英国のプラトン・ルネサンス[詳細]
The Platonic Renaissance in England
霊的直感にみたされたイギリス精神史
帰納法により自然の征服・支配をもくろんだF・ベイコン、
原始的な個人の集合体としての契約国家を構想したT・ホッブス、
自由意志を否定し、世俗内禁欲を奨励したピューリタニズム…
近代イギリスの政治・宗教・哲学の輪郭を形成した精神的主潮流に対して
プラトンのエロス、プロティノスの美をもって異をとなえた
ケンブリッジ・プラトニストたち。
その霊的直感にみたされた思想潮流の全貌を時代背景ととも明かす。
■目次より |
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英訳者の序言
序論 ケンブリッジ学派の歴史上の位置と使命
第1章 フィレンツェのプラトン・アカデミア、イギリス人文主義への影響
マルシリオ・フィチーノによるプラトン主義の再興/『プラトン神学』/哲学と宗教の統一問題/エロス説イギリス人文主義の始まり/イタリア人文主義との相違/コレットのパウロ書簡の講義/彼の「宗教改革」の方法と傾向/スコラ神学との戦い
ニコラウス・クザーヌス、人文主義の宗教にとっての重要性/『信仰の平和について』/クザーヌスとフィチーノにおける宗教統一の理念/コレットのパウロの義認の解釈/実践的宗教の理想
エラスムス/デヴェンターの「共同生活兄弟団」での青年 = 修業時代/イギリスでのエラスムス/コレット、トマス・モアとの関係/理想の宗教/「真の神学の基盤」/人文主義の教義批判/同時代の宗教抗争への態度
トマス・モア/『ユートピア』の出発点と基本思想/『ユートピア』の宗教/フィレンツェ・プラトン主義、ピコとの関係
第2章 ケンブリッジ学派の宗教思想
ケンブリッジ学派の開祖/ベンジャミン・ウィチカット/正統信仰との戦いケンブリッジ学派の宗教哲学の出発点、プロティノスの霊魂説/宗教の倫理学的基礎づけ/ヘンリー・モアの『倫理学要綱』/ジョン・スミスの「神にかんする知識に至るための真の方法」/宗教的確信の原理/ケンブリッジ学派の「合理主義」とその固有な特性/パスカル、クザーヌスとの関係/理性と宗教/「生気にみちた知識」としての宗教/福音書の実践的意味
寛容思想/神学的合理主義(フッカー、ヘイルズ、テイラー、チリングワース)との関係/「広教主義者」の信仰/道徳的合理宗教の基礎づけ
ライプニッツとケンブリッジ学派/ケンブリッジ学派の宗教哲学における「理由律」/宗教における「理性を超えるもの」と「理性に反するもの」
第3章 イギリス精神史におけるケンブリッジ学派の位置
(1) 経験論
カドワースの経験論との戦い/経験論とピューリタニズムに共通な傾向/ベイコンによる「観照」否定/ベイコン哲学における技術重視の基本モチーフ/帰納法の形式と傾向/ベイコンの裁判規範とその精神構造ケンブリッジ学派による「観照」の再興/プロティノスへの回帰/「世界霊魂」または機械的自然哲学との戦い/イギリス経験哲学における「知識」と「信仰」の二元論/ベイコンの学問と宗教/ケンブリッジ学派による知識と信仰の統一要求
ホッブズの国家論、社会論との戦い/契約説の克服/「有機的」な国家解釈
ケンブリッジ学派の認識論/先天性問題/認識の基礎問題としての判断/プラトンの知識の定義/認識の「先天的」特性
ケンブリッジ学派の経験概念/宗教的経験の源/「超感覚的なもの」の経験/「純粋知覚」の概念/プロティノスの認識論、心理学との関係
自意識の問題/自我概念の崩壊を阻止する戦い/知覚意識の前提としての自意識/自我の自発性/魂と自我の単一性
(2) ピューリタニズム
ケンブリッジ学派とカルヴィニズムの関係/カルヴァン派教理神学からの離脱/宗教主義との戦い/ピューリタニズムの「実践的」精神/勤労の神聖化/「職業」と「使命」/ピューリタニズムの倫理的理想と経験論倫理学の類似性経験論とピューリタニズムにおける古代への態度/古代哲学への反発/ケンブリッジ学派による古代思想の再興
予定と恩寵の教義/ケンブリッジ学派による予定説との戦い/適法性と道徳性/「道徳」の優位/カドワースのカルヴィニズムからの離反、道徳的真理の「絶対的」価値/カドワースの自由概念/古代の「自足」(アウタルケイア)へ回帰/宗教的「運命論」との戦い
ヘンリー・モアによるカルヴィニズムの倫理学的批判/ケンブリッジ学派の「ペラギウス主義」的要素/近代精神史におけるアウグスティヌス主義とペラギウス主義の抗争/プロテスタントの哲学と神学における自由の問題/ベールとライプニッツ
ケンブリッジ学派の自由概念の進展、「宗教改革的」なものから「観念論的」なものへ/自律の概念
第4章 宗教史におけるケンブリッジ学派の重要性
アウグスティヌスの恩寵による選びの教理/中世教義学への影響/アウグスティヌスと全盛期スコラ哲学/トマス・アクィナスの教理学におけるアリストテレス的要素とアウグスティヌス的要素/「自然」と「恩寵」の関係アウグスティヌス主義とプラトン主義/エロスによる「原罪」説の克服/アウグスティヌスの意志論とプラトン
プロティノスの自由概念/宇宙における魂の位置、運命からの解放/世界の美について/グノーシス派との戦い/美による世界の「正当化」
フィレンツェ・アカデミアによるエロス説の再興/フィチーノのプラトンの『饗宴』注解/ルネサンス哲学における自由の問題/エロスによる解放
イギリス人文主義/コレットのオリゲネスへの回帰とアウグスティヌスへの敵対/恩寵と愛/エラスムス/アウグスティヌスへの態度/『新約聖書』改訂版への序言/エラスムス = ルター論争の発端/ルターによるアウグスティヌス主義の再興
トマス・モアのユートピア/「教義なしの宗教」/プラトンのエロス説の影響/「幸福」(エウダイモニア)の理想/プラトンの『ピレボス』との関係
イギリス詩歌におけるプラトン主義/イギリス詩学へのフィチーノの影響/スペンサーの『妖精の女王』/エロスと恩寵/霊魂論
シェイクスピアの恩寵の観念
イギリス・ルネサンス文化の衰退/ピューリタニズムの勝利/ケンブリッジ学派による人文主義的な精神と倫理学の再興/ストア派の「自足」(アウタルケイア)概念への回帰/ヘンリー・モアの『倫理学要綱』/魂の自由
第5章 ケンブリッジ学派の自然哲学
ケンブリッジ学派と経験的自然哲学の関係/デカルトへの態度/ヘンリー・モアとデカルトの結びつき/デカルトからの離反、「機械的」自然科学との戦い/プロティノスの世界霊魂説、ケンブリッジ学派による再興/肉体に先立つ魂の先在性/生の原理としての魂/「形成的自然」説/機械論と生気論ヘンリー・モアの空間論/デカルト空間論の論駁/精神的実体としての空間/神の遍在の機関としての空間
ライプニッツとケンブリッジ学派/「機械的」自然科学にたいする別の立場/ライプニッツによるプラトン主義の体系的再興/「神秘主義的」プラトン主義への戦い
第6章 ケンブリッジ学派の終焉と影響、シャフツベリー
ケンブリッジ学派の精神的遺産/シャフツベリーによるケンブリッジ学派のプラトン主義の継承/カドワースとモアについての評価/シャフツベリーおよびケンブリッジ学派の宗教理念/自由な宗教シャフツベリーによる美学の創始/イギリス経験論との対立/シャフツベリーの「内的形式」の概念/エロスとシャフツベリーの「熱狂」論
シャフツベリーの『機知とユーモアの自由についてのエッセイ』/真理の試金石としてのユーモア
ルネサンスにおける知的エネルギーとしてのユーモア/「滑稽」のさまざまな形式/滑稽の表象力/ラブレーとセルバンテス
イギリス・ルネサンスにおけるユーモア/エラスムスの『痴愚神礼讃』/道徳的エネルギーとしてのユーモア(トマス・モア)
シェイクスピアのユーモア/シェイクスピアにおける「機知」と「ユーモア」/シェイクスピアと「ユーフュイズム」の関係/イタリア、スペイン、フランス文学におけるユーフュイズムとの平行現象/知性の育成と言語の錬磨/シェイクスピア喜劇におけるユーフュイズムの克服/ユーモアの破壊力と再建力/ユーモアの自己充足/シェイクスピアのユーモアとピューリタニズム(マルヴォーリオ)
シャフツベリーの『機知とユーモアの自由についてのエッセイ』の基本的傾向/ルネサンスへの回帰/道徳的、宗教的エネルギーとしてのユーモア/彼の「楽天主義」の意味/美学における宗教上の基本モチーフ/「無関心的快感」の概念とその歴史的起源/美学による功利主義の克服
シャフツベリーの自然観照/「自然の創造的精神」/エロス説の再興/ホッブズにたいする戦い/自然認識の前提として、また国家と社会の基盤としての「共感」
シャフツベリーとイギリス経験論/美的世界の奪還/ドイツ精神史への影響
付:[ダイヤグラム] ケンブリッジ・プラトン派をめぐる思想潮流
■関連図書(表示価格は税別) |
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■書評 |
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◎大久保氏(愛書WEB「a Memory Hole」2002年10月19日)
本書を刊行した翌年にカッシーラーはドイツから亡命を余儀なくされている。そのことを考え併せると、精神の伝承に一縷の希望を託した最後の一文はとてつもなく感動的だ。……17世紀思想史の研究としてばかりでなく、20世紀思想史のドキュメントとしても、本書は極めて優れた作品だろう。全文はこちら >>>
◎谷川渥氏(1994年1月17日『読売新聞』)
ニコラウス・クザーヌスを通じてイタリアに根をおろしたフィレンツェのプラトン・アカデミアとフィチーノとの多大の影響のもとに形成されたケンブリッジ学派に焦点を当てた貴重な研究書である。経験主義やピューリタニズムに抗し、18世紀ドイツ人文主義への橋わたしとなった一群の思想家たちの仕事の意味は、本書によってはじめて明らかにされたといっていい。