『アルス・ロンガ』より「ロダンの葬儀」
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ロダンの葬儀。参列者のあいだにそびえる《考える人》/『アルス・ロンガ』3章より
新刊『アルス・ロンガ—美術家たちの記憶の戦略』は、美術書売り場で発売中。 読みごたえのある専門書なのですが、興味深いエピソードが図版とともに次々に披露されます。その中でひときわ目を引くのが、彫刻家ロダンの葬儀写真でしょう。代表作《考える人》が参列者のあいだにそびえています。この写真は次のように説明されています。
1917年11月17日、ロダンは(パリ郊外の)ムードンで没した。11月24日にそこで営まれた葬儀の様子を撮影した写真では、《考える人》が参列者のあいだにそびえたっている。そこでは、この彫刻が埋められていない墓の縁に腰かけ、苦悩に満ちた思索に耽りながら、それを制作した彫刻家を覗きこんでいるように見える。
そして、アメリカの美術史家の言葉が引用されます。
[この彫刻は、]芸術は長いが、人生は短いという[…]古代のメッセージを想起させる。ロダンが生涯の終わりに、《考える人》のアイデンティティについての最後の言葉を私たちに残しているかのようである。
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ムードンにはロダンの邸宅兼アトリエがあり、現在はロダン美術館になっています。ロダンは《考える人》のブロンズ像を正面玄関の前、妻ローズの墓のかたわらに建てさせ、自身も葬られることを望みました。《考える人》は、墓と結びつくことによってロダンとの同定が強調されました。それはロダンの望みでもあったといえましょう。
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ロダンの墓。ムードン、ロダン美術館正面/『アルス・ロンガ』3章より