メンター・チェーン[詳細]
Apprentice to Genius
科学エリートの系譜の秘密
舞台は、コロナ禍の今、誰もが一度は耳にしたことがある アメリカの最重要研究拠点、 NIH(米国国立衛生研究所)とジョンズ・ホプキンス大学。 ここでメンター・チェーンでつながったエリート科学者たちが、 どのようにしてブレイクスルーを生み出したかを描き出す。
◎第二次世界大戦中のマラリア特効薬開発をきっかけに戦後、急速に発展した薬理学、そして新たに登場した神経科学のあゆみをめぐる読み物としても、非常に読み応えがある。
◎ノーベル賞/ラスカー賞受賞を目指す研究活動の裏側で、いったいどのような駆け引きがあったのかなど、師弟間の葛藤の裏事情を知ることができる。
◎ラスカー賞受賞をはずされた女性研究者をめぐる一連のエピソードを通して、科学界における女性の立場を浮き彫りにする。
◎科学エリートを輩出するメンター・チェーンでは、何が受け継がれているのかを明らかに。
■目次 |
▲ |
序章
●科学者のキャリアにとって「系譜」は中心的な役割をもつ。第1章 ノーベル賞受賞者
●ジュリアス・アクセルロッドはノーベル賞をもらった、そして自分はもらわなかった。 ●一連のメンター・チェーンは、選りすぐられた科学がどのように生まれてきたかを示す。第2章 戦時の緊急事態
●マラリアに包囲されることは、日本軍に包囲されるのと同じほど危険だった。 ●ジェイムズ・シャノンは、科学研究を指揮する者の模範であり、「医学・科学の天才」と呼ばれた。第3章 新薬理学の誕生
●バーナード・ブローディはアンフェタミンの力で起き続け、また、バルビツールの力で眠っていた。 ●ブローディは自分はどんな物質でも測定できる、と確信した。第4章 メンターの励まし
●「科学」を勉強することは、医師になる過程の単なる一部でしかなかった。 ●体も薬物に対して働きかけることは、アクセルロッドにとって、まさに啓示だった。第5章 NIHビルディング3
●アクセルロッドは新しいポジションを得たが、ブローディの研究員としてだった。 ●アクセルロッドは、後に彼を有名にする優雅なほど簡単な実験を思いついた。第6章 メンターからの独立
●こうして、神経薬理学という新しい科学領域が始まった。 ●ブローディ研究室から離れ、「教科書を書き変えるような成果」を得られた。第7章 アクセルロッドの研究室
●どう見てもブローディはかつての技術員に強烈な競争意識をもっていた。 ●1960年代初頭、そこにはメンター・チェーンが完全な形で存在していた。第8章 黄金時代
●ソロモン・スナイダーは研究室では不器用だが、どの時点で注意深く実験すべきかを知っていた。 ●ジェームズ・シャノンは、NIHの長となり、ある面ではサンタクロース、ある面ではマキャベリのようだと評された。第9章 ジョンズ・ホプキンス
●この数年の間に、スナイダーが「神経科学」と呼ぶ研究領域が生まれていた。 ●キャンディス・パートは、あまりにも強烈で、議論していると、ときどき“踏みつぶされた”みたいに感じる。第10章 オピエート受容体
●「これを見てください」。パートは言った。「きっと信じないと思うけど」。 ●オピエート受容体の発見は、スナイダーの研究室を科学の世界のメジャーリーグに押し上げた。第11章 ラスカー賞騒動
●オピエート受容体を発見したのは自分なのに、と彼女は怒り狂った。 ●彼女をはずすのが一番簡単だった。つまり、女性だったからだ。第12章 メンター・チェーン
●一握りのトップ・サイエンティストが、非常に多くの発見をし、論文を発表する。 ●持っている者はさらに豊かになるが、持っていない者は、持っているものまでも取り上げられる。第13章 1985年
●スナイダーの研究室からは論文が続々と発表され、業績目録のページを増やし続けている。 ●全員が科学者としてはブローディの子どもたちであり、彼とともに過ごした日々を回想していた。第14章 エピローグ・1993年
●スナイダーたちの研究によって、重要な化学伝達物質が立ち現われてきた。 ●アクセルロッドが質問をし、また耳を傾ける。それは、父親と息子の会話そのままである。■本書に登場する科学者のメンター・チェーン
ジェームズ・A・シャノン James A. Shannon◎科学研究を指揮する者の模範であり、「医学・科学の天才」と呼ばれた。 ◎ゴールドウォーター記念病院で、抗マラリア研究計画を指揮。 ◎1955〜67年まで、NIH(米国立衛生研究所)所長を務める。
◎キニーネに代わる抗マラリア薬の開発によって、薬の用量と作用の間に相関があることを明らかにし、近代薬理学を誕生させた。 ◎1967年、ラスカー基礎医学研究賞受賞。
◎代謝の概念をシナプス伝達の機構に拡大して、「伝達物質の再取込み・不活性化」が神経系の働きを動的に調節することを明らかにした。 ◎カテコールアミン系神経伝達物質の放出および再取込に関する研究で1970年、ノーベル生理学・医学賞受賞。
◎ギターの名手。 ◎精神疾患の分子的背景や、LSDなどのサイケデリック・ドラッグの働きと精神機能の関係に興味をもつ。 ◎1973年、当時大学院生のキャンディス・パートを指導して、脳内にオピエート受容体を発見。 ◎神経伝達物質と受容体の作用機構を通して、神経系に作用する薬物の作用機序を明らかにし、新領域の「神経科学」を切り拓く。 ◎1978年、ラスカー基礎医学研究賞受賞。
◎スナイダーのラスカー賞受賞のきっかけとなるオピエート受容体を発見するが、共同研究者として名前さえ挙げられなかったため、軋轢を生む。 ◎1974年、ジョンズ・ホプキンス大学医学部でPh.D.を取得。 ◎1983年、NIMH(米国立精神衛生研究所)の神経科学領域で脳生化学部門の部門長就任。 ◎1987年、NIMHを辞め、AIDS治療薬開発を目指したペプチド・デザイン社を設立。
■関連図書(表示価格は税別) |
▲ |
■関連情報 |
▲ |
●東京堂書店 刊行記念ブックフェア
あなたは師から何を学び、何を弟子に伝えていくのか?
──人類の知を切り拓くメンター・チェーン(師弟の連鎖)
2020年12月末より2F理工書売り場フェアコーナーで開催中。
「メンター・チェーンのルーツ」「代表的メンター・チェーン」「メンター・チェーンから学ぶこと」など6つのテーマに沿って、
ダンテ『神曲 煉獄篇』『アーレント=ハイデガー往復書簡』『人生を変えるメンターと出会う法』など、理工書を超えた関連書が参集します。
ブックリスト無料配布中。
同フェアは、ブックファースト新宿店Gゾーン(B2F)でも開催中。
■書評 |
▲ |
●週刊現代 2022.1.29-2.5号「リレー読書日記」毛内拡氏
ノーベル賞受賞者やそれに匹敵する優れた研究者を次々と輩出した師弟関係にフォーカスし、その中で奔走する研究者のエピソードや苦悩・葛藤など赤裸々な人間ドラマを描き出しています。…
●2021.3.24 聖教新聞
“師弟の絆”で結ばれた科学者たちの物語
…思うような結果が出ない弟子に“自分を信じて、一歩ずつ進め”と鼓舞する師匠の姿。晩年のアクセルロッドとスナイダーの、まるで父子のような会話の場面には胸が熱くなる。
●フレグランスジャーナル 2021.3月号
選りすぐられた科学の誕生
…本人はもとより、関わりのある科学者、研究者たちが続々と登場し、彼らの人柄、口癖、研究姿勢などについて語っている。情熱、賞賛、「山ほどの励まし」がある一方で、葛藤、不満、嫉妬、怒り、恨みもちらほら、いや、ずばずば。人間離れ、浮世離れ(と私たちが誤解)している科学者たちの生々しさ、人間臭さがぷんぷん。
著者は彼らを英雄視したりせず、等身大のリアルな人物像を描き出している。…
●2021.2.27号 週刊東洋経済 首藤淳哉氏(HONZレビュアー)
オンライン時代にあえて読みたい「密」な関係の物語
「メンター」(師、指導者)というのは不思議な存在である。親を選ぶことはできないが、メンターは自分で選べる。にもかかわらず、良いメンターに出会えるかどうかは運命に委ねるしかない。そして、いったん出会ってしまえば、弟子はメンターから全人格的な影響を受ける。…
なぜ今頃邦訳が出たのだろうと不思議に思いながら手に取ったのだが、読み進めるうちに納得がいった。本書に登場する科学者たちが活躍した時代は、米国が欧州を抜いて世界一の科学大国へと成長していくプロセスと重なっている。
現在、日本の科学力を示すあらゆる指標が悪化しているのはご存知の通りだ。本書を読めば、私たちが失ってしまったものが何かわかるだろう。
●2021.2.6 日本経済新聞 横山広美氏(東京大学教授)
科学エリートの系譜たどる
…「研究で成功するために必須なことは、卓越した奨学金でもなければ、抜きんでた知能でもなく、モティベーション(強い動機)とコミットメント(研究への没頭)である」との言葉には頷ける。
研究には漁場がある。枝葉ではなく本質的な問いが漁場にあるかを見極める勘を磨くには、そのグループに所属して「同じ釜の飯」を食べて体得するしかない。私は、ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏のメンター・チェーンに属するグループで学生時代を過ごした。2〜3世代上のメンターの研究へのすさまじい熱意やそれぞれで異なる人柄を近くで見られたことは分野を変えた今も大いに役立っている。そうしたことを思い起こさせてくれる一冊だ。