お母さん、ノーベル賞をもらう[詳細]
Nobel Prize Women in Science
20世紀の大発見を為し遂げた女性科学者たちから学ぶ
生きるヒント
確かにここに登場するのは科学者という、
特別な職業人であり、その中でもとくに優秀な人たちです。
でもこれは決して特別な女性の成功物語ではありません。
私たちが、いかに生きるか……ということは、職業の仲間とどう付き合い、
子供とどう接するかというような日常のさ細な事柄をいかにこなすか
ということを考えるときの参考資料なのです。
中村桂子
■目次より |
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0 発見への情熱
第一世代のパイオニアたち
1 マリー・スクロドフスカ・キュリー(1903:ノーベル物理学賞。放射能の研究/1911:ノーベル化学賞。ラジウムの発見)
スキャンダルの渦中での二度目のノーベル賞
ピエール・キュリーとの運命的な出会い
未亡人よりも科学者として
2 リーゼ・マイトナー
(核分裂を発見しながら1944年のノーベル化学賞をハーンに独り占めにされる)
トイレも使用禁止の研究生活
オットー・ハーンとパートナーを組む
亡命先での核分裂の発見
3 エミー・ネーター
(ノーベル賞に数学賞があればまちがいなく受賞に値した抽象代数学の天才)
女性版アルベルト・アインシュタイン
20世紀科学を基礎づけた無給講師
いつもの元気でアメリカにも適応
第二世代
4 ガーティ・ラドニッツ・コリ(1947:ノーベル生理学・医学賞。筋肉のエネルギー代謝におけるグリコーゲン消費の発見)
妻との共同研究を自分の昇進よりも優先する夫
体内のエネルギー循環を明かす
ノーベル賞級のつわものぞろいの研究所
5 イレーヌ・ジョリオ = キュリー
(1935:ノーベル化学賞。人工放射能の発見)
祖父に育てられた野生児
陽気なフレデリック・ジョリオ登場
人工放射能をついに発見
6 バーバラ・マクリントック
(1983:ノーベル生理学・医学賞。動く遺伝子の発見)
ノーベル賞級のはみ出し者
細胞の内側から世界を見わたす
理想の研究環境で「動く遺伝子」を発見
7 マリア・ゲッペルト・メイヤー
(1963:ノーベル物理学賞。原子核の殻模型の研究)
世界の俊英が憧れたゲッティンゲン小町
仕事も子供も社交も楽しむ生活
40代の輝しい成果、原子核の殻模型
8 リタ・レヴィ = モンタルチニ
(1986:ノーベル生理学・医学賞。神経成長因子の発見)
研究ずみの卵はスクランブルエッグに
婚約者と別れてアメリカへ
ガン研究やアルツハイマー症に光をもたらす神経成長因子
9 ドロシー・クロフォート・ホジキン
(1964:ノーベル化学賞。X線回折によるペニシリンおよびビタミンB12の構造決定)
鉄の女サッチャーも従う優しい天才
関節リューマチに痛む手で結晶構造の謎を解明
千客万来のホジキン家
10 呉健雄
(パリティ非保存の実験的検証をしたが、1957年のノーベル物理学賞は李政道と楊振寧に)
娘を励ましつづけた父
遠距離恋愛を実らせる
自然界のシンメトリーの破れ目を明かす
11 ガルトルード・ベル・エリオン
(1988:ノーベル生理学・医学賞。白血病などの薬物療法の原理的な解明)
感謝の手紙が元気のもと
核酸研究からガン治療薬の合成へ
名実ともに独立して抗ウイルス研究に熱中
12 ロザリンド・エルシー・フランクリン
(彼女が撮影したDNAのX線写真とデータを無断使用したワトソンとクリックが1962年のノーベル生理学・医学賞に)
母と伯母が大学進学を応援
DNAの謎に挑む
知らぬ間にワトソンとクリックに機密データが渡る
ガンを押してウイルス研究に熱中
13 ロザリン・スッスマン・ヤーロウ
(1977:ノーベル生理学・医学賞。糖尿病などの治療に役立つ診断法を開発)
大科学者になり子供も生むと8歳で決意
冷遇されても「自分は二流だ」なんて思わないこと
ホルモン治療の可能性をつぎつぎにひらく
新しい世代
14 ジョスリン・ベル・バーネル(パルサーを発見したが、1974年の物理学賞は彼女の上司ヒューイッシュに)
論文指導者にノーベル賞をもたらしたパルサーの発見
地方公務員の夫について各地を転々
姓の使い方はうまくなかったけれど、市民大学で充実の日々
■関連図書(表示価格は税別) |
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■書評 |
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◎「中高生にすすめたい100冊の本」に推薦(富山県・財団法人富山県女性財団発行)
近現代の女性科学者の成功物語
女は結婚して家庭に入るのがあたりまえ、まして科学など女にはできっこない」と、みんなが思っていた時代がありました。そんな世間の常識に逆らって、科学を生涯の仕事に選び、ノーベル賞級の成果をあげた14人の素敵な女性たち。彼女たちの生き方は、とてもユニークです。どこか自分と似ているところが見つかるかもしれません。20世紀はじめから現代にいたる女性科学者の歩みを紹介しています。
◎『pumpkin』(2004年2月)
科学は女性にはできないと、女性科学者が徹底的に差別を受けた時代、生命科学や素粒子物理学、医学などの分野で20世紀科学に重要な貢献をした女性たち。たちはだかる障害のなかで、粘り強い研究を重ね、成果をあげる姿は感動的だ。
◎米沢富美子氏(『潮』1996年12月号)
女性は科学に不向きだという社会通念があり、少女たちが科学に進むのを阻む風潮がまずある。その障害を越えて科学を選んでも、次には研究上での差別や職を得る際の不利があり、かろうじて職を手にしても昇格についての不平等などが、これでもか、これでもかと待ちかまえている。本書では、そのような困難にもめげることなく科学を続け、ノーベル賞クラスの仕事を残した14人の女性科学者たちの物語が紹介される。この14人のなかには、実際にノーベル賞をもらった人たちもいるし、共同研究者などにノーベル賞をもたらす大きな貢献をした人たちもいる。……これら先輩女性科学者が奮闘したころと比べて、いまは女性科学者を取り巻く環境もかなり良くなっている。さまざまな障害をものともせず成果を上げた先輩たちの話を読んで、科学を志す若い女性が増えることを願っている。
◎猪口邦子氏(『エコノミスト』1996年12月3日)
ノーベル賞を受賞した女性科学者ら14人の学問と愛と子育てをつづった感動的な一冊。パイオニアであるマリー・キュリーの物語から始まるが、第二世代には娘で化学賞を夫と受賞したイレーヌ・ジョリオ
= キュリーも登場する。母娘二代にわたってノーベル賞を受賞するとは、どんな子育てをしたのだろうか、という当然の興味によく応えてくれる。……キュリー夫人の研究室で助手に採用された人と、イレーヌは結婚した。母親は懐疑的であったが、やがて「あの子は打ち上げ花火よ」と評するようになる。確かに、義理の息子はフランス物理学の最有力の一人へと成長していった。ここからはもう一つの母娘物語となる。イレーヌの長女エレーヌが生まれ、母親は自らが幼年期に見た家庭の姿を再現し、その中で、夫婦での受賞理由となる人工放射能を発見する。ナチスの軍靴が近づく中、夫婦は学問と子供を守る分業を決め、夫は地下抵抗組織に潜ってパリの実験室を死守し、母親は二人の子と亡命。しかし母は娘の学士号試験を何としても受けさせてやろうと、国境付近の村で受験させた後、物理学の本をリュックに詰めて山脈をこえ、スイスに入った。6月6日、ノルマンディー上陸作戦の日であった。母から娘へと連綿と続く家族愛と学問への道を、巧みに翻訳したのは、日本の科学者中村桂子とその娘である。