アートディレクター、『レプリカ』デザインを語る
11月の新刊『レプリカ──文化と進化の複製博物館』が好評です。この本にはさまざまなデザインの工夫が施されています。アートディレクター宮城安総(工作舎)の解説で、その造本術を紹介します。
途中で総頁数が変更になったため、8冊も束見本を作りました。
(丸/角背/芯ボールの厚さ違い → 最終的には「丸背」に)
初期のスタディ。いくつかのモチーフから<複製><増殖>したカバーたち。
この段階では カバーを <透かす> アイディアはまだ出ていません。
カバーの背だけをならべてみました。途中で、帯の高さを変更したのが分かります。
(これらはすべて社内プレゼンに提出したものです…死屍累々!)
通称 <バラ校>。本文中にでてくる写真や図版だけを抜き出して、校正刷りを とりました。今回、本文はAMスクリーン(200線)なので、最終出力のサイズと解像度(400dpi)、網点の角度を本番にあわせ、<モアレ> や <ロゼットパターン> のチェックを事前に行いました。また、潰れや白とびなどもここで対策/調整を済ませておきます。(後行程の <白焼き> 時は、文字校正とレイアウト、文字組みチェックに専念できるように)
本表紙2案(<PANTONE805(蛍光オレンジ)>と<LR輝 銀>)の色校正。
[用紙=エコジャパンR たんぽぽ 四六判 Y目 100kg]
カバーに <蝋引き> することは半ば決めていたものの、どのぐらい <透ける> のか現物を見ないことには見当がつかず、カバーの色校を待ち望む日々が続きました。
初校がでました。
カバー[用紙:OKブリザード 四六判 Y目 103kg]の表面加工を比較!。(用紙は同じです)
<上:加工無し> と <下:蝋引き> です。黒いテーブルの上において撮影したので 蝋引きの <ムラ> と <透ける様子> が際立って見えます。
社内プレゼンを再現。
カバー/帯の表面加工と帯の刷色を比較・検討。(絵柄・文字データはみな同じ) カバーはすべて <黄色> の表紙に巻いて撮影しました。
結果的には、蝋引きを施すと、思った以上に透明になり、表紙の黄色の影響を受けるのがわかりました。
[カバー]左から、
・マットPP
・蝋引き
・グロスPP
[帯・刷色+表面加工]左から
・特練り銀+蝋引き
・LR輝 銀+グロスPP
・LR輝 銀+マットPP
この時点では、(デザイナーイチ押しの)<蝋引き> の黄色い仕上がりのものよりも、 夕焼けっぽい穏やかな色合いの <カバー:グロスPP + 表紙:<黄色> + 帯:グロスPP 特練り銀> が好評でした。
(この仕様ですと、表紙はほとんど透けてみえないので、わざわざ黄色の紙を選ぶ意味はなくなるのですが…)
ここで、実際書店に持っていき、ならべてみて、書店員の方々の意見もきいてみたい、と営業部からの申し出があり、そのフィードバックを待つことに。
その間、蝋引きの特徴を最大限に生かすデザインを模索。ざっくりとしたパタンを蛍光オレンジで本表紙に印刷し、カバーのパタンとの相乗効果をねらうアイデア+ダミーを懐にしのばせ、待機。
後日、営業部のフィードバックによると、グロスPPのものが好評、ただ、蝋引きのカバーについて説明すると、興味をもって見ていただいた、とのこと。また、帯の銀刷りは店頭では、反射などにより <読めない> との助言をいただきました。
(営業部からは、帯に予算をかけ過ぎ? と難色を示す声も)
さらに、タイトルを構成するつぶつぶを大きく(目立つように)、帯キャッチを『「私」は複製できるか?』に変更、イラストを入れて柔らかさを強調、など細かい要望が各方面から出されました。
完成!! 最終的には <いいとこどり> の
カバー:蝋引き
表紙 :白地に蛍光オレンジでドットパターン
帯 :特練り銀(読みやすく)+グロスPP(破れ防止)
に落ち着きました。
本表紙の蛍光オレンジの水玉が、蝋引きされたカバーから透けて、<色気>のあるデザインに。本表紙の背も濃いめに調整したため、初校よりもオレンジ色が効いています。 ぜひ、お手に取って、独特の質感をお楽しみください。
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最終資材、仕様および加工一覧
カバー :OKブリザード 四六判 Y目 103kg/プロセス4C/ろう引き加工/400線
帯 :OKブリザード 四六判 Y目 69kg/1C(特練り銀)/グロスPP張り/400線
表紙 :エコジャパンR ゆき 四六判 Y目 100kg/1C(PANTONE805)/グロスニス引き/400線
芯ボール:28号
見返し :クラフトペーパー デュプレ ハトロン判 119kg/前後の見返しで接着面が逆になるように。
本文 :B7バルキー A判 T目 44kg/マットスミ/200線
エディトリアル・デザイン:宮城安総+小倉佐知子
編集 :米澤敬