書物の灰燼かいじんに抗して[詳細]
エッセーとは文化と呼ばれる自然への
もっとも先鋭的な批評行為となりうるだろう。
大学院で比較文学を学び、
スウィフトの空想旅行記をめぐる
学位論文を提出したというのに、わたしは長い間、
この本来の専攻である分野について書いた論文エッセーの類を
纏めることに怠惰であった。
読者がここに手にされるのは、脱線と逸脱を重ねた
著者がこの20年の間に執筆してきた、
比較文学についての紙(ペーパー)である。
■目次 |
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1 帰郷の苦悶
01 熱病 タルコフスキー02 ノスタルジアの来歴
03 廃墟と記念碑
04 黄金時代
05 時間の始原へ
06 倒錯と悲惨
07 隠遁と偏在
2 死の領分
01 死の猶予02 濫唱と回帰 カントル
03 惨劇の表層 ウォーホルとグリナウェイ
04 鎮魂と再生 キーファ
05 Kの連鎖
3 変容する琵琶法師
01 楽師の冒険 アルトー02 異形の来歴
03 息と文字
04 盲人の体験
4 パゾリーニ、封印を解く
01 灰燼の詩人02 パウンドとパゾリーニ
5 怒りと響き
01 白痴の独白 フォークナー02 映画と文学
03 ジャンルの往還 パゾリーニとデュラス
04 非改宗 センベーヌ
6 泉と同じ数だけの聖者
01 ル・クレジオと砂漠02 水の眼
03 雲の人々
7 黒いホメロス、ホメロスの不在
01 オデュッセウスの諸相02 カリブ海のホメロス ウォルコット
03 廃墟と叙事詩 ダルウィーシュ
8 書物の灰燼に抗して
01 燃え崩れた図書館02 方法としてのエッセー
03 短く書く者
04 書くことの無根拠
註
あとがき
■関連図書(表示価格は税別) |
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■関連情報 |
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●2011.4.28 三省堂書店神保町本店 四方田犬彦さんトークショー開催
本書刊行を記念して、4/28(木)18:30〜三省堂書店神保町本店にて著者トークショーを開催します。テーマは「書くことの灰燼」。三省堂書店神保町本店にて『書物の灰燼に抗して』をお買い上げまたは電話にてご予約のお客様、先着100名様に4階レジカウンターにて整理券を配布中。トークショー終了後にサイン会も予定(サインは『書物の灰燼に抗して』のみ対象)。どうぞご参加ください。 四方田犬彦さんトークショー「書くことの灰燼」【日時】2011.4.28(木) 開場:18:00〜 開演:18:30〜
【会場】三省堂書店神保町本店 8階特設会場
※8階特設会場へは、正面入口(靖国通り)側エレベーターにてご来場ください。
【お問い合わせ】 三省堂書店神保町本店 4階 03-3233-3312(代) 10: 00〜20:00
三省堂書店サイトヘ >>>
■書評 |
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●2011.8.13号 図書新聞 郷原佳似氏
廃墟に踏みとどまる亡命者たち
きわめて正統な手続きを踏んで各々の芸術を歴史のなかに位置づける
…読みながら幾度となく、「世紀末」とか「終末」といった語彙が心中に去来した。そしてそれが、震災後の今という時代の「気分」に合っていたと言えば、不謹慎に思われるだろうか。しかしたとえば、ユートピア思想の流れを辿る文脈で登場する次のような一節を読むとき、そこで語られているのがまさしく「現在」の「われわれ」であることに気づかずにはいられない。「そして現在、つい今しがたまでわれわれを取り囲んでいたのは、分子生物学と核の開発に代表されるテクノロジーが人類によりよき未来を約束するというイデオロギーである」。
…四方田犬彦の並外れた点は、このように領域も国境も自在に横断して亡命者たちの跡を追いながら、博覧強記の書き手にありがちなように読者を置きざりにすることがけっしてなく、きわめて正統な手続きを踏んで各々の芸術を歴史のなかに位置づけてゆくことである。「ノスタルジア」にせよ「異形」にせよ、まず始めにその「来歴」が丹念に辿られ、しかる後に初めてその現代的形象が俎上に載せられる。廃墟に踏みとどまる亡命者の強靭さと誠実さは、それを浮き彫りにする著者の筆にも宿っているのである。
●2011.7.17 西日本新聞
普遍的な知への懐疑が一般化している現在、断片的な思考が自由につながるエッセーの形式こそ求められる知の形だと著者は言う。それを自ら実践するような比較文学論集。ロシア映画からノスタルジーの定義の由来と歴史的な広がりを探り、「耳なし芳一」フランス語版から言語と身体の思想的な関係を考察する。…
●2011.5.20 週刊金曜日
20年という年月をかけて作られた著者の初の比較文学論集。膨大な知識量と分析力に圧倒されるが、根底には文化への敬意が流れている。