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よいよ高山宏氏のエキスたっぷり(!)の『表象の芸術工学』が満を持しての発売となります。心待ちにされている方も多いであろう本作。やっぱり凄いですっ。私はその膨大な情報量に圧倒され、めまぐるしい展開には目眩を覚えました。詳しくはこちら>>>



                     

覧“狂気”の学魔とも呼ばれる氏。既刊の著作を一覧してみると、専門の英文学から視覚文化論、博物学、美術史、江戸、映画‥‥と実に幅広い! 『表象の芸術工学』においても、江戸の視覚表現からマニエリスム、フーコー、ピクチャレスク、英国式庭園、そんでもってユング‥‥‥ってな具合に機略縦横に語っております。私からみれば、一体どうして其処と其処が繋がってんだ? という疑問を抱いてしまうような組み合わせが氏の手にかかれば面白いほどに繋がる繋がる。これこそ、一見没関係な事象を結ぶ知的コネクションズ!! 『黒に染める』のあとがきには───ぼく自身、ヨーロッパ文学に舞台を選んで繋げ、穿ち、越境する快楽を人も羨むほど堪能している───とあるぐらい。知の快楽は相当なものだろうなぁ。羨ましい。

高山宏入門編ということで、チラリタカヤマワールドを覗いてみようと思います。本当にチラリ、です。何故なら深入りしたら最後、あなたはもうその魅力の虜となり、ひたすら彼の著書や膨大な参考文献を読みあさり、無謀にも彼の知に近づきたい!! という欲求に駆られてしまう‥‥ダロウカラ。

高山宏とその周辺 ということで『表象の芸術工学』の参考文献や過去の著作などから、 工作舎本を交えて私が独断で選んだ作品(*は映像作品)を紹介します。ファンの方にはお見苦しく映るかと思いますが、ご勘弁のほど‥‥。
       シムラミドリ



神戸芸術工科大学レクチャーシリーズ
「めくるめき」の芸術工学

杉浦康平=編

A5判 296頁 1998.5
定価 本体2500円+税
 [注文] [目次]


高山氏による“「驚異の部屋」をめぐりめぐって…”を収録。杉浦氏のアートディレクションの下、ヴィジュアル満載のこの論文、高山初心者にもぴったり。凝縮されたその内容は16世紀マニエリスムから18世紀末ロマン派までと幅広く、色々な知と図像に出会える。本当に高山氏は知の宝庫だ!! その他の著者もフラクタル、トランス、三菱エレベーターなどの目がくらむ講義が大変興味深い!! 


よみがえる普遍の夢
キルヒャーの世界図鑑

ジョスリン・ゴドウィン

澁澤龍彦+中野美代子+荒俣宏=付論
川島昭夫=訳
A5変形/上製 318頁 1986.4
定価 本体2900円+税
 [注文]


多くの知識人に 「何だ?! この想像力は」と言わしめるルネサンス最大の幻想科学者アタナシウス・キルヒャー。ノアの方舟、バベルの塔などの図像をはじめ、幻燈器、自動演奏器、盗聴器と、その想像力は尽きることを知らない。特に興味をそそられるのは、中野美代子氏による『シナ図説』の付論。海中から生えた蓮の花に太陽の顔がついた菩薩の像(右図)や頭部が帽子をかぶったイエス・キリストといった風貌の千手千眼観音、表現に窮した様子の見てとれる結跏趺坐のままならない像など、仏像をめぐる奇怪な図版に出くわす。仏教図像学に関する記憶が混乱してこのようなおそるべきイメージになったのだとか。なにはともあれ必見の書!



ルドルフ二世をめぐる美術と科学
綺想の帝国

トマス・D・カウフマン

A5判/上製 384頁 1995.3
定価 本体3800円+税
 [注文]


本書は16世紀プラハに君臨するヨーロッパ美術史における保護者(パトロン)にして蒐集家(コレクター)のルドルフ2世をめぐって展開される。ルドルフ二世における蒐集の意味とは、世界の、そして自然の掌握ということもいわれている。誰しも物に対する支配欲はあるし、豊かな現代においてはコレクターと呼ばれる人たちも大勢いるが、ルドルフ二世はそのスケールも意義も最大級!! 右の絵画はルドルフ二世の宮廷画家でマニエリスムの代表格、アルチンボルドの「四つの季節」のうちの一枚で果実を寄せ集め顔を形成している「夏」という作品。このグロテスクな絵画シリーズ、他にも「四大元素」というのがあって、その一つ、「空気」は鳥で顔を象っているし、「水」は魚で表されている。見れば見るほど奇妙で常軌を逸している。こういう想像力を魔術的というのだな。しかしこの作品にも宮廷的意義があり、単に怪奇趣味というわけではないよう。
ルドルフ二世の仰天コレクションと魔術的世界をご堪能あれ。



都市・巡礼・祝祭・洞窟…迷宮的なるものの解読
迷宮

ヤン・ピーバー

和泉雅人=監訳 佐藤恵子+加藤健司=訳
A5判/上製 436頁 1996.7
定価 本体4200円+税
 [注文]


闇! 謎! 錯綜! 難解! 冥府的! 擬人化もあり?! な「迷宮的なるもの」はパラレルワールドをも露呈させる! というから、迷宮ってものすごく負のエネルギーに満ちた空間なのだ。まさに「ケガレ」の世界。
この本は迷宮神話(例えば半牛半人の怪物ミーノータウロスが幽閉されたというクノーソスの迷宮)や世界各地の祝祭都市、宗教都市、マニエリスム都市、洞窟なんかの建築的質としての「迷宮的なるもの」を考察したもの
そこで本書の中から私が気になった擬人的建築について少し。迷宮と身体の内部(内臓)はともに「冥界」の換喩なんだそうな。迷宮を内臓宮殿とも言ってしまう。そのイメージは擬人的宇宙論にまでいたって考察されていて、巨人としてイメージされた宇宙の心臓部には特別な民族が位置しているというモチーフやらなんやら。人間が空間を考察して形づくって、秩序づけて名前をつけたりするとき、自らの身体を手がかりに表現をするというのだから不思議だ。





綺想の饗宴

高山宏

青土社

饗宴というだけあって、食をめぐる記述がちりばめられています。マニエリスムから美容整形、幻想博物誌、シュヴァンクマイエル…とめまぐるしく展開されるエッセイ集。


イメージの博物誌17
眼の世界劇場

フランシス・ハクスリー
高山宏=訳

平凡社
タイトルのとおり「眼」がちりばめられたビジュアル本。ひたすら眼、目、め。神の眼、理性の眼、第三の眼、邪眼。視覚文化論を語るうえではずすことのできない眼の象徴的意味を、神話や伝説、文学、図像からひもとく。高山氏が解説でも記すように、この本は、ひとつの「眼」のストーリーになっています。


マニエリスム美術
迷宮としての世界

グスタフ・ルネ・ホッケ
種村季弘+矢川澄子=訳

美術出版社

───表沙汰になっているもののうそ、少なくとも、そのつまらなさの陰にいくらでも面白いものがあるということ、ありふれたものでも別チャンネルにつなげば、一挙に面白く見えてしまうことを知った─── 高山氏が二十歳の「無」を突破するきっかけとなった最重要書。今は入手不可能のようなので図書館か古書店で。


*悦楽共犯者

ヤン・シュヴァンクマイエル=監督
1996/チェコ・イギリス・スイス


シュヴァンクマイエルはマニエリスト〈シュルレアリスムの元祖としてのマニエリスムという説を、見事なまでに体現〉であると高山氏は言う。氏は『シュヴァンクマイエルの不思議な世界』をよく著書に紹介されているが、私は『悦楽共犯者』をお勧めする。この作品は性欲倒錯による拝物愛を描いていて、登場する6人はそれぞれの快楽を得るために、切ないまでに〈?〉その飽くなき欲望に忠実に行動する。中でも食パンフェチの女郵便配達人の異常な行動〈食パンをちぎって、丸めては鼻や耳につめる〉には奇妙な感情を覚える。


*英国式庭園殺人事件

ピータ・グリーナウェイ=監督
1982/イギリス

【ピクチャレスク】英国式風景庭園の前提として、イタリア・ルネッサンス以来の風景画の大群がある。先行する膨大な風景画に模してピクチャレスク〈絵のような〉な風景庭園が造られた。これらの風景の特徴は不規則さ、過去への連想、異国的なものへの憧れである。まさしく凝った遊び。
奇才グリーナウェイの長編第一作目となる作品。その映像美、シンボリックな演出は奇怪。今流行の英国式ガーデニングとは異なるディープな英国式庭園を知る一本。


フラッドの神秘宇宙史
交響するイコン

ジョスリン・ゴドウィン
吉村正和=訳

平凡社

『表象の芸術工学』でも紹介されている本書。西欧神秘主義における重要人物ロバート・フラッド〈1574〉の著書『両宇宙史』の邦訳。彼の宇宙観は今なお価値のあるものといえる。大宇宙〈マクロコスモス〉、人間〈ミクロコスモス〉の両世界を、たくさん収められているビジュアルと共に探求する。高山氏曰く───『円相の芸術工学』のヨーロッパ版───のようなものなのだとか。確かに円がいっぱい。とても綺麗な本です。 こちらも入手不可能のようなので図書館か古書店で。


魔術的芸術

アンドレ・ブルトン

河出書房新社

最近普及版も出版された話題の書。この「魔術的」という表現が最初私はどうもしっくりこなかったけれど、ここに収められている図版たちはやっぱり〈?〉「魔術的」だった。特に私はヒエロニムス・ボスが好きで、プラド美術館で『快楽の園』を見たときは理屈抜きに鳥肌がたった。「魔術的」っつうのは、人が普段使っていない神経を逆なでするようだな。


本朝ピクチャレスク事始め
黒に染める

高山宏

ありな書房

かっこいいタイトルです。江戸の世界はこのうえないコネクションズやネットワークであったという。18世紀ヨーロッパにおいて、風景画と観光の流行を生んだピクチャレスク文化は、同時代の日本の文化にも多大な影響を与えた。江戸文化がどのようにしてこの視覚の大変革にのめりこんでいったかを明らかにする視覚文化論。


近代図像学の楽しみ
江戸百夢

田中優子

朝日新聞社

目に直に訴えかけてくる100点の図像と痛快な文章が江戸の世界へ誘います。田中江戸学は高山宏やタイモン・スクリーチと共に江戸の見方を変えた!!


十八世紀日本の西洋科学と民衆文化
大江戸視覚革命

タイモン・スクリーチ

田中優子+高山宏=訳
作品社

18世紀後半、西洋の知識や物品が、 江戸社会に どのような影響を与えていたのか、その様相を膨大な資料から読み解く。鎖国なぞはどこ吹く風‥‥