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10月の新刊 四方田犬彦著『女王の肖像』


『女王の肖像』

10月の新刊は、四方田犬彦氏の『女王の肖像——切手蒐集の秘かな愉しみ』

さらば帝国、植民地 されど切手は後まで残る。
英国ヴィクトリア女王の肖像から始まった郵便切手は、国家の名刺であるとともに、人を堕落させ、広大な幻をも現出させる蠱惑的な紙片だった。9歳から切手蒐集を続けてきた著者が、かつての切手少年少女たちに向けて、満を持して世に送り出す「ノスタルジアと蒐集の情熱」をめぐるエッセイ集。

書影にもあしらった、世界初の郵便切手「ペニー・ブラック」。当時の治世者ヴィクトリア女王の肖像が描かれ、黒インクで印刷され額面が1ペニーだったことからそう呼ばれました。この世界中の切手蒐集家が望んでやまない「ペニー・ブラック」を、切手の名店「ギボンズ」で購入するに至った顛末をユーモラスに綴る「ペニー・ブラックを買う」から、めくるめく切手の世界へと引き込まれます。

また、切手は国の政治力学によっても利用されます。幅広い文化現象をめぐって著述を繰り広げてきた四方田氏ならではの視点で、切手の絵柄や消印から、さまざまな歴史秘話をあぶりだしていきます。さらに文学や映画で、切手が重要な役割を果たした例として、『ドリトル先生の郵便局』、ベケットの『モロイ』、S・ドーネン監督の『シャレード』、キェシロフスキ監督の『デカローグ:ある希望に関する物語』なども取り上げられています。

本書は造本もひと工夫しています。カバーをかけず、上品な真紅の布クロス装。タイトル部分はクロスに型押しで凹ませた上、切手のようにタイトル紙片を貼り込んだ題簽(だいせん)仕様。さらに背のタイトルは黒箔押し、本を開くとグラシン紙の扉など、思わず手に取りたくなる造本です。
四六判上製、約300ページ、本体2500円+税。10月下旬発売予定。



■目次

◎「ペニー・ブラック」を買う
◎巨大な巻紙
◎外国切手との出会い
◎発行日に駆け付ける
◎文革切手は赤一色
◎なぜソ連がなつかしいのか
◎凹版はどこへ行く
◎目打と無目打
◎エラー切手の愚かしさ
◎加刷の政治学
◎女王の肖像
◎国家の名刺
◎植民地の風景
◎自分で切手を造る
◎切手商とのつきあい方
◎人を堕落させる小さな紙片
◎切手蒐集の終焉


■著者紹介:
四方田犬彦(よもたいぬひこ)

大阪生まれ。映画史・比較文学研究者、詩人、批評家、エッセイスト。『月島物語』(集英社、1992)で斎藤緑雨賞、『映画史への招待』(岩波書店、1998)でサントリー学芸賞、『モロッコ流謫』(新潮社、2000)で伊藤整文学賞、『日本のマラーノ文学』『翻訳と雑神』(人文書院、2007)で桑原武夫学芸賞、『ルイス・ブニュエル』(作品社、2013)で芸術選奨文部科学大臣賞




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