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鮭ほどのなじみはないものの、イモリと山椒魚は、 文化史の中でユニークな役割をはたしてきた。 惚れ薬として名高い「いもりの黒焼」の謎、民話や伝説の中で活躍するイモリの妖怪、 神様として祭られた大山椒魚、 そしてウーパールーパーの幼態成熟、カンメラーの山椒魚実験…… 民俗学・文学から生物学まで、 分野を超えてはじめてまとめられた「有尾両生類」の博物誌。 |
■目次より |
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巻頭カラー イモリと山椒魚図譜 第1章 動物誌 第1節 蛙との血縁 龍かナマズか/19世紀ヨーロッパの分類/両生類の隠者 第2節 尾の一族 陸上生活者への道/水の呪縛のもとに/幼生と変態のシステム 第3節 日本産有尾類のラインアップ 第2章 イモリ学事始 第1節 近代のイモリ像 第2節 本草学アンソロジー 『和名抄』と『本草和名』/『本草綱目』/『訓蒙図彙』/『本朝食鑑』 『大和本草』/『本草綱目啓蒙』/『和漢三才図会』/随筆類 第3節 守宮のしるし 血の呪縛/和歌の主題として/虫じるしと操守香 第4節 俗信と奇談 雨乞と雷/妖怪いもり坊主 第3章 イモリの呪術 第1節 いもりの黒焼 媚薬のスタンダード/黒焼きの製法/多淫のイメージ/南方熊楠の黒焼学 第2節 いもり酒 第3節 呪術譚遊覧 『生写朝顔話』/『三世相』/洒落本と狂言/『好色いもり酒』 『大阪発見』と『夫婦善哉後日』/川柳/「いもりより佐渡の土」 第4節 黒焼の引力 第5節 東西黒焼屋案内 江戸黒門町/四つ目屋/大阪高津 第4章 ちいさな山椒魚たち 第1節 箱根名物 第2節 「疽の虫」の薬とその採集法 第3節 千貫虫 第4節 山椒魚を食べる おどり食い/燻製と製剤/山椒魚料理 第5節 保護 個人的経験から/箱根と桧枝岐の場合/減少する生息地 第5章 大山椒魚 第1節 鯢魚・ニン魚・山椒魚 第2節 古記録から 「その形、児・ジ猴に似たり」/人魚 第3節 生息圏とライフサイクル 分布/大きさと寿命 第4節 ハンザキの里、湯原 石川千代松博士/ハンザキ大明神/ハンザキ風物詩 第5節 大山椒魚料理集 近世日本編/山のアンコウ/地獄料理と魯山人風生姜煮 中華料理編/薬用 第6節 特別天然記念物として 第7節 街に出た大山椒魚 第6章 サラマンドラ 第1節 サラマンドラ伝説 炎の中にすむ/火の精/乾杯とザラマンデル/ゲリマンダー 第2節 火浣布 第7章 工芸誌・文学誌 第1節 イモリ工芸館 第2節 山椒魚文学館 井伏鱒二『山椒魚』など/チャペック『山椒魚との戦争』 サラマンドラの文学誌 第3節 詩歌抄 イモリを詠む/山椒魚を詠む 第8章 科学誌 第1節 大洪水の死者 第2節 アホロートルの幼態成熟 第3節 カンメラーの謎 第4節 卵の手術 卵嚢と産卵の観察/実験発生学/重複胚・重複肢と鏡像 |
■著者紹介:碓井益雄 Masuo
Usui |
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1911年、朝鮮京城(現韓国ソウル市)に生まれる。東京帝国大学理学部動物学科卒業。動物実験発生学専攻。理学博士。1974年、東京教育大学理学部教授を定年退官。 著書は『動物の発生』、『文化史の中の科学:生命観と宇宙観の歩み』、『動物の左右性をさぐる:生命への模索』、『霊魂の博物誌:原始生命観の体系』、『蛙』、『子づくりの博物誌』など多数。訳書にウォディントン『生命の本質』、ブルーワー『脳と脊髄』、エーアリックほか『地球市民のための生物学序説』(いずれも共訳)などがある。1997年永眠。 |
■関連図書 |
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・子づくりの博物誌 生と性をめぐるイマジネーション 碓井益雄 2800円 |
■書評 |
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◎西村三郎氏(『日本経済新聞』1993年4月4日) 「動物誌・古記録にはじまり、迷信・伝説・民俗、さては芸術・文学・時事と、硬あり軟あり、時にはエロ・グロあり、ことイモリと山椒魚に関しては著者の惑溺──といってもあながち不当ではあるまい──はほとんど底を知らぬかのようだ。古今東西の文献から集められたそうした情報の数かずには、思わず眉につばをつけたくなるもの、なるほどとうなずかせるものと、多様である。山間の渓流で陰者のようにひっそりと生きるこの動物たちとも、古来人間はなんとさまざまな交渉を持ってきたものかと改めて驚かされる。 なかでも圧巻は、媚薬として名高かったイモリの黒焼きをめぐっての考証だろう。江戸時代の浮き世草子・洒落本・浄瑠璃から近年の雑誌広告までを駆使して縦横に談じるこのくだりにおいて、動物学界切っての読書家として知られる著者の本領が遺憾なく発揮される。 著者は今年82歳を迎えるはずである。悠々自適の生活に入って20年にもなろうとして、なお旺盛な知的好奇心を持ち続け、このような興味深い著作をものされる気力には、ただ脱帽するのみだ」 |
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