ハンセン病文学に注目!
ハンセン病を超えて生きた「魂の俳人」村越化石の評伝『生きねばや』(荒波力著)を刊行したタイミングで、NHK「100分 de 名著」でハンセン病文学の名著、北條民雄『いのちの初夜』を放送します。
「かつて激しい差別と偏見に晒されていたハンセン病。その病に罹患し、社会から隔絶された絶望的な状況の中で、若き作家・北條民雄が生きる希望を見出したのは「書く」ことを通してだった。書簡を通じて私淑した川端康成の支えもあり、芥川賞の候補にもなった代表作「いのちの初夜」。」(NHKテキストより)
この作品を読んで衝撃を受け、大学で北條民雄について研究したという俳優・作家の中江有里さんが講師を務め、「みずみずしくも巧みに練られた物語の中に、絶望の底にあってもなお折れない「生きる」意志を読みとく」。
100分 de 名著:北條民雄『いのちの初夜』番組放送予定
NHK Eテレ 初回放送: 2023年2月6日(月)午後10:25-10:50
NHK Eテレ 再放送:2023年2月7日(月)午前5:30-5:55
ハンセン病文学者の一人に、俳人・村越化石も数えられます。
北條民雄(1914/大正3〜1937/昭和12)に遅れること8年、1922年(大正11)に静岡県志太郡朝比奈村(現藤枝市岡部町)に生まれた化石は、15歳でハンセン病に罹患し、親元を離れ、草津で長い療養生活に入りました。その中で俳句の世界に光明を見いだしたのです。
若くして亡くなった北条民雄や、歌人・明石海人(1901/明治34〜1939/昭和14)と異なり、化石は戦後に特効薬プロミンを受けることができました。後遺症で両目を失明しながらも、91歳で大往生を遂げるまで、句作に励みます。
化石の師・大野林火は、「北条民雄や明石海人がハンセン氏病の悲惨さ、怖しさのなかに命を終ったのに対し、化石にはその後の長い歳月があった。化石の特色はそこにある。いえば、民雄、海人の知らなかった無菌になってからの生きざまである」と綴っています。
生きてゐることに合掌柏餅
筒鳥や山に居て身を山に向け
向こうから俳句が来るよ冬日和
「これらの句を通して見えて来るのは、彼の澄み切った心である。まるで高僧の良寛のようである。
当時、忌み嫌われたハンセン病に罹患して絶望の淵に突き落とされ、やがて表情を破壊され視力を失った者が、いかにして高僧のように澄み切った境地に至り、優れた作品を残すことが出来たのか。彼にとって俳句とは何だったのか。」(『生きねばや』プロローグより)
『生きねばや』では、化石の生涯を丹念に追います。ハンセン病文学が注目される今、ぜひ村越化石に触れてみてください。