森の記憶[詳細]
Forests
「はじめに森、次に小屋、そして村、
それから都市を経て、最後にアカデミーに至った。」
(ジャンバッティスタ・ヴィーゴ『新しい学』)
かつて、ヨーロッパを覆い尽くしていた深い森。
その森を切り開くことから、人間の意識の目覚めと文明は始まった。
古代神話、中世の騎士物語、ダンテの『神曲』、
デカルトやルソーの啓蒙思想、グリム童話、近代詩など、
さまざまな文学における「森」の意味を読み解き、
地球環境の破壊を超える文明の危機を示唆する。
森の喪失。
それは、いのちが場所の記憶を失うことになるのだから……
■目次より |
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ヴィーコの巨人
ギルガメッシュのデーモン
処女神
ディオニュソス
レア・シルウィアの悲しみ
神話的起源から森林伐採へ
2章 法の影
騎士の冒険
御猟林法
アウトロー
ダンテの誤りの道筋
愛の影
人間の時代
マクベスの終幕
3章 啓蒙
方法の道
啓蒙とは何か? 森林官への質問
ルソー
コンラッドの垂れ込めた暗黒
ロカンタンの悪夢
荒れ地
4章 郷愁の森
ヴィーコの巨人
ワーズワースの詩に見る森と世界
グリム兄弟
象徴の森
ディオニュソスを待ちながら
5章 居住
楡の木
ロンドン対エピング・フォレスト
ウォールデンの森
落水荘
アンドレーア・ザンゾット
■関連図書(表示価格は税別) |
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■書評 |
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◎北村昌美氏(『産経新聞』1996年11月25日)
森林の有用性を前面に打ち出した経営の方向は、自然を統御し所有することができると考えたデカルトの思想に基づいている。それ以来、有用性のゆえに森林に価値を認めようとする思想の束縛から、人々はのがれることができない。いわば資源としての森、聖域としての森という相反する理念が、現在までそれぞれに形を変え、しかも争いながら存続してきたのである。森林破壊が単なる生態系の喪失ではないことを、われわれはあらためて知らねばならない。森には文明が投影し記憶されているのである。その記憶を読み解くに至った著者の着想と本書の成果を、心からたたえずにはおれない。またそれにふさわしい読後感である。
◎多田智満子氏(『みすず』1998年1月読書アンケート)
地球上から森が失われてゆく事態を憂える書は少なくない。ジョン・バーリンの『森と文明』などはその種の代表的な著作の一つであろう。この『森の記憶』はそれとはややスタンスを異にしている。「ヨーロッパ文明の影」という副題をもつこの著は、森が失われることで文明の記憶が消滅する、という痛切な認識の上に立っている上ではバーリンなどと同じだが、こちらはエコロジカルという以上に、むしろ森を主題とする文芸史といった趣がある。「ヴィーコの巨人」からはじまって、中世の「御猟林法」や森を棲家とする「アウトロー」、時代が下って「ワーズワースの詩に見る森と世界」「ウォールデンの森」など、目次の見出しを拾うだけでもほぼ内容が察しられよう。残念なことだが現代では、いろいろな切り口で「森」が論じられる必要があるのだ。