科学と宗教[詳細]
コペルニクス革命、機械論的哲学、理神論、唯物論、自然神学、
ダーウィニズム、量子論、プロセス哲学……
真理を求める豊饒で葛藤にみちた思索の繚乱
ガリレオは聖書の記述の正しさを証明しようとしていた!?
ニュートンの自然法則が支配する宇宙は神を必要としていた!?
批判哲学者カントは宗教を廃そうとしたわけではない!?
地球の歴史を記述したビュフォンは創造神話を援用した!?
ダーウィンが批判したのは狭義の「個別創造」の概念だった!?
量子論のコペンハーゲン解釈にはキルケゴールの実存哲学が入り込んでいる!?
ハイゼンベルクは現代物理学が「慎みの念」を復活させたとみた!?
■目次より |
▲ |
序章 科学と宗教は互恵的に関わってきた
第1章 科学と宗教の相互作用をめぐる予備考察
序論——人類の知的遺産を見落とさぬように
多様なる相互作用
科学と宗教の闘争モデル
科学と宗教の調和モデル
第2章 科学革命期の科学と宗教
序論——自然観の繚乱
科学と宗教は分離したのか?
科学は神学の奴婢
魔術、科学、宗教
神学的に表現された科学革新
分化すれど分離し難し
第3章 科学革命と宗教改革
序論——コペルニクス体系への反応
新しい天文学の挑戦
新しい天文学への受容性──ある仮説の検証
宗教改革と反宗教改革──宗教が科学に及ぼした間接的な影響
ガリレオとウィルキンズにみる知的自由の問題
プロテスタンティズムと実用科学
第4章 機械論的な宇宙における神の活動
序論──歴史のパラドクス
有機的比喩から機械的比喩への転換
機械論哲学は神学によって正当化された
奇跡を擁護したメルセンヌ
人間の尊厳を擁護したデカルト
神の統治を擁護したボイル
神の遍在を擁護したニュートン
機械論哲学がもたらした宗教的憂慮
ニュートンの宇宙における神の活動──ジレンマ、曖昧さ、アイロニー
第5章 啓蒙時代の科学と宗教
序論──体制化されたキリスト教への攻撃
科学の宗教的有用性──ニュートン対ライプニッツ
科学以外の原因による宗教からの覚醒──ヴォルテール
理神論からの攻撃──トーランド、ティンダル
唯物論の脅威──ディドロ、ハラー、プリーストリー
不可知論の脅威──ヒューム
結論:啓蒙時代の多様性——ウェズリー
第6章 自然神学の盛衰
序論──科学の大衆化への貢献
イギリスの自然神学——伝統の発展プロセス
ドイツの自然神学とカント哲学
自然神学の継続した諸機能──エラズマス・ダーウィン
自然神学が科学に及ぼした影響──バックランド、オーエン
科学が自然神学に及ぼした影響
第7章 過去のビジョン——宗教的信念と史的科学
序論──大博物学時代
リンネ——種の固定と疑いの種子
ビュフォン——地球の歴史
ラプラスの太陽系仮説
ラマルクの生命進化説
キュヴィエ——もう一つの生命史観
ライエル——史的科学における史的解釈
ダーウィン——種形成の史的解釈
学問としての歴史——聖書批判の発展
結論——科学的批判主義と史学的批判主義の収斂
第8章 進化論と宗教的信念
ダーウィニズムの挑戦
ダーウィニズムの成功要因
拠り所としてのダーウィニズム——社会ダーウィニズムの多様性
政治的文脈との関連性——フランスとドイツのダーウィニズム比較
「二つだけの選択肢」と進化論的自然主義という「宗教」
進化論に影響された宗教
真理を求めて
第9章 20世紀の科学と宗教
序論──20世紀以降の課題
フロイトの宗教観
新しい科学の理解に向けて——物理学の革命
システムとしての世界——ホリスティックな概念の台頭
科学と人間の価値観
邦訳参考文献
引用文献
人名索引
あとがき
■関連図書(表示価格は税別) |
▲ |
■書評 |
▲ |
●2006.4.8 キリスト教新聞 訳者田中靖夫さんに聞く
宗教・科学 対立史観超えた歴史に注目
…「科学者は辛い思いをしてきた」、「キリスト教は、当時そんなにひどかった」(例えば、ガリレオ裁判)などと思いこんでしまう。そういう対立的な考え方は単純でわかりやすいが、ある極端な見方であって、西洋史の真実でないことを本書から教えられます。…宗教と科学の対立史観を超えた豊穰な互恵の歴史こそ注目すべきものなのです。
●2006.2.18号 図書新聞 村上陽一郎氏 書評
科学と宗教の関係を捉えるために
サイエンスという概念自身の歴史的変遷への考察が必要
…ガリレオ、ケプラー、デカルトらのいわゆる「科学革命」の時期から、今日に至るその複雑な過程を、丹念に誠実に再現しようとする。それも必ずしも科学史の専門書として書かれたわけではないので、どちらかと言えば今でも第一の立場(科学と宗教は対立する)を漠然と受け容れている日本の一般の読者にとって、啓蒙的な役割を果たす書物になるだろう。それは年来同種の努力を重ねてきた評者にとっても、嬉しいこと記しておく。
ただ、評者にとって、根本的な問題が残る。…原著の言葉である英語の「サイエンス」は、19世紀までは「知識一般」であって、決して我々が日本語の「科学」で理解するものではなかった。したがって、本書では「サイエンス」の一言で語られている概念自身の歴史的な変遷にも目を向けなければ、実は歴史の複雑性は(少なくともその一部は)決して解消されないのではないか、というのが、評者の見解である。
●2006.2.17号 週刊読書人 金子務氏書評
「互恵的」交渉を記述
——一筋縄ではいかない科学と宗教の関係
…本書の価値を高めているのは、第五章からの、啓蒙思想・自然神学・歴史学・地球史・進化論といった自然科学的思想の数々が、どう宗教と絡みあうかを、細部にわたって記述する部分であろう。
…ダーウィンは、生物が、聖書にいうように、個々に設計ないし創造されたとする「設計説」や「創造説」を批判して、自然選択による進化説を建てるのだが、ダーウィン自身の信仰は、キリスト教の一般教義を侵害し、理神論から不可知論へと揺れていた。ダーウィン主義の外に有神論的進化論やヘッケル主義もあり、本書はこれらを括った上で、進化論が英仏の政治情勢の荒海の中を教会勢力などとどう結びついたか、読みほぐしていく。…
●2006.1.29 毎日新聞 村上陽一郎氏 書評
対立と否定の歴史観を正す好著
…「科学革命」と言われる17世紀から、啓蒙期を経て、19世紀生物進化論にいたる、「科学」勃興の歴史的な姿を、過不足なく描きながら、そうした過程を担った人々の大部分が、キリスト教と科学を対立させたり、一方が他方を否定するというような考え方に立って行動していたわけではないことを、穏やかな筆致で、しかし説得的に説いていく。その力量はなかなかのものである。…
●2006.1.25 聖教新聞 書評
コペルニクス以来の西欧の思想史を鳥瞰
ヨーロッパ思想史を「科学と宗教」という切り口で鳥瞰する、壮大な試み。その底流には、“科学と宗教はいずれも人間にとって重要であり、どちらかに偏するのではなく両者の長所を活かすことこそ、人類の未来にとって肝要だ”という著者のメッセージが読み取れる…
●2006.1.20 宗教新聞 書評
豊饒で葛藤に満ちた精神史
コペルニクスやガリレオは「科学史のヒーロー」「近代科学の父」などと呼ばれ、教会弾圧に屈せず真理を追究した科学の父祖との見方が定着している。しかし、これは19世紀末、J.W.ドレーパーの描いた「科学者勝利史観」に基づく科学史の影響によるところが大きい、と科学史家の村上陽一郎氏は指摘する。…本書は「歴史から学ぶことを前提として、自然や神への根源的な問いをめぐって駆使した方法論の多様性、機微、巧妙さを紹介」し、新たな認識を与えてくれる。例えば、「科学と宗教の闘争と思われたものが実は科学の対立仮説上の論争だったり、または神学上の派閥闘争だったりする」ことなど。…