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コルテスの海[詳細]
この本は、生物学者が何をするのではなく、何であるかを書いている。
スタインベックは、ある種の科学者たちが感じてはいるが語る気になれないもの、
すなわち森羅万象を包含した自然界の多面的、重層的なイメージを、みごとに描き出している。
そのような科学者は、海からヒトデを拾い上げると、
分子から形而上学に至るまで、他者が決して見つけることのない特性をヒトデの中に見出す。

世界大戦の暗雲が立ち込める中で、
無脊椎動物を追って旅した科学者と小説家の寓話は、
現代では海洋生物学者の、さらには研究方法で古典的海洋生物学を模倣するあらゆる
学問分野の、聖典ともいうべき存在となっている。

Jhon Janovy,Jr.゛Vermilion Sea″
より


■目次より

コルテスの海 航海日誌 ジョン・スタインベック+エド・リケッツ
  はじめに
1 ウェスタン・フライヤー号
2 イデアとしての舟
3 ハンセン印の海牛野郎
4 大蛇・海・月
5 航海術
6 カリフォルニア湾へ MARCH 12
7 生命の海 MARCH 16
8 最初の陸にて MARCH 17
9 酒場の出来事
10 サンゴ礁の動物相 MARCH 18
11 インディアンに会う MARCH 20
12 なつかしい街ラ・パス MARCH 22
13 暗く小さなカィオ島 MARCH 23
14 復活祭の日曜日 MARCH 24
15 夜行性の生き物たち
16 山へ狩猟に
17 豊かな教科書 MARCH 27
18 水槽のイソギンチャク MARCH 28
19 ダーウィンを想う MARCH 29
20 干潟の軟体動物 MARCH 30
21 採集と観察の意味 MARCH 31
22 アンヘレス湾にて APRIL 1
23 尽きせぬ島の魅力 APRIL 2
24 アディオス、ティビュローン、アミーゴ APRIL 3
25 生きるものたちの掟 APRIL 22
26 グァイマスへ APRIL 5
27 月の入江で APRIL 8
28 最後の採集 APRIL 11
29 旅の終り APRIL 13




■著者紹介:ジョン・スタインベック John Steinbeck 1902-68

カリフォルニア州サリーナスに生まれ育つ。スタンフォード大学で歴史や文学を学ぶかたわら生物学、とくに海洋生物学に興味をいだく。1930年代はじめにモントレイの生物学者エド・リケッツと親交を深め、40年春にカリフォルニア湾の生物採集の航海に出発。その記録として共著『コルテスの海』(1941)が出版された。本書は、その共著に、エド・リケッツの不慮の死を悼むスタインベックの序文を加えた版(1951)の翻訳。ほかにカリフォルニアを舞台にした作品は『二十日鼠と人間』(1937)、『キャナリー・ロウ』(1945)、『エデンの東』(1952)など数多くある。
ジェームス・ディーン主演で映画化された『エデンの東』は世界的に知られ、もう一つの代表作がアメリカ文化の原型として生き続ける『怒りの葡萄』(1939)。1957年、東京で開催された国際ペン大会に来賓として来日。1962年にはノーベル文学賞を受賞。


■関連図書

7/10(セブンテンス)  海の自然誌 J・ハミルトン=パターソン 2900円
夜の国  心の森羅万象をめぐって L・アイズリー 2500円
星投げびと   コスタベルの浜辺から L・アイズリー 2600円
周期律  元素追想  P・レーヴィ 2500円
五つの感覚  イタロ・カルヴィーノ追想 F・ゴンザレス = クルッシ 2000円
夜の魂  天文学逍遙 C・レイモ 2000円
星界小品集  ゼンマイ仕掛けのスペースオペラ P・シェーアバルト 1600円
花の知恵  小さな命の神秘世界 M・メーテルリンク 1600円
蜜蜂の生活  巣の精神に生きる M・メーテルリンク 2200円
白蟻の生活  人間への予言的社会 M・メーテルリンク 1800円
蟻の生活  聖なる生命宇宙 M・メーテルリンク 1900円
植物の神秘生活  緑の賢者たちの新しい博物誌 P・トムプキンズ+C・バード 3800円
生命潮流   来るべきものの予感 L・ワトソン 2200円
イルカの夢時間  異種間コミュニケーションへの招待 J・ノルマン 1900円





■書評

1993.1.14 日刊ゲンダイ 狐氏書評
太陽に励まされた思想の航跡
 ときに38歳。のちの世界的な作家ジョン・スタインベックが、本書では若いきらめきを躍らせてすがすがしい。スポーティングで、即発性のある思考は、さながら海の光を反射するかのように明快だ。
 1940年、親友の海洋生物学者エド・リケッツを含め、6人を誘ってクルーを組んだ。海洋生物採集のため、カリフォルニア湾を一周する船旅である。その航海日誌をリケッツと一緒に書き、のちに事故死したリケッツを回想する序文を加えて本書をつくった。
 この序文に書かれたリケッツの特異な肖像が、あとにつづく航海日誌のユニークさを予告しているようなものだ。女を愛し、酒を愛し、動物を愛し、グレゴリオ聖歌と李白と杜甫を愛したこの科学者こそ、青年スタインベックにとって思想的に煽り合い、深め合う友だった。学究的な立場からイソギンチャクを「味見」して舌をひどく刺され、24時間も口を閉じることができない。それでも平然としているのが学者リケッツであり、その意気に感ずるのが小説家スタインベックである。6週間にわたる周航の旅が野蛮なほど健康なことに不思議はない。
 山ほどのビールと山ほどの魚を消化しながらの生物採集の記録は、同時に、太陽の光に鍛えられ、励まされる思想の航路となってここにある。海の底には人間精神の深奥をのぞき、微生物には大宇宙との連環をとらえ、朝の明るい浜辺でダーウィンのことを思う。そうした思考そのものが海へのダイビングのように軽快で躍動的だ。
 こんなに光に満ちたスタインベックがあった、と思わせる本邦初訳版。

アニマ 1993.3月号 秋道智彌氏
「ジョン・スタインベックの名を知る人はおおい。だが、かれが海洋生物学にも精通していたことを知る人は少ない。……
 本書の第二部がスタインベックの宇宙論であるとすれば、前半は、エドという人物をめぐる人生論といえるだろう。1940年代のアメリカ社会、女性、酒、音楽、この部分は、カリフォルニアの航海にひたる気分とはいささか趣の異なる、それでいてじつにたのしい読み物となっている。
 好きでたまらない生物採集をしただけ、というスタインベックの吐露は、なにかにつけてお題目をつけたがる現代人には、ちょっぴり辛口の薬となっている。
 スタインベックがチャーターしたウエスタン・フライヤー号は、春先に漁期を終えたばかりのイワシ巾着網漁船であった。訳者あとがきにもあるとおり、その後、カリフォルニアのイワシ漁は乱獲によって没落する。幸運な時期であったといわざるをえない。
 あの不幸な戦争がなかったら、そしてエドの死(1948年)がなかったら、スタインベックとエドは生物採集の旅をアリューシャン列島に向けてはじめていたはずだった。
 かがやく名著とは、まさにこうした歴史性をもつ書ではなかったか。本書が、21世紀にむけてあらたな野外生物学を目指す若い読者に読まれることを念願したい」



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