『SPT09 特集:本棚のなかの劇場』の
気になる選書コメント
宮本亜門さんの三冊
『SPT09 本棚のなかの劇場──「劇的なる本」235冊』がいよいよ4/8に発売となります。「演劇づくりの血肉になった本」「制作中、行き詰まった時にひらいてみる本」「役者に読んでほしい本」などなど、演劇人65人が自らの本棚の中から選んだ本たちは、演劇の枠にとらわれず、まさに多彩。小説やコミック、ビジネス書まで、選んだ理由も読み応え十分。言葉のリズムに格闘する人の熱い想いに感動したり、肩の力を抜いた息抜き用の本に共感したり。
上の写真は宮本亜門さんの3冊。『口語訳 古事記 完全版』三浦佑之、『岡倉天心 日本文化と世界戦略』ワタリウム美術館 編、『ジャン・ジュネ全集』全四巻+『恋 する虜』。やはりコメントが気になるところ。『口語訳 古事記 完全版』のコメントの一部を引用します。その他、若手演劇人のなかから印象的なコメントも抜粋してご紹介します。
演劇人のコメントより
宮本亜門
『口語訳 古事記 完全版』三浦佑之
(略)『古事記』は、舞台を彷彿する場もあるだけでなく、元々が語りとして伝えられてきたものを編纂しただけに、言葉の響きそのものに独特の深みがある。つまりは、人間の肉体を通して、語りのライブとして、伝え続けられてきた日本のドラマなのだ。
『古事記』は今も、その神々しさと、猥雑さや笑いに満ちた物語を通して、我々日本人に、魂の根源の在り方を教えてくれている。
木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎 主宰)
『阿修羅のごとく』向田邦子
ほとんど常備薬である。創作に行き詰まった時、絶望した時、なんとなく気分が浮かない時……必ずこの本を開く。そして、いつも「人はこんなにも〈完璧〉な作品を生み出すこと
ができるのか……」と畏怖する。(中略)「言葉が怖い」というのは向田邦子之尊の勅みことのりだが、本当に〈言いたい事〉は言葉では表せないという事と、しかしある時には人の一生を左右するまでの力を持っていることを熟知した〈言葉の神様〉だけが言える言葉だ。そんな作品を前にして「批評の言語」なんて何の力も持たない。本当は〈作品〉たるものこうあるべきものなのだ。言葉を寄せ付けない、作品で全てを語る。私には逆立ちしてもできそうにない。
多田淳之介(東京デスロック 主宰)
『インプロヴィゼーション』デレク・ベイリー
(略)台詞を覚えて、何度も練習して、計画通りに上演する。演劇ではそれが当然のようですが、本当にそれだけなのか? 演劇の上演ではその場で何が起っているのか? 何が起きうるのか? 演劇があたり前のように見過ごしてきたもの、こと、に気が付くきっかけになるかもしれません。
早船 聡(サスペンデッズ 主宰)
『マカロニほうれん荘』全九巻 鴨川つばめ
台本は楽譜であると言った劇作家がいたけれど、この漫画は絵もセリフもロックなビートを刻んでいる。僕はこれを小学生の頃、繰り返し読んだ。ナンセンスなギャグ漫画で何度読んでも面白かったからだけど、のちの自分が一番影響を受けたことは、と言うか身体に刷り込まれていたことはそのリズム、テンポである。どうやら僕にとってはこの漫画の持つテンポが創作する中である基準になってしまっているようだ。台本に行き詰まるとこの漫画を開く。(後略)