工作舎ロゴ 『巡礼としての絵画』図版解説


聖夜にふさわしい「マギの旅行」

クリスマス・シーズンたけなわ。この時期にふさわしいキリスト教関連の書籍に、『巡礼としての絵画』があります。キリスト生誕物語で重要な「マギ(東方三博士)の旅行」がメインテーマです。本書前半はメディチ宮内の礼拝堂に描かれた壁画「マギの旅行」を中心とする図像プログラムを読み解きます。作者ベノッツォ・ゴッツォリが想定した理想的鑑賞者となって、この図像プログラムを辿っていきましょう。

*ここからはwindowを最大にしてご覧ください。


東壁《カスパール》(マギの旅行より) 南壁《バルタザール》(マギの旅行より) 西壁《メルキオール》(マギの旅行より)
内陣左《天使たち》 祭壇画《幼児礼拝》 内陣右《天使たち》

まず礼拝堂に入り、東壁に描かれたマギのひとり《カスパール》の行列から見始めます(左)。そして壁づたいに南壁の壮年《バルタザール》(中央)、西壁の老人《メルキオール》(右)とともに歩みます。マギは白馬に乗ってきらびやかな衣装を身にまとっている人物。メルキオールが半身しかないのは、後世に壁を切り取って階段をつくってしまったから。
そして下段の絵は北壁の内陣部分です。両壁の天使たちに迎えられ、中央に掲げられたフィリッポ・リッピの祭壇画へと導かれます。そこには幼児キリストと聖母マリアが描かれ、画中の行列とともにキリストに対面する《代替の巡礼》が意図されていました。つまり、複数の絵画の配置、鑑賞者の「参加」によって、戦略的な図像プログラムとして構成されていることを明かしているのです。

もちろん壁画の美しさを味わうだけでも十分。登場人物たちの豪華な衣装や、天使たちの羽、遠景の城や都市など細部の描き方も見事です。本文を引用しましょう。

三画面をとおして背景の稜線と手前の道が連続し、行列がこの道をつねに右向きに進んでいくため図像としてのまとまりが保持され、礼拝堂を四分の三周する長大な「マギの旅行」が成立している。通常一画面に収められる「マギの旅行」を三画面に描き分け、三壁面に位置づけることによって、マギが長距離、長時間におよぶ旅程を経て、ベツレヘムであると同時に、後述するように天国でもある内陣へ向かうことが文字通り表現されている。
 東壁ではマギの行列の末尾が岩山の高所の木立からあらわれ、その後方には、この岩山の頂上にある城砦の入口へ道が続いている。行列の起点と考えられるこの城砦は、『マタイ福音書』がベツレヘムへの旅行の途中でマギが立ち寄ったとするエルサレムであろう。西壁のもっとも内陣寄りにあらわれるマギの行列の先頭は、向かいあう東壁の岩山を下る行列末尾に対応するかに岩山を登ってゆく。行列の先頭は先へゆくにしたがって小さくなり、内陣寄りの画面端の直前で山陰に消えてゆく。(中略)
内陣左右の壁画では、天使たちが遊び、歌い、祈っている。(中略)祭壇画近くの天使たちは、そちらの方へ身体を向け、そこに描かれる聖母のようにひざまずき、地面に寝かされた生まれたばかりの幼児に対して祈りを捧げる。(第1章より)





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