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ルネサンスのエロスと魔術[詳細]





■目次より


序跋 ミルチャ・エリアーデ


第1部 想像の働き

第1章 想像力の歴史
  1 内的感覚について 想像的気息
  2 12世紀に対する評価の変遷 西欧の文明化過程
  3 霊魂の車駕と前世の体験

第2章 経験心理学とエロスの深層心理
  1 フィチーノの経験心理学とその源泉
  2 記憶術
  3 幻想的エロスと欲望の癒し
  4 幻想の作用
  5 フィチーノの深層心理学 憂鬱症とサテュルヌス

第3章 危険な関係
  1 ピコ・デッラ・ミランドラ:フィチーノの後継者
  2 エロスの曖昧な神々 ジョルダーノ・ブルーノ:幻想的過去をもつ男

第2部 大いなる操作者


第4章 エロスと魔術
  1 本質の一致、過程の一致
  2 大衆と個人の操作
  3 連鎖の要
  4 精の射出と繋留
  5 普遍的社会心理学としての魔術

第5章 気息魔術
  1 魔術の零度
  2 「主体」魔術と「対他」魔術
  3 事物の共謀
  4 放射の理論
  5 気息魔術

第6章 主体間魔術

  1 主体内魔術
  2 主体間魔術 高次の存在/餌/吉祥の刻

第7章 神霊魔術
  1 神霊学の若干の概念
  2 神霊とエロス
  3 魔女と悪魔憑き
  4 フィチーノからジョルダーノ・ブルーノに至る神霊魔術


第3部 宴のあと

第8章 1484年

  1 翅なき蠅
  2 1484年は何ゆえ恐るべき年か?

第9章 想像に対する検閲

  1 想像的なるものの廃棄
  2 歴史の逆説
  3 「ろば」論争
  4 ジョルダーノ・ブルーノの術策
  5 宗教改革の一元性
  6 世界像の修正

第10章 ファウスト博士:アンティオキアからセヴォリアまで
  1 ルネサンスの寛容
  2 地獄はもっと暑いだろう!
  3 剿滅的な道徳主義・ファウスト伝説
  4 最終的結末


補遺 霊魂の車駕に関する議論の起源/レオ・サヴィウスの逸楽/
   ポルフィロの愛の夢/霊魂の三位一体/愛の弁証法/天界図像/
   妖術の実態/ファビオ・パオリーニの魔術劇場/
   アグリッパとブルーノの魔術文献/魔術批判/エロスの現状

 





■著者紹介:ヨアン・ペテル・クリアーノ Ioan Peter Couliano

1950年ルーマニアのイアーシ生まれ。ブカレスト大学卒業後、イタリアに亡命。ミラノのカトリック聖心大学で宗教学の権威ウーゴ・ビアンキのもと、宗教学、ルネサンス、グノーシスの研究を行う。1975年シカゴ大学に移り、故国の先輩ミルチャ・エリアーデに師事。ソルボンヌ大で腕霊魂離脱体験に関する論文で学位をとる。フローニンヘン大学の宗教学教授をへて、シカゴ大学宗教学史教授となる。15冊の著作をはじめ、学術論文や書評、資料編纂、『ジャーナル・インコグニタ』の編集長としてジャーナリスティックな活動など、偉才ぶりを発揮したが、1991年、シカゴ大学構内で何者かに暗殺された。




■関連図書

バロックの聖女 聖性と魔性のゆらぎ 2400円
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■書評


阿部謹也氏(『読売新聞』1992年1月13日)
「……若くして凶弾に倒れたルーマニア出身の学徒の才気あふれるルネサンスと宗教改革の研究であり、現代西欧文化批判の書でもある。著者はこれまでのルネサンス研究者が重視していたマキャベッリの『君主論』に描かれているのは消滅しつつある政治冒険家のタイプにすぎず、ジョルダーノ・ブルーノの『普遍の連鎖』こそ大量宣伝、間接的検閲、大衆操作などの現代社会心理学の原型であるという。ルネサンスは古典文献学の復興というよりはエロスとしての魔術の復興であり、占星術、錬金術、医学などのルネサンス科学が古代以来の輝きを示した時代であった。
 現代人はともすればこれらの科学をたわいのない非科学的な試みと見ようとするが、そのような態度こそルネサンス科学を殺してしまった元凶なのである。魔術も科学も究極的には想像力の求めるものを表現しようとするものであり、魔術を主潮とする世界から科学を主潮とする世界への移行は想像的なものの位置が変化したために起こったのである。
 この変化は幻想の検閲を強化した宗教改革によって起こり、いわゆる反動宗教改革の中でカトリック側もその態度に同調した。一見敵対関係にあるかに見える新・旧教が想像力の検閲と抑圧という点で協力したのである。その意味でファウスト伝説は宗教改革の完全な表現であるという。
 現代西欧文明はすべてこのように想像力を検閲し、押さえ込んだ宗教改革の産物であり、その成果として生まれたのが現代の精密科学と技術である。私たちの認識行動の根底には想像力があり、その中で最も大きな位置を占めるのが想像的エロスである。本書には想像的エロスを押さえ込むことによって成立した近代西欧に対する深い批判がある。切れ味の鋭い文化論として推奨に値する」

上山安敏氏(『マリ・クレール』1992年5月)
「……このクリアーノの作品は、魔術と科学の単純な連続性を否定し、むしろ断続性の音調を強く出すことによって近代科学への批判の旗印を鮮明にしている。その急進さは彼の師エリアーデを凌ぐといってよいだろう。彼は「想像力」、「根源的形象世界」、「愛(エロス)」、「プネウマ」などを鍵(キイ)概念に使って「ルネサンス学」を塗り替えた。
 ギリシャのアリストテレスの想像力(共通感覚)が新プラトン主義に引き継がれ、イスラム世界の愛の理論とスーフィズムの神秘主義と習合しつつ、再びヨーロッパに還流する。これを西欧の文明化の根幹とみ、それを集大成したマルシリオ・フィチーノ、ジョルダーノ・ブルーノに照明をあてている。
 イスラム学に造詣の深い著者は、西欧の文明化は東方のイスラム圏の影響なしには考えられず、ヨーロッパのエロスの教説はイスラム文化とともにヨーロッパにもたらされた東方=アラブのグノーシス的二元論によってつくられたと見る。こうした東西の文化融合の視点は図像学のヴァールブルク派やユダヤ神秘主義研究のショーレムによって切り開かれている。だが、イスラムの医術、ヘレニズムの占星術的魔術、ユダヤ神秘主義、グノーシス、隠秘思想、錬金術の諸学の坩堝になったルネサンス文化に、東方の文明国からの影響の視角がこれほど生きた書はない。……」



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