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分節幻想 [詳細]

目次著者紹介関連図書書評



アタマの起源

脊椎動物とは何か?
頭とは何か?
われわれは何ものか?

頭部分節という考えは幻想として生まれた。
分節性への指向は、18世紀末に産声を上げた形態学の始まりであったと同時に、21世紀を迎えたいま、進化や発生という時間プロセスの本質をえぐり、それを突き動かす分子機構を理解するために解かねばならない難題として、今日でも未解決の多くの謎をわれわれに突きつけている。




■目次

 はじめに——地上に降り立つイデア

第1章 観念論の時代

 ゲーテからオーウェンへ
   「羊」をめぐる思考実験と椎骨説の誕生/メタメリズムとメタモルフォーゼ
   構造主義的形態学/原型と祖先

 オーウェン
   原動物/原型と相同性/原型の内容
   デフォルトとしての椎骨/原型的構成

 原型と相同性、グレードとクレード
   【コラム】頭部分節性事始め/【注】

第2章 比較発生学と比較解剖学の時代
——比較発生学の興隆からグッドリッチまで

   脊椎動物の咽頭胚/原型と発生

 先験論的比較発生学
   メッケルとセール/ラトケ、ベーア、ライヘルト

 頭部分節の否定、そして「前成頭蓋発生学」の誕生
   ハクスレーの原型/原型から祖先へ[椎骨説の否定]
   ハクスレーの誤り/椎骨説の生還
   【コラム】パーカーと軟骨頭蓋解剖学

 分節の起源
   分節と体腔/バルフォー、マスターマン、セジウィック

 ヘッケル

 ゲーゲンバウアーと比較解剖学
   脊柱部分と非脊柱部分・脳神経と脊髄神経/脳神経の概観
   末梢神経系と頭部分節性/頭蓋[新生部分と変形部分]

 バルフォーと頭部分節
   頭腔/サメ以外

 ヴァン=ヴィージェ——体性と臓性
   【コラム】組織学研究法

 プラットの小胞と頭部分節の数
   前頭腔の謎

 フロリープ——頭部と体幹の境界
   後頭骨/頭部と体幹の境界

 ガウプと軟骨頭蓋の比較解剖学
   耳小骨/神経頭蓋

 後頭骨のホメオティックシフト——フュールブリンガーからグッドリッチへ
   分節番号と相同性/フュールブリンガー/トランスポジション

 鰓と頭腔
   鰓の進化/メタメリズムと鰓

 グッドリッチと頭部分節説の二〇世紀的結論

 誰が分節論者か?
   【注】

第3章 もう一つの流れ、神経系の分節理論

 神経分節と頭部分節性
   末梢神経/神経管

 神経分節
   ローシーとヒル

 ジョンストン
   ジョンストンのモデル

 ニールと神経分節
   ニールと神経分節の頭部分節論的考察

 ベルグクイストと多角形モデル

 二〇世紀末のロンボメア論争
   菱脳分節と咽頭弓/菱脳研究の限界と前脳/神経分節の統合的理解

 もう一つの前脳モデル——スペイン学派と日米の共同研究
   神経管の前端/【注】

第4章 グッドリッチ以降——混迷の時代

 円口類の位置と意義
   系統関係/円口類の原始形質/中胚葉
   【コラム】理想形態としてのヤツメウナギ

 ド=ビアと前成頭蓋博物館
   ヘテロクロニー論/口と梁軟骨

 ゼヴェルツォッフの系統進化的ヴィジョン
   ゼヴェルツォッフのヘテロクロニー論と頭部問題
   無頭類段階とグレード的進化/第二のグレード、原有頭動物
   内鰓類と外鰓類の分岐[グレード的進化] /顎口類の進化

 アリスと梁軟骨

 ポルトマンと頭蓋の一次構築プラン

 ジョリー——ゼヴェルツォッフを継ぐもの
   神経頭蓋

 ローマーと二重分節説?
   体性と臓性/進化

 スウェーデン学派——ジャーヴィックとビエリング
   スウェーデンの比較形態学/板鰓類発生学と頭部分節性
   皮骨頭蓋/内臓骨格と脳神経/哺乳類の中耳骨

 形態学の暗黒時代とソミトメアの夢
   ソミトメアをめぐる議論/ソミトメアの評価

 頭腔と頭部中胚葉の分節性
   頭部中胚葉分節?/頭腔とは何か?/前頭腔とは?
   最前端の頭腔と索前板についての覚え書き
   シビレエイにまつわる謎/トラザメ

 遺伝子発現
   中胚葉に発現する遺伝子/頭部に体節はあるか/【注】

第5章 実験発生学の時代

   批判試論/問題

 個体発生プロセスとボディプラン理解
   ランゲ、オルトマン、シュタルク[実験発生学的センスによる頭部の理解]

 形態発生的拘束と分節性
   ソミトメリズム[相同性の創出]

 脊椎動物の頭部分節性を発生機構的に見直す
   菱脳分節/咽頭嚢

 頭部神経堤細胞をめぐる実験発生学と頭部分節性
   両生類/ル=ドワランの影響力/位置的特異化と分節性
   発生的誘導作用としてのエピジェネシスとエピジェネティックス
   脊索頭蓋と索前頭蓋/ノーデンと頭部形成
   鰓弓骨格のメタモルフォーゼとは/頭部神経堤と「エラ」
   実験発生学と分子遺伝学
   種ごとに異なる形態/神経堤の可塑性と自律的分化能
   内胚葉/腹側化シグナルとDlxコード

 皮骨頭蓋の謎
   相同性の問題/皮骨要素の実験発生学/蝶形骨の組成/【注】

第6章 進化発生学の興隆

 進化発生学とは何か
   興隆の背景/進化発生学のツールにまつわる問題
   実験発生学と遺伝学/集団遺伝学的インプットと展望

   現代進化発生学批判試論——ホメオシスとHox
   なぜHoxコードか?/トランスポジション、トランスフォーメーション
   ベイトソン/ホメオティックセレクター遺伝子
   位置価決定システムとしてのHoxコード
   メタモルフォーゼ遺伝子/脊柱を特異化するHox遺伝子

 脊椎動物の起源という問題意識——ガスケルとパッテン
   歴史的背景/仰向けになる祖先/ガスケル/パッテン

 ガンスとノースカットと「新しい頭」
   頭部神経堤とプラコード/神経堤とプラコードの進化

 ナメクジウオとの比較
   ナメクジウオとアンモシーテス幼生/分節的動物としてのナメクジウオ
   頭部と側憩室/ソミトメリズムとブランキオメリズム、背腹軸上の分極
   筋節の比較/進化のシナリオ

   半索動物……ギボシムシ——あるいは第二のナメクジウオ
   背景/脊索動物をもたらしたギボシムシ/ギボシムシの進化発生研究
   ギボシムシ研究の意義と分節性/コ・オプション

 背腹反転
   分子的背景とボディプラン/ギボシムシの示すもの/背腹軸と神経系

 そして、脊索は

 進化を遡る——前口動物
   分類と系統/環形動物/細胞型のプロファイリングと相同性、ボディプラン
   反復説と胚葉説、再び/脊椎動物との類似性/相同か、コ・オプションか
   【コラム】裏と表

 幻想としてのウルバイラテリア
   【コラム】比較形態学体験

 類似した分節

 脊椎動物の作り方に関する謎——背腹反転再び
   【コラム】脊椎動物の起源はヒモムシか?

 祖先的胚形態
   中枢神経/中胚葉

 残された問題
   相同性と分節/側憩室、再び

 相同性をめぐる考察、再び
   細胞型/遺伝子/ファイロタイプと相互作用する相同的単位
   ツリー状システム的考察の陥穽/先験論的認識論を越えて

 結語——ボディプランの進化的ダイナミズムと由緒正しい分節
   相同性の性質/ファイロタイプ再考/【注】

追補 試論
——形態的相同性を記述するための、網目状円環モデル化の試み

 ——反復説の不可能性について
   1|相同性/2|形態的相同性の特殊事情/3|反復
   4|形態の差別化

 円環としての相同性
   1|概念群[文脈の並列化の試み]
   2|発生空間とゲノム空間をとり込んだ相同性のモデル化
   3|円環/4|相互作用とボディプラン進化

 要約と結論
   【注】

 引用・参考文献
 【索引】事項索引/著作・論文・雑誌索引/主要人名索引

 浪漫の行方——あとがきに代えて



■著者紹介:倉谷 滋(くらたに・しげる)

1958年、大阪府出身。京都大学大学院博士課程修了、理学博士。米国ジョージア大学、ベイラー医科大学への留学の後、熊本大学医学助教授、岡山大学理学部教授を経て、現在、理化学研究所主任研究員。主な研究テーマは、「脊椎動物頭部の起源と進化」、「カメの甲をもたらした発生プログラムの進化」、「脊椎動物筋骨格系の進化」など。小学校1年生のときに出会った古生物の図鑑が、脊椎動物の起源に関心を持つきっかけとなった。
主な編著書に『神経堤細胞—脊椎動物のボディプランを支えるもの』(共著)東京大学出版会(1997)、『かたちの進化の設計図』岩波書店(1997)、『動物進化形態学』東京大学出版会(2004)、『発生と進化』(共著)岩波書店(2004)、『個体発生は進化をくりかえすのか』岩波書店(2005)、『動物の形態進化のメカニズム』(共編)培風館(2007)、『生物のなかの時間』(共著)PHP研究所(2011)、『岩波 生物学辞典 第5版』(共編)岩波書店(2013)、『形態学 形づくりにみる動物進化のシナリオ』丸善出版(2015)、訳書にB・K・ホール『進化発生学—ボディプランと動物の起源』工作舎(2001)がある。近著に日本の特撮映画に登場する怪獣を進化発生学の視点から論じた『ゴジラ幻論』がある。




■関連図書(表示価格は税別)

  • ゴジラ幻論  日本産怪獣類の一般と個別の博物誌  倉谷 滋 2000円
  • 個体発生と系統発生  進化の観念史と発生学の最前線 スティーヴン・J・グールド 5500円
  • 動物の発育と進化 時間がつくる生命の形 ケネス・J・マクナマラ 4800円
  • 生物への周期律 自然界のリズムと進化 アントニオ・リマ=デ=ファリア 4800円
  • ヘッケルと進化の夢  一元論、エコロジー、系統樹 佐藤恵子 3200円
  • ダーウィン  世界を変えたナチュラリストの生涯 A・デズモンド+J・ムーア 18000円



  • ■書評

    「みすず」2017年読書アンケート 松家仁之氏
    動物のかたちをめぐる認識の変遷
    …本書の狙いは、動物のかたちを織りなすパターンを記述せんとする科学の営みの中で生み出されてきたイメージ(幻想)を収集し、それらが時代を通じていかに変遷してきたかを描き出す点にある。…

    ゲーテ自然科学の集い「モルフォロギア」 高岡佑介氏(思想史)評
    …「研究者がどれほど過去の教養の反復でしかものをいわないことを知って驚いた」著者の、「つまるところ科学とは、自然と人間の間に成立する相互作用の一つなのである」という述懐を読めば、この仕事になぜ私がつよく惹かれたのかの理由がはっきりする。たいへんな労作であり、著者の今後の研究、著作活動から目が離せない。

    日経サイエンス2017年4月号 三中信宏氏評
    「観念は細部に宿る」比較形態学の格闘の歴史
    …この分厚い本のもつ魅力は、頭部分節論を軸にして、ほぼ2世紀にわたる比較形態学の歴史を縦横無尽に飛びまわる著者のフットワークの軽さにある。過去の膨大な文献資料をひもときつつ、そして著者を含めていま活躍中の研究者たちの業績をおりこみつつ、細部から大局を論じてはまた細部に分け入るスタイルは他に類を見ない力仕事である。かの古生物学者スティーヴン・ジェイ・グールド亡きいま、こういうふうに大部の専門書をまとめ上げられる研究者はごく少数派だろう。…

    2016.12.11 毎日新聞 養老孟司氏評
    生物と形態を考えたい人の必読書
    八百六十頁という大著である。めくってみれば、すぐにわかるが、動物それも胎児の図が多い。専門書ともいえるが、扱っている主題はきわめて一般的なものである。動物の体制(ボディプラン)の根本はなにか、という問いだからである。ある基本的な形があって、すべての動物の体制はそこから導かれる。これを古くは原型と呼んだ。…
    生物について、さらにはその形態について、考えたい人には本書は必読である。ところどころに息抜きのコラムが入る。こういう筆致で書ける人だから、さらなる健筆を期待したい。[全文は毎日新聞サイトへ]






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