前田司郎さん(左)と岡田利規さん(右)
注目の若手演劇人:岡田利規さんと前田司郎さん
2月の新刊は『SPT05』。野村萬斎さんが芸術監督を務める世田谷パブリックシアターの理論誌です。年1回の刊行で今回が5回目。「戯曲で何ができるか?」を特集テーマに据え、萬斎さんの上演作品レクチャーや、橋本治さん、小林恭二さんへのインタビューなど、多彩な顔ぶれでお届けします。
中でも注目株は前田司郎さん、岡田利規さんといった若手劇作家。特に岡田さんは、2008年世田谷パブリックシアターで安部公房作『友達』を演出し、話題を呼びました。そこで第2特集としてフィーチャーし、『友達』上演作品レクチャーや稽古日誌などを掲載します。05号に掲載する前田さんと岡田さんへのインタビューより、レイアウトとテキストを一部をご紹介します。
前田司郎インタビュー 「戯曲の制約と進化 小説作法・戯曲作法から」より
――一般の人が戯曲を読む習慣はあまりないですからね。先ほど演劇は進化したと言われましたが、口語演劇の戯曲スタイルにも関係があるのでしょうか?前田 それもあるかもしれないですね。僕は三〇年ぐらいしか生きていないので、言語がどう変わってきたかなど、そんなに見ているわけではないのですが、たとえば一時期、「今の若い者は何でもかわいいって言う」という批判がありました。僕は、それは全く見当違いだと思っていて、「かわいい」にニュアンスを込められるようになったんですね。この「かわいい」というのは、本当はあんまりそう思っていない「かわいい」だなとか、心底「かわいい」と思っているなとか、かっこいいと思って言っているなとか、「かわいい」にもすごく幅が出てきている。それは字面にすると「かわいい」でしかなくなるから、情報としてはすごく薄くなるんですけど、それを言葉で発した時には、「かわいい」の言い方にいろんな情報を含ませることが出来る。だからコミュニケーション能力は実は上がっていると思うんです。(中略)その少ない語彙でやりきれてしまう。トンカチだけで全部作っちゃう人みたいな。いろんな道具がないと作れない人よりも、たぶん優れた大工は、二、三種類の道具で、ある程度のものが作れてしまう。だから今の優れた戯曲とかも、台詞で表現されている情報は、ギュッと小さくなっている。戯曲を読む時も、その言葉だけで追っていくと、すごくつまらない。その言葉の裏にあるものや、書かれていない部分が必ずあるはずです。いくら小さく、ギュッと言葉が絞られていても、絶対書かれている。それが優れた戯曲だと思います。
岡田利規インタビュー 「幕があがって」より
岡田 身体を見るリテラシーって必要ですよ。僕は別に教育に自分が携わりたいという欲望はないから、それ以上のことは言えないですけど、でも、絶対あったほうがいいと思う。惑わされないと思いますよね。自分の身体を軸にするために必要なリテラシーだと思うんですよね。ロダンとかの大理石彫刻を見て、「このポーズを真似しよう」みたいなことでも、相当面白いと思うんですよ。そうすると、単純に言うと、フォルムじゃなくて、運動として彫刻を捉えるということが出来るようになるはずなんです。彫刻ってそう見ないと面白くない、実は。そうなった時に、そうやって運動として自分の体と一緒に見た時にシンクロできちゃうもののすごさみたいなところにショックを受けるというところまで届かないじゃないですか。「ああ、きれい」とかで終わっちゃうんですよ、フォルムで見ちゃうとね。やっぱりすごい人の作った彫刻の運動はすごくて。そういうことだって、僕、結構大事だと思うんですよね。それはまずは演劇の作り手が持つべきだって本当に思う。
本書は2月20日の刊行予定。表紙など準備でき次第お知らせします。どうぞお楽しみに。