夢の消費革命[詳細]
Dream Worlds
欲望(ときめき)の大インフレはここから始まった
われわれの希望や欲望が、いかに商品に従属しているかを明かす快著。
『ニューヨークタイムズ・ブックレヴュー』
大胆にして、精緻、しかも野心的な傑作。
めくるめく技術革新と大衆消費の興隆を、
社会思潮の背景とともにみごとに描き出した。
『テクノロジー・アンド・カルチャー』
■目次より |
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大衆消費の到来/大衆消費の道徳的意味/フランス史との関連/フランス思想との関連
第1部 消費者のライフスタイルの発展
第2章 宮廷的消費の閉ざされた世界ルネサンス期宮廷の消費階級/消費と文明/ルイ14世、消費者王/ブルジョワの消費習慣/文明と消費:ヴォルテール/ルソー/フランス革命とその余波/消費におけるバルザック/結論:宮廷の運命
第3章 大衆消費のドリームワールド
トロカデロの学校/万博の意味/デパートの中のエキゾチスムエキゾチスムの「美学/遠方のヴィジョン/映画の旅行/電気のフェアリーランド/愛と富裕の夢/ジョルジュ・ダヴネルと贅沢の民主化/批判的見解/結論
第4章 ダンディとエリート的消費
ライフスタイルの種類の増加/ダンディズムの起源/精神的瞑想としてのダンディズム/ダンディズムの民主化/フォントネーへの逃避/近代消費の告発/代替案を考える/代替案の幻滅/デカダンの消費と大衆消費の類似/ドリームワールドの崩壊/他の代替案の必要
第5章 装飾芸術改革と民主的消費
ある世代の遍歴/装飾芸術運動の諸原則/装飾芸術運動の運命/理想を救出するためのモークレールの提案/批判的見解:機能主義の多様性/近代の美の発見/ある世代の終末/結論
第2部 消費についての批判的思想の発展
第6章 贅沢から連帯へ 消費者のモラルを求めて贅沢についての論争ふたたび/フランスの伝統的経済思想/ポール・ルロワ = ボーリューの贅沢論/フランスにおける教会の役割/アナトール・ルロワ = ボーリューと「金銭の支配」/世俗的道徳規範を求めて/ストア派の消費倫理/禁欲主義の伝統と現代への消費/個人主義から連帯へ
第7章 シャルル・ジッドと消費者運動の出現
ある型破りな経済学者の経歴/連帯と経済学:消費者に力を/消費者協同運動/社会主義と協同組合/影響の広がり/共同住宅/購買者社会同盟/結論
第8章 デュルケーム、タルドと消費の社会学の興隆
デュルケームと道徳の危機/伝統主義、共同体主義、社会主義:デュルケームの批判/職業グループ:デュルケームの提案/宗教の役割/知的歴史におけるタルドの位置/模倣と発明/模倣の超論理的法則/経済心理学/反復:欲望、信念およびニーズ/対立:価値/適応:欲望と信念の調和/未来の社交性/未来史断片
第9章 未来史断片 消費革命を越えて
■関連図書(表示価格は税別) |
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■書評 |
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◎鹿島茂氏(『毎日新聞』1996年4月1日)
書評子のような文学畑の人間にとってもっとも興味深かったのは、ユイスマンスの『さかしま』に代表されるデカダンス文学やアール・ヌーボーの芸術論などが、消費を軸にして思ってもみなかったような観点から考察されていることだろう。たとえば、密室に人工楽園を作り出そうとする『さかしま』の主人公デ・ゼッサントは、高級美術品や高価な装飾品を買うことで、唯美主義者であることを証明せざるをえない「消費芸術家」であるという意味で、大衆とは別の形のドリーム・ワールドに取り付かれたエリート的消費者の先駆けと考えることができる。またアール・ヌーボーの提唱者は、通俗的な趣味に流れる大衆の消費を芸術的なレベルへと引き上げて「芸術の民主化」を図ろうとする「民主的消費者」とみなすことが可能である。つまり、世紀末の芸術運動というものはいずれも大衆的消費に対する知的消費の側からの回答だったというわけである。これからの消費論、大衆文化論は、本書を抜きにしては一歩も先へ進めない、それぐらいインパクトのある本である。
◎松浦寿輝氏(『産経新聞』1996年5月2日)
MIT に籍を置くこの女性歴史家の俊英は、一方でテクノロジーや経済の下部構造の変容を押さえ、他方で文学・思想・美術といった知の歴史の細部にも微妙な視線を行き届かせ、かつまた目まぐるしい風俗現象の移ろいにも周到な注意を払いながら、「消費」のドリーム・ワールドをめぐって当時のフランスでいかなる想像力と欲望が紡ぎ出されていったかを逐一考察してゆく。ユイスマンスの小説『さかしま』に「大衆消費」に抗う「ダンディ的」な消費欲望の極北を透視している部分、またルロワ = ボーリュー、シャルル・ジッド、タルドといった今日やや忘れられている世紀末の思想家の手になる消費をめぐる言説を掘り起こしている部分など、興味は尽きない。豊かなイメージを喚起する才筆によって綴られた近代思想の傑作と言うべきだろう。