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AXIS 2003年5.6月号 田坂広志氏書評再録 「意図的創発」と「創発的意匠」 |
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なぜ、この宇宙は、これほど美しい秩序や構造を、自然に生み出していくのか。
その問いに対する答えを求めて書かれたのが、エリッヒ・ヤンツの『自己組織化する宇宙』である。 |
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彼は問う。
なぜ、この宇宙はビッグバンによって生まれたのか。 なぜ、この宇宙には無数の恒星が生まれ、その周りに惑星が生まれたのか。 なぜ、この地球という惑星に置いては物質が複雑化と自己組織かを遂げ、生命を生み出したのか。 なぜ、その生命は多様性と進化を遂げ、人類を生み出したのか。 なぜ、人類の精神は、様々な道具や言葉を生み出し、高度な文明や文化を生み出したのか。 そして、なぜ、この宇宙は、「エントロピーの法則」に抗し、複雑化と多様性を遂げ続けるのか。 なぜこの宇宙は、あたかも「宇宙の意匠」を持つかのごとく、自己組織化を遂げ続け、 美しい秩序や構造を生み出していくのか。 |
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それは、おそらく、答えの無い問いである。その問いを、ヤンツは全霊を捧げて問い、そして去った。
しかし、ヤンツが去った後も、この問いに対する答えを求め、歩み続けている研究者たちがいる。 アメリカのニューメキシコ州にあるサンタフェ研究所。その研究者たちである。 3人のノーベル賞科学者が集まって創設されたこの研究所が掲げるテーマは 「複雑系」(complex systems)。 「複雑なものには、いのちが宿る」というグレゴリー・ベイトソンの言葉どおり 複雑なシステムには「創発性」(emergence)と呼ばれる不思議な性質が生まれる。 あたかも、そのシステムが「いのち」や「こころ」をもっているかのように、 自律的に秩序だった構造や挙動が出現するのである。 |
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その「複雑系」の性質を解明しようとするサンタフェ研究所の営みは、ある意味で、
亡きヤンツの遺志を継ぎ、「自己組織化する宇宙」の秘密を解き明かそうとする営みに他ならない。 しかし、この複雑系の研究において、いま興味深い言葉が使われ始めている。 ゛international emergence″である。 「意図的創発」とでも訳すべきこの言葉は、矛盾に満ちた言葉である。 誰の意図にもよらず自然に秩序だった構造や挙動が生まれてくる。 その「創発」のプロセスを、意図的に促す。 では、その絶対矛盾のごとき営みは、いかにして可能か。 例えば、「知の創発」。 人々が自由に集まり、互いに意見を述べ、情報を共有していく。 そうした開放系の場において、新しい知識や知恵が創発的に生まれてくる。 これまで、研究の現場やデザインの現場において優れたアイデアやコンセプトが生まれてくるときには、 必ずと言って良いほど、こうした創発的プロセスが主役を果たしてきた。 それは、まさに、「創発的知識」や「創発的意匠」とでも呼ぶべきものであった。 では、そうした「知の創発」のプロセスにおける「意図的創発」は、いかにして可能か。 それは、実は21世紀において我々人類が取り組むべき、最も深遠なテーマである。 なぜなら、それは、「宇宙の意匠」を生み出そうとする営みに他ならないからである。 |
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ヤンツの抱いた夢は、そのことではなかったか。
この書を読むとき、その思いが去来する。 |
田坂広志(シンクタンク・ソフィアバンク代表、多摩大学・大学院教授) |
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