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特集:雑誌のカタチ 出版史のエポックとなった〈カタチ〉/現在進行形の〈カタチ〉
雑誌というメディアは、インターネットの登場以後、アイデンティティ・クライシスに陥っているのではないでしょうか。では、「雑誌にしか作れない世界」とは? それが〈カタチ〉ではないか、という視点で綴られたのが『雑誌のカタチ』です。単なるレイアウトや判型だけではない、読者が手にとりたいと思わせる、雑誌全体が体現する〈カタチ〉。

今回の特集は、本書に登場する「出版史を彩る8誌」の注目ポイントを簡潔にまとめました。そして、本書の〈カタチ〉に挑んだ小社編集者/デザイナーの制作秘話を掲載します。さらに、著者・山崎浩一さんに新たにセレクトしていただいた「今、気になる〈カタチ〉14誌」も一挙掲載。こだわりを感じさせる、現在進行形の〈雑誌のカタチ〉をご覧ください。
雑誌のカタチ

雑誌のカタチ
──編集者とデザイナーがつくった夢
山崎浩一=著
[目次]
●『雑誌のカタチ』に登場する出版史を彩る華麗なる8誌
●編集者より
●デザイナーより
●今、気になる〈カタチ〉14誌 text=山崎浩一
●プレゼント


『雑誌のカタチ』に登場する出版史を彩る華麗なる8誌
POPEYE創刊 読者の欲望を喚起する
POPEYE(マガジンハウス)

1976年6月創刊。『平凡パンチ』、『an・an』の編集長を務めた木滑良久が創刊したカタログ雑誌の先駆的存在。コラムの高密度・高集積によるカタチに注目。現在のカタチ>>>
少年マガジン ジャンル横断のグラフィズム
少年マガジン(講談社)

1959年3月創刊。同月創刊の『少年サンデー』と並び、少年マンガ週刊誌の先駆けとなる。早すぎたヴィジュアリスト・大伴昌司による巻頭グラビアの企画・構成に注目。現在のカタチ>>>
ぴあ 過剰な誌面がもたらしたもの
ぴあ(ぴあ)

1972年7月創刊。79年に隔週化、90年に週刊化。図版と文字からなる情報単位が、等価な断片として並列され、見開き誌面全体を構成する機能性・道具性に注目。現在のカタチ>>>
週刊文春 〈集合無意識〉のデザイン力
週刊文春(文藝春秋)

1959年創刊。刷部数75万部。77年より和田誠が表紙イラストを担当。読み捨てられる気楽さが反映されたレイアウト、センセーショナリズムを担う書き文字に注目。現在のカタチ>>>
ワンダーランド創刊号 新聞+雑誌のハイブリッド
ワンダーランド(ワンダーランド)

1973年8月創刊。月刊。3号から『宝島』と改名し、1974年2月号で休刊。同年JICC出版局(現・宝島社)に引き継がれ、現在に至る。大判を活かした誌面作りに注目。現在の『宝島』のカタチ>>>
婦人公論 世紀に一度の大リニューアル
婦人公論(中央公論新社)

1916年創刊。現在は隔週刊。戦前戦後を通じて、多様な女性問題を取り上げてきた80年の歴史を持つ雑誌を、休刊をはさまずに全く新しいカタチに変貌させてしまった点に注目。現在のカタチ>>>
小学二年生 平面を立体にする「お家芸」
小学館の学年誌

1922年、『小学五年生』『小学六年生』が創刊され、他の学年誌も続いて創刊された。学年誌のカタチを決定付けた「立体記事」としての付録のあり方に注目。現在のカタチ>>>
クイック・ジャパン創刊準備号 〈B6判マガジン〉が描いた夢
クイック・ジャパン(太田出版)

1993年の創刊準備号(飛鳥新社)を経て、1994年に太田出版で正式創刊。第2号までのB6判で展開される「コンパクトなダイナミズム」「ミニマルなスペクタクル」に注目。現在のカタチ>>>



編集者より●今再びの「雑誌黄金時代」
雑誌の世界では、毎年12月の初めに新年号が出ます。雑誌の中には常に近未来の時間が流れていて、われわれは雑誌を通じて、「起きつつある何か新しいこと」に参加し、「一歩先の未来の予感」を共有するのではないか…。雑誌が持ちえたこうした「共同幻想力」は、どのように作り出されたのだろう。そんな問題意識とともに、コラムニスト/批評家の山崎浩一さんは出版史を彩る8つの雑誌の、編集者/デザイナーたちの〈雑誌のカタチ〉をめぐるドラマに迫っていきます。

今やインターネットに押されて、雑誌が売れないと言われています。たしかに「雑誌の黄金時代」は、60年代から80年代にかけてとされることが多いようです。しかし、あらゆるタテ割りジャンルのほぼすべてに「専門情報誌」が存在している現在は、また違う意味で「雑誌の黄金時代」を迎えていると言ってもよいかもしれません。ただ、そこにはかつての雑誌がもっていた何かが失われているかもしれない。本書はその何かを明らかにするきっかけにもなるでしょう。

本書は、『季刊 本とコンピュータ』の同名連載(2002〜2005年)を加筆・修正のうえまとめたもので、単行本化にあたり、本文下のヴィジュアル註、各章ごとのヴィジュアル・ステージを付け加えました。また、本書のブックデザインは、かつての雑誌文化が写植に支えられていたことを受けて、版下のイメージをもとにしました。帯は別版のトレーシングペーパーの雰囲気を醸し出すよう、つや消しになっています。デザイナー、宮城安総と松村美由起の入魂の技、ぜひ手にとってごらんください。(石原剛一郎)

デザイナーより●「イラダチ」からの逃走〜80年代風仕立て〜
この本の仕事については、いざ始まってみると、雑誌をめぐる今日的な「状況」にかんして著者が抱くある種の「いらだち・のようなもの」がここかしこに存在しており、唐突だがその愁訴の主因は、この業界に身を置く鋭敏なものたちにとってはかなり普遍的なもので、いってみれば「肉と熱と愛の欠如の抑圧」にあると個人的には睨んでいるのだけれどそれはともかく、その「いらだち・のようなもの」はポーズとしてのアルカイスムやレトロ趣味からもたらされるのではなく、いたって健康的で大真面目、正面きっての、時流にたいするパンクチュアルな「ムカツキ」なのであって、無謀ではあるが無理からぬ正当性がみとめられ、それが本書に一貫して流れる通奏低音にもなっていること考えると(この件についてはエビデンスはないものの実際に原文に触れて確認しておいていただきたい)、ここでその過程をかりに図像の武装解除とかもっと穏当に民主化と呼んでもそれはそれで差し支えないのだが、具体的にとりあげられる一冊一冊の雑誌の諸事情にデザイナー手ずから立ち入って視覚的に転写/パラフレーズすること以前に、縷々綴られていくものの一向に報われる気配のない「いらだち」そのものから一定の距離を置き、それを反復可能なモードへと変換しさらに「強度」と「速度」をたずさえて、ご本尊と同位相であるけれども「カタチ」や「ナリ」をかえ、必要とあらば紙面に賦活作用のエピネフリンやらドパミンやらを急速投与しつつ「ディスクールにとってのアクチュアルな舞台=身体」として[再]-表出してみせることこそが担当デザイナーの最低限のマナーあるいは第一の任務なのだろうと自らを説諭しながらも、「今更なぜ?」とノリツッコミをいれる軽みと冷静さをゆめゆめ忘れずに、そしてまたくどいようだが、一方で著者が感じている「いらだち」は、かつて活況を呈していた「受肉の現場」と、世間の近代化と足並みをそろえるかのようにゆっくりと「虚脱」していく「(ある意味もうどうしようもない)われわれのリアルでフツーに低酸素なデスクトップ」とのあいだに厳然と横たわるズレ=マッスル・ディバイドに端を発していることを、そうした状況の責任の一端を担うものとして、天にツバする覚悟でいまさらながら再確認するのを怠らず、他方、著者のような陣営にあってさえも人は「あきらめ」を方法論化したうえで、あたかもソラリゼーションのごとく陰陽反転し、マーキーラインぎりぎりのところを易々と綱渡りしながら、MacOSXとWindows Vista、Adobe社のCSシリーズの動向を現場のそろばん勘定に織り込もうとすると、気がつけばこの先ますます「マッスル・フリー/グラヴィティ・レスな現場の容認」へと転戦していかざるをえないのではないか、などと失礼を承知で下世話な深読みをするそばからこんどは、「予定調和」を金科玉条とし「ほころび」や「瑕疵」といった「キズ」を徹底的に排除して止まない「抑圧=商品流通システム」としての「デザイン/制度」そのものの病理について、僕なりの、ささやかでファナティックな抵抗をこころみる誘惑にあらがうことができずに、思い切ってこっそり白状すると、例えばそれは、近紫外線蛍光灯に照らされただれもいない無菌室のように清潔な空間を連想させる「PP加工」もあざやかな、青ざめたハイマッキンレー四六判Y目135kgの表面に、銀色に光るOLFAカッターの刃をつきたて、一息で長くて深い「裂傷」を負わせ、その、指先でわずかに触知できる手がかりが残された膜面をピンセットで一気に剥いでしまう、というような、版下時代にはだれもが良くやっていた「うす剥ぎ」技術の応用であるにもかかわらず、言葉にすればとても怪しげでセンシュアルなこうした夢想=オブセッションすらも「コレハゲリラナノダ」と自覚的に導入する過程で、「まだまだ青いな(笑)」と幾度も自嘲することでデトックスを施しつつ、こんな職人的手技というか身体的記憶あるいは動物的な妄想によって、本誌のいたるところに見え隠れする著者の「いらだち」がこちらの狙った通りに「イタズラ」として[再]-表出できているかどうかは、これはこれでかなり危なっかしいスレスレな冒険であったことは確かだと思う。(宮城安総)





今、気になる〈カタチ〉14誌 text=山崎浩一
PLANTED2号 PLANTED(毎日新聞社・季刊・880円)
「都会のベランダ園芸愛好家」という新市場を開拓するいとうせいこう編集長のボタニカルライフ・マガジン。総天然色大判ビジュアル誌にこそ相応しいジャンルだ。毎号ADが代わるのも新機軸。植物の種等の付録つき。
easy traveler easy traveler(easyworkers・季刊・750円)
旅行誌風タイトルだが、なんでもアリの生活提言誌。中心スタッフは元『Olive』編集者ら女性。創刊当時の『anan』の硬派記事を思わせる中身の濃い取材読み物主体の、しかもビジュアル誌。『ku:nel』よりずっと刺激的。
Re:s Re:s[りす]』(リトルモア・季刊・680円)
大阪発の「あたらしいふつうを提案する」雑誌。タイトル由来はRe・Standard。水筒やワープロ専用機等の一見アナクロな道具を徹底特集したりする。ザラ紙カラーの色調と感触が心地良い無印良品的新雑誌。
Banca Banca(Banca編集部・不定期刊・525円)
ブラジル大好き人たちが自主発行する「ブラジル音楽と文化の紹介・研究誌」。わずか50ページのA5版だが、内容は濃く熱い。「好き」を雑誌のカタチで表現するならこのサイズとボリュームで充分、と思わせてくれる。
Arne Arne[アルネ](イオグラフィック・季刊・525円)
「かつての『平凡パンチ』の表紙イラストレーター」といってももはやチンプンカンプンな人たちにも読んで欲しい大橋歩の個人的生活雑誌。生活日誌みたいなある種贅沢なミニ雑誌だが、この風合いはブログでは表現できない。
暮しの手帖 暮しの手帖(暮しの手帖社・隔月刊・900円)
戦後日本の民主生活を定点観測してきた「生ける伝説」的雑誌。初代編集長(花森安治)が創ったカタチが継承され続けている点でも希有な存在。まさしく雑誌の中のザ・雑誌。雑誌という浮き草業界にも伝統芸は存在するのだ。
BRAVAgita BRAVAgita[ブラヴァジータ](創工社・季刊・780円)
「大人の女性のLife & carマガジン」と銘打つ女性クルマ雑誌。なるほど、まだこんな手があったか。AD羽良多平吉のセンスとタイポグラフィが全編に炸裂するデザインワークが圧巻。高級絵本として楽しめる。
大人の科学マガジンvol.13投影式万華鏡 大人の科学マガジン(学研・2000円)
「元祖ふろく付マガジン・大人版『科学と学習』」。自家製プラネタリウム、天体望遠鏡、投影式万華鏡といった付録の比重を考えれば、むしろ雑誌のほうが「付録」かも。科学雑誌と付録文化の伝統を未来に継承する貴重な存在。
KING> KING(講談社・月刊・600円)
大日本雄弁会講談社の戦前・国民雑誌『キング』の名を復活させた「日本男子再生!マガジン」は、バブル期の広告満載男性カルチャー誌とアングラ・ストリート系雑誌が合体したような体裁。350ページの中綴じ右開きはちょっと新鮮。
Meets Regional Meets Regional(京阪神エルマガジン社・月刊・420円)
京阪神の地域密着情報誌、というより昔懐かしく「タウン誌」と呼びたい。誌面が醸し出すつくり手と情報源・読者とのこの独特の距離感は、東京の雑誌ではなかなか味わえないもの。東京にもエリア限定のタウン誌が欲しい。
hon・nin創刊号 [本人](太田出版・季刊・950円)
松尾スズキがスーパーバイズ(≒責任編集)する「本人主義」文芸誌。ブログ全盛時代に、単なる私小説を超えた「活字によるリアルな本人の物語」にこだわる。兄弟誌『QJ』とは似て非なる正統派(?)文芸誌の体裁を装う。
SITE ZERO / ZERO SITE創刊準備号 SITE ZERO / ZERO SITE(メディア・デザイン研究所・不定期刊・2000円)
すみません。まだ読んでないので内容は知りませんが、カタチが面白いので選んでみた。どう見てもB6版書籍なのに、あくまでも批評誌。しかもセロファンでパックされ、想像力が挑発される。なんだか懐かしい。あ、ビニ本か。
サッカー批評 サッカー批評(双葉社・季刊・980円)
スターシステムと完全に縁を切った希有のスポーツ誌。しかも季刊なので目先のゲームやイベントに目もくれず、中長期的視野でサッカーの「現在」を俯瞰・分析する最硬派のサッカー文化誌。そのカタチも完全にカルチャー誌だ。
dA dA(田園城市文化事業有限公司・季刊・2500円)
ABCで見つけた台湾の建築雑誌。とにかくそのカタチがラディカルだ。3個の穴が雑誌全体を貫いているのだが、そこから雑誌という質料を持つメディアへの意志のようなものが見えてくる。雑誌は「情報を超える何か」なのだ、と。

プレゼント

この14誌は、2006年9月29日に青山ブックセンター六本木店で山崎さんにセレクトしていただいたもの。これを小冊子にまとめ、同店での刊行記念フェア(10/17-11/15)で配付しました。ご希望の方にプレゼントいたします。オーダーフォームに『雑誌のカタチ小冊子』と明記してお申し込みください。



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