引きだす
黒橋禎夫(東京大学大学院情報理工学系研究科助教授)
3-5 連想から発見への情報術
高野明彦(国立情報学研究所教授)
ひらめきをもたらす情報空間の作り方。ユーザーが理解度に応じて平易な入門的解説から高度な専門的記述までを自在に渡り歩く技法の開発と応用例。生きたデジタル百科「新書マップ」。
座談会 生活情報の海からヒューマン・インフォマティクスがはじまる
長尾 眞+金出武雄+舘 +三宅なほみ+所 眞理雄
科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)
「高度メディア社会の生活情報技術」研究課題・研究代表者一覧
年表 大阪万博から愛知万博への情報誌
■まえがきより |
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遊び心や熱意を伝えあえる社会へ 長尾 眞
インターネットや携帯電話の爆発的な普及は、私たちのコミュニケーションや情報収集の仕方を変えただけではなく、生活スタイルそのものを大きく変えてしまいました。
コンピュータをはじめとする要素技術の開発・性能向上をひたすらめざした情報技術も、21世紀に入り、私たちがどのような生活を願うのかをひとつひとつ検証しながら、知識や技術を統合すべき時代に移りつつあります。
本書の契機になった独立行政法人 科学技術振興機構が推進する「戦略的創造研究推進事業(CREST)」の「高度メディア社会の生活情報技術」プロジェクトがめざしたのは、ふつうの生活者が気軽に諸メディアを活用して協力しあうことによって、ひとりの天才、ひとりの政治的ヒーローでは決して実現できない、活気あふれる社会にいたる道を幾筋も用意することでした…
■関連図書(表示価格は税別) |
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■書評 |
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●日経バイト 2005.9月号書評
16人の気鋭の研究者が、人間の行動や生理についての知見はIT(ロボット)にどのように生かせるか、ITと人間はどのようにかかわるべきか、ITは生活の質の向上にどのように貢献できるかについて,熱く語った書。「触れる」「伝える」「究める」の三つの観点で分類した章立てになっている。この分類とネーミングが適切なのか疑問も残るが、図や写真を数多く使い、肩のこらない形で最新の研究を紹介している点は評価できる。本書を通読すると、日本人はロボットが好きなんだなぁと改めて感じる
●INTERNET magazine 2005.10月号 森山和道氏書評
人間に機械が寄り添うためには、どのような技術・アプローチが必要か?
内容は多彩だ。ヒューマノイドロボットのための人間計測・解析研究、人間をモデル化した「デジタルヒューマン」、「ほほう」「なるほど」といった人間的なやりとりを可能にするための音声合成技術、うなずきなどの引き込み現象が起きる場を生成することを目指す情報技術、皮膚感覚の再現、仏像のデジタル復元・改修、ロボットによる伝統芸能保存、人間とコンピュータが意味や価値を共有することを目指すセマンティックコンピューティングなど、幅広い研究成果が紹介されている。
一見、本書に収録された技術はロボットからセマンティックウェブまで、幅広すぎるように見えるかもしれない。だが、共通点はある。人間とはどういうものかを理解し、なおかつコンピュータで解析できる対象にすることの重要性。そして、人間に機械が寄り添うためにはどのような技術・アプローチが必要か、という視点だ。
機械に人が合わせていた技術から、真の意味で人間に寄り添った技術へ、取り組みが始まっている
●2005.8.7 東京新聞書評
デジタル社会の可能性を見渡す
暮らしに視点を置いて情報科学の最前線を網羅した百科全書的な本。第一部『触れる』で人間と機械のインターフェースを、第二部『伝える』で対話型の情報技術の成果を紹介し、第三部『究める』で情報科学の根幹をなす認知と処理の多様なモデルが検討される。急速にデジタル化が進む現代社会は何を目指し、その先にどんな可能性が待ち受けているのか、この一冊で全体像を見渡せる
●月刊アスキー2005.8月号書評
…人間の何気ない日常動作に秘められた情報以外にも、通常は『常識』として暗黙の前提としている知識は、意外と膨大なものである。それらをどのように計測、蓄積し、人間というシステムを解析してゆくか? それがロボットを人間に近づけるための近道なのだろう。もしかすると、ロボットの研究は人間の研究と同じだと言っていいかもしれない。…情報をどのように扱い、活かすか。その知恵やヒントが詰まった一冊だ。