「はかる」と「わかる」[詳細]
きれいな水はうまい水と違う!
「はかる」ことは「わかる」ことであり、
「わかる」ことが次の「はかる」を生み出します。
それは科学技術にかぎることではなく、人や動物が「生きる」こと自体、
無意識の測定と分析の上に成立している
と言っていいのかもしれません。
対象が発信している見えない言葉をおし「はかり」ながら、
対象を理解するということはまた、
コミュニケーションのプロセスでもあります。
測定・分析とはまさに、
人間が自然の言葉を聞き、理解することでもあるわけです。
(prologueより)
■目次より |
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prologue◎星を見る人——「はかる」と「わかる」
I ワンダーランドへようこそ——分析世界への入り口
1 みかんと鉄の話から
…ミカンを揉む…鉄の国宝
2 分析のための単位基礎知識
…単位のはじめ…基本単位はたったの七つ
3 はかりをはかる
…はかりを決める法律…はかりの日本史…パリの金庫の奥深くに…NASAのイージーミス
4 純水はどこまで純粋か
…生命と水…「きれいな水」と「うまい水」…「純水」と「超純水」
II ニュースな分析——おなじみのエピソードと分析技術口
1 シックハウスとVOC
…オイルショックで生まれた病気の家…緑の浄化パワー
2 お風呂とレジオネラ菌
…風呂好き日本の思わぬ危険…レジオネラ菌が見つけた新しい環境…安全で効果的な消毒のために
3 お肌はどうして弱酸性
…ねずみのひげとクレオパトラ…お肌のpHは歳とともに変る
4 血液の酸性・アルカリ性の嘘
…健康ブームにひそむ危険…血液のpHは海の記憶
III pHをめぐる冒険——導電率と酸性・アルカリ性
1 導電率とイオンをめぐって
…水は分析の基本…自由電子とイオンの活躍…イオンを測るとわかること
2 pHって何
…何でも二つに分けてみる…水素イオンとpH…pHの力
3 導電率とpHの関係は
…いろいろなイオンを測る…pH計も「中性」が基準
4 pHテクノロジーの過去、現在、未来
…pH計発展史…生活をささえるpH測定
IV ガイアのカルテ——地球環境を分析する
1 ガイアの時代
…五つの病…ガイアの治癒力を奪うもの
2 酸性雨が降るとき
…硫酸の雨…酸性雨を測る…海からもやって来る
3 温室化する惑星
…二酸化炭素の少ない時代…正しい決断のために
4 オゾンとフロン
…OとFのプロフィール…紫外線をめぐって…オゾンの二つの顔
5 ダイオキシンの恐怖
…戦争という環境破壊…日常生活が生み出す猛毒
6 土を汚したのは誰
…バブル崩壊後遺症…スピーディな対応のために
7 きれいな水はどんな水
…「栄養たっぷり」の問題…濃度から量へ
8 廃棄物の将来
…廃棄物の歴史…廃棄物の新時代
V 分析ドライブ——自動車と排気ガスの将来
1 アクセルを踏む前に
…タバコと自動車…排ガス規制の起源…運転マナーで排ガス削減
2 燃費とタコグラフ
…燃費の正しい測りかた…環境問題とタコグラフ
3 ディーゼル車とPM問題
…PMには標準物質がない…小さい粒子がいちばんの悪役…煙の白、青、黒
4 超低公害車と低イオウ燃料
…蒸気自動車と電気自動車…走る空気清浄機…燃料も進歩する
5 ダンボウとエンドウ
…いたるところにある排ガス…煙で燃え方を知る
VI ボディ・コスモスの覗き窓——パーソナル医療と健康
1 人体という宇宙
…宇宙への旅の途中で…いちばん身近でいちばん不可思議な世界
2 血液を測る
…人体の水…白血球と病気…血球を数える
3 白血球と職人技
…標本づくりの職人…職人機械の登場
4 喘息と分析
…花粉とアレルギー…パーソナル医療の充実に向けて
VII 見えない光の世界——光の多様な性質を利用して
1 光の幅と奥行と
…「最初に光ありき」…視覚を超えて
2 温度が見えると
…進化する温度計…二次元放射温度計の仕組み
3 X線顕微鏡登場
…X線にもいろいろある…X線を絞り込む
4 放射線の常識
…「死の灰」の正体…悲観と楽観を超えて
5 光を見るか、温度を見るか
…CCDの秘められた力…バイオセンサの可能性
VIII テクノロジーの先端で——次世代技術のために
1 水素の時代
…水素エコノミー…水を原料にするために
2 ナノテクの楽園へ
…楽園の見取り図…準備のために…DMAによって広がる応用分野
3 半導体のフィールド調査
…東京ドームのテントウムシ…ITをささえる化合物半導体
4 人間の感覚と技術の最先端
…人海戦術を超える…二十一世紀の分析技術
イラストレーション=木野鳥乎
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■書評 |
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●2004.3.13 朝日新聞夕刊 小林照幸氏(ノンフィクション作家)
ダイオキシン、酸性雨、排ガスなど身近な環境問題の深刻さを具体的に感じるのは、それらを測定し、分析する技術があるからだ。
数値は「人体が蝕まれているぞ!」という警告と示唆を含む。「地球に何が起きているか」を、我々は分析技術によって把握すると言ってもよい。
堀場製作所は、分析・計測機器の総合メーカーだが、本書は自社技術の宣伝本ではない。「お肌はどうして弱酸性?」「運転マナーで排ガス削減」など、身近な事柄をテーマにした平易な科学エッセーだ。
書名の「はかる」は「計る・測る・量る・図る」。漢字の意味で対象を分析してゆくと、「物事の本質=地球の内なる言葉」が見えてくるとの意味である。
「人類の歴史と分析技術の積み重ね」と本書はいう。時間の長さ、量などを表す「単位」は、古代に自然現象を通じて発見され、その発見が次の発見を生み、国境を越え、常識となった。この現象は今も変わっていないし、日常のくらしに変化が起きたときは、分析技術に革新が起きているはずなのである。
日常なにげなく「単位」を使う私たち一人一人も実は科学者なのだな、と読後に気がつく。
●2004.3.12号 日刊ゲンダイ
「測定・分析機器は、人間が自然の言葉を聞き、理解するためのメディアでもある」と著者はいう。本書は、現代生活の中で活躍するそんな「分析技術」をめぐる科学エッセー。
ミカンはもむと甘くなるという俗説の検証やお肌にはなぜ弱酸性が良いのかなどの、身近な話題から、自動車のカタログに載っている燃費の測り方や病院で使われている「自動血球計数装置」など。興味深いエピソードを交えながら、分析技術や機器分析の世界を案内してくるれる知的好奇心をくすぐる一冊。