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工作舎40周年ベスト40+10 本は暗い玩具(オブジェ)である

2-生命を考える匣

3.11以降、いまこそ地球上の生きとし生けるものの意味を問い直したい。
生命を考える匣

*写真上段左より
  • 植物の神秘生活 P・トムプキンズ+C・バード/3990円
  • 花の知恵 M・メーテルリンク/1680円
  • 蜜蜂の生活 M・メーテルリンク/2310円
  • 生命潮流 L・ワトソン/2310円
  • 鳥たちの舞うとき 高木仁三郎/1680円
  • 地球生命圏 J・ラヴロック/2520円
  • 生命のニューサイエンス R・シェルドレイク/2310円
  • 感性情報学 原島博+井口征士=監修/2940円
  • カオスの自然学 T・シュベンク/2520円
  • 個体発生と系統発生 S・J・グールド/5775円


    「生命を考える匣」の中身を工作舎スタッフの会話でご案内します。
    植物の神秘生活
    植物の神秘生活

    スタッフA:『植物の神秘生活』は工作舎の本のなかでもずっと人気を保つロングセラーですね。最近では4月に作家の玄侑宗久さんが「今の心の支えになる本」と推薦くださいました。

    スタッフB:朝日新聞書評欄「扉」という小さなコラムでしたが、反響は大きかったですね。帯推薦文の白洲正子さん、よしもとばななさんなど、本当に幅広い方々に支持されてきた本です。植物に知性や感情があることを科学的に実証した本だから、わが意を得たりと思う人も多いのだと思います。

    A:価格も3800円と決して安くはないですし600頁超もの厚さですが、実験例や園芸家の紹介なので、つまみ読みができる点も愛され続けている原因でしょう。装幀もいいんです。カタイ学術書のイメージから離れて、洗練されてます。

    花の知恵
    花の知恵

    B: 植物ものでは『花の知恵』もファンの多い本です。あの『青い鳥』の作家にして、象徴派詩人メーテルリンクが花の知性を香り高い文章で綴ったエッセイです。

    A:『植物の神秘生活』とはうってかわって薄くて手頃な値段なのも魅力。ハンディなのでプレゼントに最適だと思うんです。表紙をはじめ、カラー口絵は荒俣宏さんの博物画で美しい。

    蜜蜂の生活
    蜜蜂の生活

    B:同じメーテルリンクの『蜜蜂の生活』も文章がすばらしい本です。メーテルリンクという人は、この蜜蜂や蟻など女王蜂(蟻)を中心に社会を構成している社会的昆虫を観察してエッセイとして残しています。単なる昆虫学者の観察日記と違って、文学的に昇華されています。例えば、「女王蜂の結婚の秘密を暴いた者はほとんどいない。それは美しい天空の、広大無辺でまばゆいばかりの襞目の中でおこなわれるからだ」

    鳥たちの舞うとき
    鳥たちの舞うとき

    A:自然を題材に扱った小説には『鳥たちの舞うとき』も入れましょうか。作者が科学者の高木仁三郎さんというのがミソ。高木さんが死の直前に口述した最初で最後の小説なんです。脱ダムの寓話なのですが、モデルとなったのは八ツ場ダムらしい。癌で余命半年を宣告された主人公はまさに高木さん。

    B:高木さんは市民科学者として脱原発運動を推進した人。3.11の原発事故で改めてその先見性が話題となり、テレビ・新聞、ネットなどさまざまなメディアで再評価されたのがうれしいですね。

    地球生命圏
    地球生命圏

    A:在野の科学者といえばラヴロックもそうですね。独自にガイア理論を打ち立て認められるようになりました。『地球生命圏』はそのガイア理論をはじめて日本に紹介した本。当時は原題の「ガイア」ではわからないので、サブタイトルにとどめ、『地球生命圏』としたそうです。

    B:ガイア理論は地球を、すべての生命と大気や海洋などの環境とが一体となって機能する「ひとつの生命体」として捉える説ですね。文系、特にエコロジストから熱烈に支持されました。人間は地球の害という視点は、宮崎駿のコミック版『風の谷のナウシカ』クライマックスにも通じるのではないかと思います。ただ残念なことに、ラヴロックは2006年の『ガイアの復讐』で原子力推進を鮮明にしましたが。

    カオスの自然学
    カオスの自然学

    A:地球と生命を考える本では『カオスの自然学』がありますね。水や大気の「流れ」に焦点をあてた本です。カルマン渦や浜辺に残された波の跡など、豊富に収録された写真はモノクロながら迫力があります。

    B:水の流れは渦や螺旋を生み、巻貝の形状やカモシカの角やヒトの三半規管をも生み出した。つまり生命の形態を決定づけたと提唱しています。ゲーテの形態学を継ぐ発想といえるでしょう。「自然を読む」人におすすめです。

    生命潮流
    生命潮流

    A:「流れ」続きで『生命潮流』も、生命を従来にない視点でとらえる本。水の流れではなく、生命を神秘的な姿に形づくる隠れた力、その大いなる流れの隠喩です。工作舎で一番増刷を重ね、刷り部数が多い本ですね。80年代のワトソン・ブームはすごかったそうですから。 惜しくも2008年に亡くなりましたが、翌年に福岡伸一さんの翻訳で『エレファントム』『思考する豚』が刊行され、話題を呼びました。茂木健一郎さんもワトソンの『未知の贈りもの』を紹介してましたし(2009年サンデー毎日)

    B:ある猿が覚えた芋洗いが少しずつ周りに伝わり、一定の閾値(ここでは100匹)を超えると島の猿すべてに一気に伝播したという「100匹目の猿」など、インパクトがあるんです。そのために人気が出、そして批判も受けました。既成の科学が切り捨てた事象をすくい取り、可能性を与えたという点にファンがいるのではないでしょうか。

    生命のニューサイエンス
    生命のニューサイエンス

    A:賛否両論を呼んだのは『生命のニューサイエンス』も同様でしょうね。シェルドレイクの仮説「形態形成場(モルフォジェネティク・フィールド)」は、生物の同一種が同じ形態になるのは「形態形成場」を通じて時空を超えた共鳴現象が起きることによる、また行動パターンにも現れるという説ですね。

    B:たしかに怪しさも感じますが、 シェルドレイクはアメリカPBSのテレビシリーズで、スティーヴン・J・グールドやオリバー・サックスらとともに6人の注目すべき科学者のひとりとしてインタビューされています。97年にはNHK教育テレビでも放送されました。

    個体発生と系統発生
    個体発生と系統発生

    A:名前の挙がったスティーヴン・J・グールドの『個体発生と系統発生』もあります。グールドは科学読み物の名手として人気が高く、2002年に亡くなりましたが、今年8月に最後のエッセイ『ぼくは上陸している』も刊行されましたね。

    B:『ワンダフル・ライフ』などグールドのエッセイが好きという読者にも、『個体発生と系統発生』にチャレンジして欲しいですね。大進化を扱った堂々たる主著で、学界が発生と進化の関係に関心を向けるきっかけになったという本ですから。

    感性情報学
    感性情報学

    A:最後に『感性情報学』。この本は最先端テクノロジーの本だと思っていたので、「生命を考える匣」のラインナップには異質ですね。

    B:人間の感性を再現するヒューマノイドロボットは難しいし、人間の感性にフィットするインターフェースを作るのも至難の業。それだけに人間という生命は複雑で、再現するのは大変かということを知らしめてくれるので、この匣に入れてみました。

    A:やはり「生命を考える匣」と名付けただけあって、何かひとつのメッセージを感じますね。






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