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アレクサンドリア図書館の謎[詳細]

目次著者紹介関連図書書評



イタリア気鋭の文献学者が挑む古代史ミステリー

謎解きの鍵は、1000年近くもさかのぼる古代エジプト・ファラオ、
ラムセス2世の葬祭殿にあった・・・!

紀元前3世紀、エジプト・ナイル河口の都市アレクサンドリアに、
古代の知の宝庫とされた図書館があった。
その蔵書数は70万冊ともいわれ、
ヘレニズム期を代表する知識人たちが、ここで学んだ。
ところが、このアレクサンドリア図書館は、
その後、歴史の混乱の中で、忽然と姿を消してしまった。
その消滅の原因は? 実際はどのような建物だったのか? 
アレクサンドリアのどこにあったのか?
イタリア気鋭の文献学者カンフォラが、豊富かつ綿密な文献渉猟をもとに、
消えた古代図書館を現代に蘇らせる。

原著は1987年にイタリアで刊行され、大きな話題を呼び、
その後、英語、ドイツ語、フランス語など各国版があいついで翻訳出版された。



■目次より

第1部 伝説

 第1章 ファラオの墓
 第2章 神聖なる図書館
 第3章 禁じられた町
 第4章 逃亡者
 第5章 世界普遍の図書館
 第6章 「本はネレウスに遺贈する」
 第7章 賢者たちの饗宴
 第8章 ムーサイの檻の中で
 第9章 ライバルの出現
 第10章 アリストテレスの登場と消失
 第11章 第二の訪問者
 第12章 戦争
 第13章 第三の訪問者
 第14章 図書館
 第15章 火災
 第16章 フィロポノスとアムルとの会話

第2部 原典

 第1章 ギボン
 第2章 アムルの対話
 第3章 書き換えられたアリステアス
 第4章 アウルス・ゲリウス
 第5章 セビリャのイシドルス
 第6章 リウィウス
 第7章 推測
 第8章 ヘカタイオス
 第9章 発見できない図書館
 第10章 ラメセスの「ソーマ」
 第11章 カデシュ
 第12章 ストラボンとネレウス
 第13章 図書館の伝説
 第14章 火事
 第15章 エピローグ

訳者あとがき/第1部原注/関連年表/主要人名事典



■著者紹介:ルチャーノ・カンフォラ Luciano Canfora

イタリアの文献学者、批評家。専門はギリシア古典文学。バーリ大学で教鞭を取る一方、国会議員としても活躍している。著作活動は多彩で、専門分野では、『古典主義のイデオロギー』、『前近代社会』、『古典主義の道』、『トゥキュディデス』、『ルクレティウスの生涯』など、また『政党のない共産主義者』、『東欧の危機とイタリア共産党』などの政治的傾向の著作もある。1942生まれ。




■関連図書(表示価格は税別)

[書物の伝説をめぐる]
  • 古代アレクサンドリア図書館  モスタファ・エル=アバディ 中公新書 660円
  • 叢書アレクサンドリア図書館1〜   国文社 5500円〜
         アレクサンドリア図書館に所蔵されていた古典。オウィディウスほか。
  • 本の歴史 「知の再発見」双書  荒俣宏監修 創元社 1400円
  • 古代の書物  F・G・ケニオン 岩波新書 680円
  • 薔薇の名前 上・下  ウンベルト・エーコ 東京創元社
         ご存じ大ベストセラー。中世の図書館を舞台にしたミステリー。
  • 記憶術と書物  中世ヨーロッパの情報文化  メアリー・カラザース 工作舎 8000円
  • 書物から読書へ  R・シャルチエ みすず書房 3000円
  • 読書と読者  R・シャルチエ みすず書房 4500円
  • グーテンベルクの銀河系  M・マクルーハン みすず書房 7500円
  • 本の美術誌  中川素子 工作舎 2500円
    [古代の夢の跡を追う]
  • 甦るアレクサンドリア  J=V・アンプルール 河出書房新社  9500円
  • 古代エジプトの世界  C・フリーマン 原書房 9500円
  • ビジュアル考古学vol.7 クレオパトラ  吉村作治監修 ニュートンプレス 1720円
  • クレオパトラ 「知の再発見」双書  創元社 1359円
  • ラメセス2世 「知の再発見」双書  創元社 1400円
  • 蜃気楼文明  H・トリブッチ 工作舎 2900円
  • 蜃気楼の楽園  H・トリブッチ 工作舎 3800円



  • ■書評

    1999.8.27 図書新聞 宮下志郎氏書評

    紀元前3世紀、アレクサンドリアに巨大な図書館がつくられたという。書物を世界の等比物にしてしまおうという百科全書的なイデーのほぼ最初の試み、これがヘレニズムと証される思想のひとつの側面であった。さまざまな写本が集められた。厳密な校訂作業がおこなわれて、テクストが固定され、図書館に保存された。この都は、今日にまで連綿と続く、西洋文献学の揺籃の地ともいえるのである。たとえばアンドロニコス編の「アリストテレス著作集」、古代最大の文献学者アリスタルコスのホメーロス校訂といった、きわめて重要な作業は、いずれもアレクサンドリア図書館とのかかわりでなされている。あの長編叙事詩『アルゴナウティカ』の著者アポロニウスも、実は二代目館長にほかならず、絢爛豪華なる顔ぶれが、この「ビブリオテケ」の歴史を彩っている。

    ところが、図書館は、忽然と姿を消してしまった。カエサルの時代の紀元前47年、いわゆるアレクサンドリア戦争時に敵の攻撃を防ごうとしてカエサルが港の船舶に放った火のために、図書館は焼失してしまったのか? あるいは7世紀にアラビア人によって征服されるるまで、存続していたのか? そもそも図書館はどこにあったのか? 図書館と、ヘレニズムの中心たるムセイオン(学問の女神ムーサエの聖なる場所)とは、いかなる関係にあったのか?

    未解決の問題が山積みしているという。

    そこで意を決して、こうした謎に挑んだのがイタリアの文献学者カンフォラ教授。手がかりとなる史料は決して不足しているわけではない。プルタルコス、ストラボン、セネカなどにはじまり、後世のアラビア語テクストに至るまで、むしろ豊富ともいえよう。ところが一連のテクストという捜査資料は、相互に矛盾した情報を含んでおり、博引旁証は迷宮入りを招く。そこでカンフォラ教授、テクスト間の矛盾に注目した。そしてきわめて錯綜したテクストの系統樹を解きほぐすのみならず、図書館・ムセイオンに関する記録・情報のネットワークを解明しようとしたのだ。

    全体は二部構成である。まず第一部「伝説」は、歴史物語調というか、フランス語でいえば「レシ」で書かれていて、読者は図書館・ムセイオンの謎に一気にひきずりこまれていく。そして第二部が「原典」であって、先に述べた文献学的な捜査手法によって、問題の核心に迫っていく。

    とはいえ本書は、決して単なる謎解きではない。謎をストレートに追うには学殖がありすぎる著者は、学問的な脱線を辞さず、そうした知的刺激が快い(たとえば巻物を分類する際のsymmigeis,amigeisという二種類の方法について)。

    といった次第で、かなりの本格的推理物というかアカデミックな書物であるから、前菜としてカッスラーの『古代ローマ船の航路をたどれ』(新潮文庫)を注文し、ダーク・ピットの活躍を楽しみながら、アレクサンドリア図書館の謎のあらましを仕込むのが、味わいの作法か?

     

    宮下志郎 (東京大学教授・フランス文学専攻)




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