キーワード検索HOME



ジオメトリック・アート
—幾何学の宇宙教室—

表紙からして もぅ、ページをめくっては あぁ、あちらもこちらもそちらもキラキラ……。本を閉じてはまた開き、そして閉じて…。 今回ご紹介するのは、神戸芸術工学大学レクチャーシリーズとして5月末に刊行された『ジオメトリック・アート—幾何学の宇宙教室—』。最近「幾何学」(※1)の意味を知った私が、この「ザ・キラキラ本」の魅力を語りたいと思います。(編集部・小松崎裕夏)


神戸大学工科大学レクチャーシリーズ
ジオメトリック・アート—幾何学の宇宙教室—
カスパー・シュワーべ+石黒敦彦 2006年5月刊行
本書は、幾何学から生まれた様々なデザイン、アート、建築を紹介しています。つい最近まで幾何学=幾何文様(市松文様とか亀甲文様)と思い込んでいた私は、内容を理解するために電子辞書が手離せません。それでもドキドキしながらページをドンドンめくってしまうのは、数学書にありがちな定理の説明(数式等)がない分、多くの図版や写真で構成される、幾何学をアートとして捉えた本書だからなのだと思います。時代を超えて多くの人々を虜にする幾何学の魅力と、幾何学を楽しみ愛する人々の魅力とが、ひしひしと伝わってくるのです。 博覧会場の動く巨大モニュメント
「ジタバッグ」
正12面体モデル「120胞体」の中心
「愛のトンネル」
例えば、スペースパッキングの章に出てくる4次元の正12面体モデル「120胞体」の中心は、5回対称軸が美しく見えるため「愛のトンネル」と呼ばれているそうです。そのあまりにもベタなネーミングにただならぬ親近感を感じ、一気に私と幾何学との距離は縮まります。プロポーションの章では、ピタゴラスの「天体の音楽」 (※2)を受けたケプラーが、“地球は一年をかけてミとファの音を繰り返し出し続けている”と夢想したエピソードを知り、研究者の豊かで自由な想像力にハッとします。ケプラーって、なんか面白そうよ。
そして、本書のもう一つの魅力が、アートディレクター杉浦康平氏による、今にも動き出しそうなデザイン。めくるたびにインスピレーションがあふれ出す、まさに“目からうろこ”の連続です。刊行予定が大幅に遅れる中、編集担当の田辺さんの机の上には、日々美しい誌面が積まれてゆきました。同じページの何パターンものレイアウト。聞くと、「杉浦先生とはもう三十年来の付き合いになるけど、いつもこうだよ。内容に踏み込んでページをデザインしたものがある程度できあがると、今度は糊付けして本にしていくのね。そして全体を眺めてはデザインし直していく。それを何回も繰り返すの」とのこと。…脱帽。きっと『遊』や『全宇宙誌』と同じ心意気で作られたに違いありません。こうして、見た目も中身もとにかくキラキラ眩い本『ジオメトリック・アート』ができ上がりました。

本書が誰かの手に触れてキラキラが舞い、心踊らせるとき、ひょっこり何かが生まれるのだな、そう考えただけでワクワクしてくる、これぞまさしく「ザ・キラキラ本」なのです。


※1 数学の一部門。物の形・大きさ・位置、その他一般に空間に関する性質を研究する学問。
※2 ピタゴラスが唱えた“それぞれの惑星が回転しながら固有の音を発し、太陽系全体で和音を奏でている”という考え。





【不思議な建築】

空間に恋して    象設計集団
『ジオメトリック・アート』のスペースパッキングの章で紹介されている、奇妙な12面体の集合住宅「ラモート・ハウジング」。住民による増改築によって変形された幾何学的住宅が、生々しさと力強さを宿し、まるで息づいているように見えてくるからオモシロイ。そういえば、象設計集団が手掛ける建築もまた、生きているように思えます。と言っても両者は似ているようで似ておらず、だけどやっぱり似ている! 曖昧でスミマセン。だけど、この曖昧さが象設計集団のカギでもあるのですよ。




【幾何学を愛した人】

ケプラーの憂鬱  ジョン・バンヴィル
『ジオメトリック・アート』を読んで無性に会いたくなったのが、17世紀の天才ヨハネス・ケプラー。彼の成しえた偉業よりも、それを導いた豊かな想像力が知りたい! そう思い読み進むと……。想像をくつがえす彼の不器用な姿に泣けました。
学問に没頭するも彼が望んだのは、地位や名誉ではなく慎ましい平和の日々でした。しかし、生まれながらにしての病と激しやすく他人を嘲笑する気質のために、彼をとりまいたのは憂鬱な日々。そしてその憂鬱な日々にこそ想像力の源があるのだと分かったときに、ウルウル。彼の瞳に映る調和した数・幾何学の世界は、さぞかし美しかっただろうに。

星界の音楽  ジョスリン・ゴドウィン
ケプラーが夢中になったピタゴラスの「天体の音楽」は、ケプラー以前から、そして以後も多くの研究者を虜にしてきました。という、事実にまず驚きました。“惑星が音を奏でる”と、考えたこともなかったものですから。それが物理的に事実ではないとしても、宇宙に調和を感じ、そこに音楽を連想した古代の人々の夢やロマンは偉大です。そして、アジアの楽器を通して宇宙の響きに迫ったのが、杉浦先生の『宇宙を叩く』だといえるかもしれません。


【杉浦本!】

宇宙を叩く  杉浦康平
「デザインには全て意味があるんだよ」
銀座松屋で行われた杉浦康平企画展「火焔太鼓 宇宙を叩く」。それに伴う杉浦先生の講演にすっかり感動し、(今思うと大変あつかましいのですが)無我夢中で先生の前に歩み出て、感想とお礼を伝えたかった私。そんなコーフンぎみの私に穏やかな口調で先生が応えてくれた言葉です。「デザインには全て意味があるんだよ」。一個人に向かって、多くの人たちへの講演で、あるいはテレビ番組のコメントであろうが、決して姿勢を変えない先生にさらに感動。そんな先生のすべてが『宇宙を叩く』にあるような気がします。そして再び『ジオメトリック・アート』を手にとると、より一層輝いて見えるのです。








+特集Back Number++home+