生命とストレス[詳細]
In Vivo
生命は独特の魅力をもつが、この魅力は生物学からますます消え去りつつある。
……セリエ博士ははじめから、生命を魅力に満ちた全体として見ていた。
そして、詩人の直感的把握力をもって生命にアプローチした。
このアプローチは生命を理解するためだけでなく、
病気を治す技術を高める上からも、
もっとも実りの多いものであることを示してくれた。……
■目次より |
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第1講
直観と知性/いったいどちらが魅力的か
「課題発見者」と「課題解明者」
課題発見者の勝利/メンデルの法則
ペニシリン/「周辺視野」
第2講
私自身の冒険/ストレスとG.A.S./最初の閃き
「まさに病気である症候群」/性周期の非特異的変調
「ストレス」という術語の使いはじめ/脳下垂体摘出がはらむ問題
新ホルモンの探索/三徴候/大いなる幸せ/大いなる不幸/新しい視点
学生時代へのフラッシュバック/もしこれがそうなら……!
損傷それ自体を研究できるかもしれない/経験豊かな人の忠告
「ごみくずの薬理学」/バンティング先生の励まし/研究計画を立てるとき
この症候群がいかに非特異的であるか/意味論上の最初の難関/「警告反応」
「抵抗期」/「疲憊期」/木を見て森を見失うな
第3講
適応の病気 コルチコイドはガラス様変性症、すなわち「コラーゲン病」を引き起こす
コルチコイドという用語の必要性/コルチコイド性高血圧/心臓発作/臨床応用
アナフィラキシー様炎症/ふたたび副腎と炎症
アナフィラキシー様炎症によって得られた教訓/ホルモン麻酔法/雑多な実験
何が乳汁分泌を維持するか/「吸乳反射」と偽妊娠
抗ホルモン/副甲状腺と嚢胞形成
第4講
腎性高血圧症/「内分泌性腎臓」/いかにして適度の血管収縮をつくれるか
問題を解く二つの方法/手術の成功をいかにして判定するか
「固い」腎臓をつくる/「肉芽腫嚢」/目標
幸運な事件/「L.A.S. 」/L.A.S.とG.A.S.
いかにしてストレスは特異的変化を引き起こすことができるか
多因性局所病変/組織骨格/心筋内での骨形成
第5講
病因因子と内因/実験的素質/カルシフィラキシー
学生時代へのフラッシュバック/強皮症
局所カルシフィラキシーと全身カルシフィラキシー/カルセルギー/「THP」
「ACN」/一般的仮説/単因性疾患/多因性疾患
異種病原因子がいかにして同一の病変を生ずるのか
なぜ同じ作用因子により異なる病変が引き起こされるのか
一般的仮説の概要と展望/病気の要素/多因性疾患の分類/「病理合成」
ミクロ症候群/「アクトン」と「リアクトン」へのフラッシュバック
レセプターの分類/ミクロ症候群の不可分性/素粒子生物学の瞥見
第6講
課題発見のメカニズム/発見と発展/直観と計画
予測不可能な結果と予測可能な結果/綜合と分析/周辺視野と管状視野
簡素な技術と複雑な技術/多数の標的と少数の標的
徒弟修業と正規の課程/予測不可能な適用と明白に実際的な適用
研究における一般訓練と専門化/驚嘆と満足/中間型
研究における四つの段階/まとめ/解消しがたい双価性
■関連図書(表示価格は税別) |
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■書評 |
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◎2023.10.3 朝日新聞「天声人語」
カタリン・カリコ氏の、2023年ノーベル生理学・医学賞受賞に関連して
「…後にストレス学の大家となったセリエ氏は、自著『生命とストレス』で若手研究者らを強く励ましている。たとえ何年も成果がでなくても、諦めてはいけない。自分を信じろ。新たな発見に必要なのは「長く味気のない期間に耐える楽天性と自信なのです」
▼その本を高校時代に夢中になって読んだ少女が、新型コロナのワクチン開発で、ノーベル賞に選ばれた。…
◎『世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ』(増田ユリヤ著/ポプラ新書)
「この本は私の人生に影響を与えてくれました。自分にできることに集中をして、他の人を気にしない方法をこの本から学んだのです。…」(カリコ氏)
これを読むと、現在に至るまで40年もの間、ひたむきに実験と研究を積み重ねてきたカリコ氏を理解できる。…
この本全体に貫かれているのが「誰かの頭で考え、誰かの目で見るのではなく、自分自身の頭と目で先入観なしに進んでいけ」ということだ。
◎カタリン・カリコ氏(『クーリエ・ジャポン』2021年3月9日)
──あなたが最も影響を受けた本は何ですか?
高校生のときに読んだハンス・セリエの『生命とストレス』です。彼は初めて人体に「ストレス」という言葉を使いました。それまでストレスは、基本的に物理学用語として使われる言葉でした。
その理論は、人々は後悔することで時間と人生を無駄にしているということです。誰も信じていないなか、私がRNAを守り続けられたのは、誰かから肩を叩かれて「ケイティ、よくやったね!」と言われることを期待していなかったからです。私は、自分のしていることが良いことだと、そしてそれが良い方に向かうと、確信していました。
*カタリン・カリコ氏は、mRNAワクチン開発のパイオニア的科学者。新型コロナウイルス ワクチンの生みの親として話題に。
◎カタリン・カリコ氏(毎日新聞 2021年3月29日)
──不遇の時代をどう乗り越えたのですか
16歳のころに読んだ本があります。「ストレス」という言葉を医学用語として広めた生理学者で、ハンガリー出身の科学者ハンス・セリエ博士が書いたものです。そこには「自分ができることだけに集中しなさい」という趣旨のことが書かれていました。
◎魚住廣信氏(「H.S.S.R.プログラムスメール配信」2001年2月8日)
セリエは「細かいところに注目すればするほど、予期せぬ「周辺視野」による発見のチャンスも
少なくなる。—木を見て、森を見失うな!—」と、忠告してくれています。……セリエの本を読んで、自分自身の立場は、トレーニング、リハビリテーション、指導法、トレーニング計画などにおいて、最適な組み立てをするための課題発見者であると肝に銘じ、努力していきたいと思いました。
◎『サイアス』(『読売新聞』1996年1月14日)
「ストレス」という考え方を提唱したハンス・セリエによる「科学的発見術」についての講義集。メンデルの法則や抗生物質の発見のエピソードを手はじめに、自身の「ストレス発見」にいたるまでの過程を、失敗談も含めて詳しく紹介している。「科学における人間の知的活動の、最初の、しかももっと決定的な段階は、あいまいな直観に依存している」とセリエは言う。コンピュータなど精巧な機器の出現により、綿密な計画に基づく研究が評価される傾向にある近代生命科学への警鐘。ストレスについての記述は興味深く、学者や研究者でなくても読める。