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ジョルダーノ・ブルーノと
ヘルメス教の伝統[詳細]
Giordano Bruno and the Hermetic Tradition

目次著者紹介関連図書書評


「ヘルメス文書」に始まり、ブルーノが導く
魔術的世界観の隠された系譜

ルネサンスにおけるヘルメス教の復興と終焉

古代エジプトの神官ヘルメス・トリスメギストスが
遺したとされる〈ヘルメス文書ヘルメティカ〉が、
15世紀半ばのフィレンツェでラテン語に翻訳された時、
魔術の復興が始まった。
モーセと同時代を生きたという賢者が語る
魔術的世界観を奉じる〈魔術師マグス〉たちにより
「古代の叡智」がルネサンスの表舞台に立ち現れる。

そして16世紀後半、宗教改革に揺れるヨーロッパを彷徨うジョルダーノ・ブルーノ。 彼もまた〈魔術師マグス〉の一人であり、
ヘルメス教の伝統を体現する存在だった。
ブルーノの足跡を辿りながら、
ルネサンス期における魔術の地下水脈を露にした
故フランセス・イエイツの原点にして代表作、待望の邦訳刊行!




■目次より

第1章 ヘルメス・トリスメギストス

古代エジプトへの回帰とヘルメス文献
ラクタンティウスによるヘルメス・トリスメギストス評価
アウグスティヌスにおるヘルメス・トリスメギストス批判
ヘルメス文献のラテン語訳
ルネサンス期の魔術再興

第2章 フィチーノの『ピマンデル』と『アスクレピウス』

ヘルメス文献の概要
創世記との類似点
『アスクレピウス』の名誉回復

第3章 ヘルメス・トリスメギストスと魔術

ヘルメス文書の魔術的側面
魔術マニュアル『ピカトリクス』
フィチーノと魔術
異教的反動とエジプト趣味

第4章 フィチーノの自然魔術

星辰魔術とネオプラトニズム
フィチーノのプロティノス解釈
霊気理論と護符魔術
ボッティチェッリの《春》
中世魔術とルネサンス魔術の連続性

第5章 ピコ・デッラ・ミランドラとカバラ的魔術

ヘルメス・トリスメギストスとカバラ
自然魔術とカバラ的魔術
カバラの理論的基盤
自然魔術のカバラ的超越
〈セフィロト〉と神秘的な昇天
魔術とキリスト教
ヘルメス教とカバラ
異端者ピコ
教皇アレクサンデル六世による擁護

第6章 偽ディオニュシウスとキリスト教魔術の神学

偽ディオニュシウス的神秘主義
天使たちの世界と否定の神学
ルネサンス期の宗教と魔術の関係

第7章 コルネリウス・アグリッパのルネサンス魔術総覧

アグリッパの通俗的魔術概説書
第一書/自然魔術
第二書/天上的魔術
第三書/儀典的ないし宗教的魔術
アグリッパと神官的魔術

第8章 ルネサンス魔術と科学

ルネサンス期における〈人間〉像の変化
ルネサンス魔術における「数」の重要性
ヘルメス教的カバラ主義者
中心としての太陽
科学的実践への解放

第9章 魔術批判 [1]神学的異議 [2]人文主義的伝統

[1]神学的異議
[2]人文主義者の伝統
宗教改革と魔術

第10章 十六世紀の宗教的ヘルメティズム

フランスのヘルメティズム受容 魔術ぬきのヘルメティズム プロテスタント的ヘルメティズム 宗教的寛容とヘルメティズム パトリッツィの〈新しい哲学〉 イギリスにおける宗教的ヘルメティズム

第11章 ジョルダーノ・ブルーノ——最初のパリ滞在

前提としての古典的記憶術 『イデアの影について』 『キルケーの呪文』 ブルーノのイギリス訪問と隠された使命

第12章 ジョルダーノ・ブルーノのイギリス滞在——ヘルメス教的改革

オックスフォード大学にて
『勝ち誇る野獣の追放』
ブルーノのエジプト主義
『宇宙の乙女』
星座に結びつけられた美徳と悪徳
パリンゲニウスからの影響
星座のヘルメス教的改革
宗教的ヘルメティスト、ブルーノ
ブルーノ、〈太陽の都市〉、〈ユートピア〉

第13章 ジョルダーノ・ブルーノのイギリス滞在——ヘルメス教的哲学

コペルニクス的宇宙と魔術的上昇
ヒエログリフとしてのコペルニクス的宇宙
無限の宇宙、無数の世界
習合の信奉と衒学の嫌悪
宗教的和解の心象画

第14章 ジョルダーノ・ブルーノとカバラ

『天馬ペガソスのカバラ』
ブルーノの魔術研究
「天然自然」な活用
『三○の封印』
エジプト主義とフリーメイソンの前史

第15章 ジョルダーノ・ブルーノ——英雄的狂信家またはエリザベス朝の宮廷人

『英雄的熱狂』 神性に捧げる恋愛詩 〈聖なる愛〉の啓示体験 エリザベス女王崇拝への参加

第16章 ジョルダーノ・ブルーノ——二度目のパリ滞在

〈カトリック同盟〉支配下のパリへ コレージュ・ド・カンブレでの公開討論会 カトリック再改宗の試み

第17章 ジョルダーノ・ブルーノのドイツ滞在

ヴィッテンベルク大学にて フランクフルトでの出版 ブルーノの〈普遍学〉

第18章 ジョルダーノ・ブルーノ——最後の刊行本

『図像、記号、イデアの構成について』 魔術的図像による宇宙の内面化

第19章 ジョルダーノ・ブルーノ——イタリア帰国

ヴェネツィアでの投獄 ナヴァール王アンリへの期待 異端審問始まる 異端判決の根拠 シェイクスピア、ガリレオへの影響

第20章 ジョルダーノ・ブルーノとトンマーゾ・カンパネッラ

ブルーノを継ぐ者
カラブリア反乱
『太陽の都市』
教皇のための魔術儀式
カンパネッラの〈神学大全〉
カンパネッラの自然哲学
カンパネッラの政治思想
教皇庁との関係
フランス王国への接近
ブルーノとカンパネッラの対比
最後の〈魔術師〉

第21章 ヘルメス・トリスメギストスの年代同定以降

ヘルメス文献への死刑宣告
復古的ヘルメス主義者——ロバート・フラッド
復古的ヘルメス主義者——薔薇十字団
復古的ヘルメス主義者——アタナシウス・キルヒャー
ケンブリッジ・プラトン派とカゾボンによる〈ヘルメス文書〉の年代同定

第22章 ヘルメス・トリスメギストスとフラッド論争

メルセンヌのルネサンス魔術批判
フラッドの反撃
フラッド対ケプラー
薔薇十字団の影
ヘルメティズムと科学革命
ジョルダーノ・ブルーノの真実
ヘルメティズム的法悦としての〈デカルトの夢〉

原註
訳注
解説 ルネサンス的均衡における魔術の内化  前野佳彦



■著者紹介:フランセス・イエイツ Frances A.Yates

1899年、イギリスのポーツマスに生まれる。ロンドン大学で学び、1944年からは同大学付属ワールブルク研究所の一員として、イタリア、フランス、イギリスのルネサンスならびにジョルダーノ・ブルーノ研究に従事。ルネサンスの新プラトン主義に底流するヘルメス = カバラ的伝統に注目し、図像学的方法を駆使して、「魔術とカバラと錬金術」を視座としたルネサンス精神史の新しい展望を拓く。1967年以降、ワールブルク研究所名誉研究員、英国学士院会員。1981年死去。
邦訳書に、『薔薇十字の覚醒』(工作舎)、『世界劇場』『魔術的ルネサンス』『シェイクスピア最後の夢』(以上、晶文社)、『記憶術』(水声社)、『星の処女神エリザベス女王』『星の処女神とガリアのヘラクレス』(以上、東海大学出版会)、『十六世紀フランスのアカデミー』『ヴァロア・タピスリーの謎』(平凡社)がある。

■訳者紹介:前野佳彦(まえの・よしひこ)

1953年、福岡県生まれ。1974年東京大学法学部中退、1979年同大学院人文科学研究科修士課程修了、1980〜84年シュトゥットガルト大学・ロンドン大学付属ワールブルク研究所に留学。1984年シュトゥットガルト大学哲学部博士学位(Dr.phil.)取得。現在、博士後期課程大学院生を中心に〈文化記号塾〉主宰(https://bunkakigoujyuku.org/index.asp)。著書にDer Begriff der Kultur bei Warburg, Nietzsche und Burckhardt(博士論文、Konigstein/Ts., Hain Verlag bei Athenaum, 1985)、『東洋的専制と疎外』(私家版)、『言語記号系と主体』(言叢社)、『散歩の文化学1』『散歩の文化学2』『事件の現象学1』『事件の現象学2』(法政大学出版局)、訳書にヴァルター・ブルケルト『ホモ・ネカーンス』(法政大学出版局)がある。




■関連図書(表示価格は税別)

  • 薔薇十字の覚醒  フランセス・イエイツ 工作舎 3800円
  • ルネサンスのエロスと魔術  ヨアン・P・クリアーノ 工作舎 4800円
  • 記憶術と書物  メアリー・カラザース 工作舎 8000円
  • キルヒャーの世界図鑑  G・ゴドウィン 工作舎 2900円
  • バロックの神秘  E・ハルニッシュフェガー 工作舎 8000円



  • ■書評

    みすず2012年1・2月合併号 読書アンケート特集 大野英士氏
    ルネサンス研究に数々の新機軸をもたらしてきたワールブルク学派の女性研究者のまさに要の位置にある大著の翻訳。マルシリオ・フィチーノがヘルメス・トリスメギストスの『ヘルメス選集』をコシモ・デ・メディチのために訳出したのは1460年。ルネサンスとは、グノーシス=新プラトン主義にもとづく古代「魔術」の「復興」に他ならなかった。イエイツは、フィチーノ、コルネリウス・アグリッパ、ジョルダーノ・ブルーノに至るルネサンス魔術の栄光と衰退を綿密な考証により鮮やかに浮きたたせる

    2011.11 『数学者の哲学+哲学者の数学』(砂田利一+長岡亮介氏+野家啓一著/東京図書)
    野家 1964年にフランセス・イエイツというイギリスの女性研究者が『ジョルダーノ・ブルーノとヘルメス教の伝統』という分厚い本を書いて、—2010年にようやく翻訳が出ました—それが科学史の中でのブルーノの位置を今までの解釈と全く変えていました。これまでは、ブルーノはコペルニクスの地動説を支持して、しかも無限宇宙を唱え、火あぶりにまでなったけれども自説を曲げなかった近代科学の英雄みたいなところがありました。ところが実は、ブルーノの思想は、極めて古い神秘宗教に基礎を置いた宇宙論だったということを、イエイツは非常に詳細な文献考証で明らかにしたのです。それ以来、ルネッサンス研究はだいぶ変わりました。「近代の曙」からヘルメス主義やカバラといった魔術的宗教が支配する時代というルネサンス像の転換です。それに伴い、ブルーノも近代科学の殉教者からヘルメス主義を奉ずる「魔術師」として描き直されています。

    2010.12.26 読売新聞「2010年の3冊」野家啓一氏、前田耕作氏
    読書委員の科学哲学者・東北大学教授の野家啓一氏と、アジア文化史家、和光大学名誉教授の前田耕作氏が「2010年の3冊」に本書を挙げてくださいました。
    野家啓一氏は「ルネサンス期の思想を《ヘルメス教》という魔術的世界観から読み解き、思想史・科学史の相貌を一変させた問題的提起の書」と。
    方や前田耕作氏は「久しく待望されたイエイツの主著が手堅い翻訳で伝記と同時に出版されて嬉しい」。

    2010.12.26 東京新聞「私の3冊」金森修氏
    東京新聞「私の3冊」は各界で活躍する21名へのアンケート。その中で、東京大学教授の金森修氏が挙げてくださいました。 「16世紀ヨーロッパは近代科学の黎明を告げるとともに、魔術や妖術が生気を帯びた時代でもあった。その混沌とした知的風土を鮮やかに浮かび上がらせる」

    2010.9.11号 図書新聞 谷川渥氏書評
    正真正銘の魔術師、ジョルダーノ・ブルーノ
      イエイツ女史の経歴の特異性も示唆

    フランセス・イエイツといえば、すでに『記憶術』、『世界劇場』、『薔薇十字の覚醒』、『魔術的ルネサンス』などの邦訳を通して、その<魔術>を中核に据えたルネサンス研究によって比類ない歴史家としての相貌をわが国にも刻印しているが、本書はこれらの著作以前に書かれ、これらの研究の基点とも豊饒な母胎ともなった驚くべき大著である。
    初版刊行は1964年。女史65歳の折である。ということは、今挙げた著作群は、すべて60代後半から80くらいまでの間に書かれたわけで、それだけでも女史の特異性を示唆しているといわなければならないが、いずれにせよそうした息の長さ、持続力、衰えぬ力強さは、わが国ではまず例を見ないものだ。
    本書は、ジョルダーノ・ブルーノをヘルメティズムの伝統の中に置くことを目的とする。ブルーノといえば、コペルニクスの地動説を否認するよりは死を選んだ科学的確信の英雄、近代科学の殉教者であり、中世的アリストテレス主義の束縛を破って近代世界の到来を告知した先駆者である、といった広く流布したイメージがある。本書は、そうした通俗的なブルーノ像を破壊し、彼が「エジプト」とヘルメティズム的理想に心を奪われていた正真正銘の魔術師であることを、おびただしい資料の読解によって明らかにしようとする。 図書新聞サイトへ >>>

    2010.8.29 読売新聞 野家啓一氏書評
    豊かなルネサンス精神
    文字通り「待望の」翻訳である。1964年に刊行された原著は、近代の曙という従来のルネサンス像を一変させ、それをヘルメス主義とカバラという魔術的宗教が支配する時代として描き出し、思想史や科学史の領域に甚大な影響を及ぼした。(中略)
    ルネサンスの熱狂的なヘルメス信仰は、一種のアナクロニズム(年代錯誤)に依拠していたのである。この発見こそ、後の科学革命につながる「ルネサンスと近代を分かつ分水嶺」にほかならなかった。
    だが、本書が活写するのは、このアナクロニズムがもたらした宗教思想の豊饒性という逆説であり、魔術と科学が矛盾なく両立していたルネサンス精神の混沌と不可思議なのである。博引旁証によって鎧われた碩学の大著を単独で訳出された訳者の労に敬意を表したい。 全文は読売新聞サイトへ >>>




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