Ⅰ 進化機構は未知である
第1章 ネオダーウィニズムは進化機構の発見の障害である
進化が起こったことはたしかであると広く承認されているが、その機構はいまだ不明のままである
科学の三神秘:化学におけるフロギストン、物理学におけるエーテル、生物学における選択
熱ははじめ物質だと思われていたが、のちには単に物質の状態にすぎないことが判明した
選択は計算も、貯蔵も、容器への注入もできない:ゆえに進化機構の構成要素ではない
ダーウィンもウォーレスも選択は進化のすべての過程を説明することはできないと力説した
選択にはまったく矛盾した特性が付加されている
第2章 ダーウィニズムとネオダーウィニズムの盛衰
選択の概念はヴィクトリア時代の社会学から生じた
ネオダーウィニズムが定式化されたときには、多くの基本的遺伝現象は知られていなかった
綜合「説」の現在の立場
ネオダーウィニズムにおける予言能力の欠如
「利己的な」DNA:分子生物学の錬金術
第3章 自律進化説の基礎
進化の中心的問題は「種の起源」ではなく形態と機能の起源である
自律進化は必須の結果として、同型性と同機能性を出現させる
植物も動物も数種の基本的な型から逃れることはできない
偶然と相似は相同になる:無機物界、植物界そして動物界は相同な構造である
さいころ、トランプ、平行線そして円は自然には存在しない
分子の化学的特性対ランダム性
かつてモンスターが生じたことがないのは:自律進化の秩序がそれらの出現を阻止している
Ⅱ 生物進化に先行し、これを方向づけた三つの進化
第4章 素粒子の自律進化
正確な対称は宇宙の開始時にのみ存在したと考えられている
非対称はすでに素粒子に存在している
素粒子の進化の基礎にあるのは組み合わせである
素粒子の進化を支配している法則
第5章 物理的刻印
重力は植物の極性を決定し、植物極性は順次組織と胚の極性を決定する
動物の器官形成に対する重力の影響
ヒトの気圧受容器は重力の変化を感じ、測定する
植物はすでに光を「みる」
動物における光周性は生殖をコントロールしている
魚類の性は温度に影響を受ける
電流は細胞分化に影響する
バクテリアの地球磁場への反応
魚は磁場から情報を得ている
分化に影響を及ぼす物理の作因は進化にも影響を及ぼす
第6章 化学元素の自律進化
化学元素の水素からの進化
水素および他の元素の誕生
元素の変換と生物学的な変換
化学元素の進化に関与する原理
第7章 化学的刻印
植物は化学元素を秩序だてて吸収している
植物に必須の元素は周期システムの軽量元素に属する
たった30の基本的な分子が生物の構成にかかわっている
エチレン:気体で小分子の植物ホルモン
カルシウムは植物と動物の多くの形態形成の過程を調整している
摂食によって課された化学的方向化
第8章 無機物の自律進化
方解石はいまだに遺伝子を持たないが、すべて基本パタンの範囲内で、何千もの形を作り上げる
結晶成長を導く物理的な過程はまだよくわかっていない
液体結晶
新しく発見された準結晶は5回の対称性を示す
第9章 生物の形態の同型性とその無機的起源
形態と機能の関係に関するパスツールの独創的な実験
ピエール・キュリーの法則:非対称が現象を作り出す
対称性は形態を作り非対称性は機能を作る
ウイルスと細胞内分子は結晶形態を呈する
もっとも重要なオルガネラは結晶形態をとる
昆虫は葉に似る:物理化学的な同型性の結果
動物が花と交尾する
軟体動物は角のある殻を持つが、雌をめぐって戦うことはない
第10章 生物機能の無機物的起源と同機能性
パタンの遺伝をともなう結晶の増殖
結晶の成長とDNA分子の成長には最初に種まきが必要である
光合成と窒素同化はすでに無機物においても部分的に遂行されている
結晶の再生能力
無脊椎動物、植物、脊椎動物の再生能力
卵割のパタンは石鹸の泡に存在している
RNA合成は「クリスマスツリー」を作り上げる
動植物の骨格は、樹液や血液の循環と同じ無機物の祖先を持つ
肉食性の植物の葉は、膵臓や胃の先行者である
植物の胚柄はヒトの栄養芽層に類似の構造を持つ
第11章 機能の進化
細胞中のすべての化学物質は初源的な機能を持つ
さまざまな機能がポルフィリン環化合物によって演じられる
ヘモグロビンは植物と動物とでは異なる機能を持つ
タンパク質をコードしていないDNA配列がどうやって突然タンパク質をコードしはじめるのか
遺伝子とタンパク質の進化はペプチドを小さくもするし大きくもする
第12章 無機物の方向化と対称性の進化
生物体にみられる対称性のほとんどは、無機物や準結晶に既存のものである
植物における対称性のえり好み
遺伝子は対称性を作らない:遺伝子はそれらを選んでいるだけである
無脊椎動物における対称性のえり好み
脊椎動物も対称性の変化を示す
Ⅲ 自己集合は自律進化の目にみえる結果である
第13章 素粒子、原子、分子、オルガネラの自己集合
自己集合は太古の物質からヒトの社会にまで広がっている
素粒子と原子の自己集合
分子の自己集合
ウイルス、リボソーム、染色体の自己集合
核は明確な祖先を持たない:進化における核の突然の出現とすべての細胞分裂での核の自己集合
第14章 細胞、器官、生物の自己集合
遺伝子コードの起源の非ランダム性
細胞間の化学的なメッセージが自己集合に関与している
細胞形成を導く細胞の自己集合は水溶液からの結晶の析出に似ている
細胞間の化学的な信号交換と、進化におけるその重要性
第15章 社会という自己集合:生物個体間の物理的、化学的な伝達
動物間の化学伝達による自己集合社会
昆虫社会における自己集合
化学的メッセージが決定する魚の地域的な協同と社会的な階級性
渡りの期間の鳥社会の集合は、内的なリズムによって決定されている
哺乳類とヒトにおける社会の自己集合
Ⅳ 始源的構造の克服
第16章 生体内の抗物理化学過程
生命はどのようにして物理的決定過程を克服して秩序を形成するか
毛細管は重力に対抗して生物の直立構造を助ける
人間の血液循環にみられる抗重力過程
抗重力行動としての鳥の飛翔
第17章 遺伝子、染色体、細胞はどのようにして環境と死に対抗するか
RNAの酵素作用の発見
多糖類は以前、遺伝子に帰せられていた細胞活動の担い手である
どのようにしてDNA は環境に対抗するか
どのようにして遺伝子は環境と死に対抗するか
どのようにして染色体は環境と死に対抗するか
第18章 個体、種、門はどのようにして環境と死に対抗するか
単細胞生物は染色体構造によって環境に対抗する
どのようにして多細胞生物は環境と死の支配を逃れるか
どのようにして種は環境に対抗するか
どのようにして門は環境に対抗するか
Ⅴ 環境による生物の変化
第19章 物理的要因による変形
光周期性は環境と物理的刻印との間の最初の相互作用を理解する鍵となる現象である
遺伝子コードは生物時計に似ている:それらは両方とも情報の中継システムだからである
地球の重力の変化と、進化に対するその影響
地球の磁場の逆転と、生物進化に対するその影響
性選択ではなく、温度が動物の色彩を決める主因である
第20章 化学的要因による変化
環境内のエチレンの存在は植物の発生に影響を与える
受精段階における浸透圧の増大は精子のかわりをする
陽イオンはDNA の凝縮を誘導する
重金属による遺伝子発言の誘導
イオンによる染色体断片の活性化
第21章 生物の形の水:空気変換
水生動物による「地上の征服」のような大きな進化のステップは、特殊な化学信号の結果である
結晶の水:空気変換/植物の水:空気変換と遺伝情報の忘却/鳥の水:空気変換
ヒトの誕生過程は両生類の水─空気変換に類似している─羊水生活から空中生活への変化
シカは化学的な作用とかなり急激な一連の出来事によってクジラに変わったのかもしれない
ヒトの進化は構造遺伝子よりも調節DNAの変化によるようにみえる
最近の化石の記録は種の急激な出現を支持する
第22章 環境と発生過程は遺伝子をどこまで変化させるか
ワイスマンによる生殖質と体細胞の分離がネオダーウィニズムの基本的特長の一つである
ワイスマン説は無脊椎動物には適用できない
脊椎動物にもワイスマン説は当てはまらない
環境の化学物質は遺伝子構成を方向づける
生物進化は生殖質の変化ばかりでなく胚発生や出生後の出来事の結果でもある
遺伝子型の変化は多様かつ対照的である
Ⅵ 自律進化による進化の謎の解明
第23章 生物進化は多数の自律進化の共生系である
自律進化は部分の統合と部分の自律という正反対の要素を持つ
生物進化は複数の自律進化のモザイクである
繁殖率と死亡率の差異は進化において限定的な役割をはたしているだけである
第24章 自律進化説による適応の説明
光合成と選択の無力性
適応は基本的に生体内現象である:適応には恒久的、全体的、最適なものはない
ネオダーウィニストによる隠蔽色と擬態の説明には多くの弱点がある
巨大枝角や巨大歯牙は繁殖能力とはほとんど無関係である
鎌形赤血球貧血症とネオダーウィニズム
ラン科の植物は18000もの種からなり、あらゆるものに似ている:自然には目的はない
第25章 自律進化説からみた遺伝子と染色体の役割
遺伝子は進化の最初からあったわけではなかった
原始細胞はDNAやタンパク質なしでも機能できる
無機物も原始的な遺伝子型と表現型を持つ
遺伝子は本当は何をしているのか
染色体の出現は遺伝子の位置と機能に秩序をもたらした
細胞内にランダム性の入る余地はない:分子には荷札がつけられ、それぞれの目的地に運ばれる
第26章 社会生物学にとっての自律進化説の意味
社会生物学はネオダーウィニズムから解放されなければならない
倫理の物理化学的基礎
化学物質による哺乳類の個体数制御
分子進化の方向性は行動にまで広がる
ヒトの社会には非道徳的でアナーキーな要素が含まれている
動物は競争するのと同じくらい協力もする
Ⅶ 進化論の実証の時代へ向けて
第27章 修正を求められているのは生物学ではなく物理学である
物理学者は自然界にはランダム性が存在しないことを認めている
突然変異はランダム過程ではない
秩序は秩序からのみ生まれる
第2法則は生物には適用できない
第28章 自律進化説の諸原理
進化の問題を理解する前に明らかにすべき主要過程
自律進化説の諸原理
第29章 自律進化説とネオダーウィニズムの対比
ネオダーウィニズムは進化現象のすべてを説明しようとする
進化についての二つの説明原理のおもな対立点
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