3/14『TRA』書評
読売新聞・椹木野衣氏、
朝日新聞・ササキバラ・ゴウ氏
読売新聞 椹木野衣氏書評
流儀外れ尊重したもの渡欧時代から描かれた連作「コマ割絵画」は油絵だが、画面はマンガとして読むこともできる。逆に本書では紙に印刷されたマンガが、別の機会ではタブローとなり、果ては立体作品へと変貌を遂げている。つまり立石の試みとは、異なるジャンルに分断することで維持・管理されてきた諸芸術を、ひとつのイメージをめぐって貫通的にメタモルフォーゼさせる手法の、生涯にわたる探求であったと考えられる。異ジャンルの階層なき並列では近年、現代美術作家である村上隆の「スーパーフラット」が著名だ。…立石がアート(ART)や自分の名より尊重したものは、なんだろうか。
それこそが「トラ(TRA)」だろう。本書でもトラ(虎)はその縞模様を自在に操り、前衛も具象も抽象も伝統もサブカルチャーもすべてを潜りぬけ、いつのまにか宇宙の彼方へと姿を消してしまう。この隠遁の術にこそ「トラ」芸術の極意を見た。
朝日新聞 ササキバラ・ゴウ氏書評
コマから生成される物語その楽しさは、アイデアやスタイルの奇抜さももちろんだが、コマが次のコマに向かってどう展開していくかわからない、ダイナミックな読み味がもたらしている。すでに出来上がった物語をコマで表現していくのではない。コマから次のコマが生成されていく経過そのものが、物語やイメージを生み出し、読む者の気持ちをわくわくさせる。そんな、まんがを読む楽しさの原点を改めて実感させてくれる。
これを読むと、なんだか現代の多くのまんがの表現が、どこか窮屈なものに感じられてくるから不思議だ。 *『TRA』は 3/20発売の『デザインの現場』、3月末発売の『装苑』、4月初の『週刊読書人』など、パブリシティが続きます。