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ライプニッツ通信II

第12回 ライプニッツを初代会長とするアカデミー主催の記念行事

今年はライプニッツ没後300年とあって、ドイツでは多彩なイベントが催されています。ネットでもハノーファー市庁舎で2月まで開催された「ライプニッツ展」をはじめとするハノーファーで企画されている300 以上のイベントの話題が報じられました(T-SITE )。

「第10回国際ライプニッツ会議」(7月18〜23日)をハイライトとするハノーファーの主な学術的なイベントは、同市のG・W・ライプニッツ大学市立ライプニッツ基金講座とG・W・ライプニッツ協会が共同で主催。7月の国際会議には、共催者として日本ライプニッツ協会も、4月2日に大阪大学の春季大会で議論を練った「理性と公共善:現代世界の技術と倫理の諸危機にライプニッツの“予定調和”の哲学はどのように応え得るであろうか」のテーマでシンポジウムをオーガナイズします。

ライプニッツがゾフィー・シャルロッテと哲学談義をかわし、諸学協会を創設して自ら初代会長となったベルリンでは、同協会を継承する「ベルリン=ブランデンブルク諸学アカデミー」が2015/16年度共同研究プロジェクト「ライプニッツ:課題としてのヴィジョン」を推進。すでにいくつかの講演会やセミナーを実施しており、4月下旬には「ユートピアと多様性:ライプニッツの言語プロジェクト」と題した注目のイベントが開催されました。

日本ライプニッツ協会初代会長にして現会長の酒井潔氏も、第2巻『法学・神学・歴史学』の校正などで多忙ななか、パネラーとして招かれて参加。以下、同氏の報告より要点を紹介します。

ベルリン=ブランデンブルク諸学アカデミー主催学会
「ユートピアと多様性:ライプニッツの言語プロジェクト」

会期:2016年4月21・22日
会場:ベルリン諸学アカデミー・アインシュタイン講堂
聴衆:アカデミー会員、ライプニッツ研究者、大学教授、学生、一般市民など約150名

4月21日「言語ユートピアとユートピア言語」
酒井氏はじめ5名(日本、中国、イタリア、ドイツ2)による、哲学・中国思想・言語哲学・科学(数学)史・エスペラントなど多彩な分野を背景とする講演。
ライプニッツの普遍言語計画のみならず、キルヒャーが提案した普遍言語としての漢字(中国語)、エスペラントのような計画言語、1903年にペアノが発明した「語形変化のないラテン語」などが今日のグローバル化の問題にもふれながら論じられる。
酒井潔「人工言語におけるライプニッツの意図」(ドイツ語)論旨:
ライプニッツが音声や語のニュアンスによって人間の心の動きを表現できる自然言語を重視していたことに焦点をあて、「ライプニッツは論理分析の道具としての言語にしか関心がなかった」とするカッシーラーに反駁。ライプニッツは、われわれの言語をすべて人工(記号)言語に還元すべきだとは考えておらず、形而上学さえ自然言語なしには成立しえないとした。物と記号の対応が固定されている人工言語の活用範囲は限られていることを自覚したうえで、人工言語を構想した点が重要と強調。
──在ベルリン・ライプニッツ研究の両雄、ポーザー(哲学史・技術史)、クノープロッホ(数学史)はじめ、前ベルリン編纂所研究員ヘヒト、同現研究員シュトルク、現ミュンスター編纂所所長マイアーオェーザーなど錚々たる諸氏が聴衆として参加しコメントする。

4月22日午前「ワークショップ」
50余名のギムナジウム生徒が招かれ、5名の生徒が「あらゆる言語の最善言語」というテーマについて4名の専門研究者に質問し、率直な議論を交わす。
酒井氏への質問は「感情は普遍(記号)言語によって伝えることができるのか」という、まさに前日の講演テーマの核心。酒井氏も次世代からの直球を喜んで受けとめ、気合いを入れて投げ返したとのこと。

4月22日午後前半「人間精神のはたらきのすばらしき多様性」
哲学・言語学・フランス語学(文学)などの分野の5名による講演。
自然言語を学問的認識の障害とみなすロックと異なり、ライプニッツは、バベルの塔の物語で神の罰とされた言語の相違を「すばらしき多様性」とみなす。
言語は「人間精神の最善の鍵」なので、世界の諸言語を文法や辞書などにより把握する必要があるとする。こうした多様性を重視するライプニッツの言語観は、W・フンボルトの「比較言語学」や近代の記述言語学、さらには言語学習の政治的価値づけなどにも受け継がれ、今日のグローバル化と地域性の相克を調和に転換するヒントをも提供する。

4月22日午後後半「国際共通語(lingua franca)と各国語の多様性」
ベルギー・カトリック大学教授で詩人のヴァン・パレイス教授と、ベルリン自由大学のフランス語学者トゥラヴァント教授との「論争的対話」。司会はドイツ新聞の辣腕記者ミュラー氏。EUで英語が共通語になりつつある現状についての是(前者)非(後者)をめぐり、激論がかわされた。
EU加盟国は現在28か国で24の言語が話され、EUの憲章・法ではいずれの国も言語も平等とうたわれているが、英語を話せる者と話せない者との不平等(若者の就職機会、英語習得のコスト負担の問題など)はひろがるいっぽうである。
フロアからも、「先日、ドイツのガウク大統領が“共通語(英語)の使用による交流促進”を公けの席で表明したことは、明らかにEU精神に反しており、私は抗議の手紙を大統領に送りました」との発言があり、会場の熱気はさらに高まった。……

日本でも幼少期からの英語教育がさかんになりつつある昨今、英語の共通語化の動きは対岸の火事ならぬ切実な問題であり、科学的思考すら日本語ならではの通奏低音がひびく可能性があることを改めて意識したしだいです (十川治江)。



シャルロッテンブルク宮殿の庭
ライプニッツがゾフィー・シャルロッテと哲学談義をかわした
ベルリン、シャルロッテンブルク宮殿の庭






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