『分節幻想』
12/11毎日新聞 養老孟司氏評
生物と形態を考えたい人の必読書
八百六十頁という大著である。めくってみれば、すぐにわかるが、動物それも胎児の図が多い。専門書ともいえるが、扱っている主題はきわめて一般的なものである。動物の体制(ボディプラン)の根本はなにか、という問いだからである。ある基本的な形があって、すべての動物の体制はそこから導かれる。これを古くは原型と呼んだ。
そこには繰り返し構造がある。それが比較解剖学を成立させた一つの前提である。ゲーテがヴェニスの海岸で羊の骨を見る。頭骨の後方部は脊椎と同じじゃないか。その直感から、ひょっとすると頭全体が脊椎と同じ繰り返し構造でできているのでは、と疑う。同時代のオーケンも同じことを感じた。
こうして本書は比較解剖学の歴史をまず追う。登場する学者たちは、解剖学者以外の人にはなじみが薄いであろう。著者は原典をよく読みこんで整理する。学説史をいわば列伝のように書く。その意味では、著者がいうように、どこから読んでもいい。
(中略)現代的な所見も扱っているとはいえ、本書の中心はやはり分節構造であろう。著者を含めて、なぜそれが研究者たちを引き付けてきたか。著者はそれを「幻想」と呼ぶ。分節構造は事実だが、それを原型に求めるのは「幻想」である。つまりヒトの考え方である。
(中略)生物について、さらにはその形態について、考えたい人には本書は必読である。ところどころに息抜きのコラムが入る。こういう筆致で書ける人だから、さらなる健筆を期待したい。[全文は毎日新聞サイトへ]
養老先生、どうもありがとうございます!