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巡礼としての絵画[詳細]

目次著者紹介関連図書書評


コジモ・デ・メディチが求めた救済の図像プログラム

フィレンツェ、メディチ宮の礼拝堂を飾る
絢爛豪華な壁画「マギの旅行」。
この作品は注文主コジモをはじめメディチ家の人々描かれたことで
つとに有名だが、それだけではない。
礼拝堂に巧みに配置された複数の絵画が呼応しあい、
「代替巡礼」の図像プログラムを構成していた。

この図像プログラムを生み出し、
自らを画中に描いた画家ベノッツォ・ゴッツォリは、
観る者に指示を与え、天国へと導く。
絵画における「語りの技法」を丹念に追う。

ゴッツォリ「マギの旅行-カスパール」

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■目次より


第1章 パラッツォ・メディチ・リッカルディ礼拝堂の図像プログラム

1 礼拝堂・図像プログラム・パトロン
  メディチ家の政治的プロパガンダ
  キリスト教的コンテクスト
2 天国への巡礼としてのマギの旅行
  現世としての身廊と天国としての内陣
  『ヨハネ黙示録』にもとづく終末における救済
3 鑑賞者/信者への効果
4 信心を助ける装置としての図像プログラム

第2章 代替の巡礼と絵画の機能

1 キリストの生涯と受難の出来事とそれが起きた聖地
2 西欧に作られた代替の聖地と図像の機能
  聖墳墓と聖墳墓聖堂のコピー
  キリスト受難のテーマパーク
  サクロモンテ
3 想像による巡礼
  パレスティナ巡礼記
  パレスティナ地図
4 巡礼を経てキリストの生涯と受難の出来事へ導く絵画

第3章 マギ図像と鑑賞者

1 マギにならうことと霊的救済への期待
  埋葬美術
  マギ同信会の説教
2 マギ図像における鑑賞者/信者を引きこむストラテジー
  鑑賞者のための空所をふくむマギ図像
  マギの不在と〈天への通路〉
3 コジモ・デ・メディチとマギ
4 ベノッツォ・ゴッツォリのマギ図像

第4章 ベノッツォ・ゴッツォリの語りと絵画の場——聖フランチェスコの生涯から聖アウグスティヌスの生涯へ

1 モンテファルコの聖フランチェスコの生涯
  図像と画面の形態と位置
  物語の分節/連続と画枠の性質
2 サン・ジミニャーノの聖アウグスティヌスの生涯
  画面の位置と形態に関するストラテジーの完成
  物語の分節の明確化——壁面と段を利用するチャプタリング
  場面間の連続とそこに読みこまれる意味
3 ベノッツォ・ゴッツォリの語りの技法の発展とパラッツォ・メディチ礼拝堂の位置づけ

第5章 ベノッツォ・ゴッツォリの語りの技法の源泉——フラ・アンジェリコから学んだもの

1 フラ・アンジェリコとベノッツォ・ゴッツォリ
2 語りの技法の源泉
  図像の解体と再結合——オルヴィエート大聖堂サン・ブリツィオ礼拝堂の《最後の審判》
  場面間の分節と結合
  画面の位置の活用——ヴァティカン宮ニコラウス五世礼拝堂の聖ラウレンティウスの生涯と聖ステパノの生涯
3 場面の時間的、空間的位置づけ

第6章 語り手としてのベノッツォ・ゴッツォリ

1 作品中にあらわれるベノッツォ・ゴッツォリと15世紀フィレンツェの美術家の姿
  15世紀フィレンツェの美術家の自画像/自刻像
  ベノッツォ・ゴッツォリのサインと名前を読みこむ銘文
2 ベノッツォ・ゴッツォリの絵画の先進性と画家としての自意識
  古代への関心
  トロンプ・ルイユ
  絵画技法
3 語り手としての自画像
4 15世紀絵画にあらわれる語り手の姿とベノッツォの自画像


あとがき

家系図・地図
文献・略号
図版リスト
人名・美術作品名・著作名索引



■著訳者紹介

前川久美子 (まえかわ・くみこ)
獨協大学外国語学部教授。専門は西洋美術史、とくに中世の装飾写本とルネサンス絵画。東京大学教養学部卒業、パリ第IV大学第三(博士)課程修了。 英文著書『語りと経験—13世紀の絵本における革新』(Narrative and Experience: Innovations in Thirteenth-Century Picture Books, Frankfurt a.M, 2000.)では、『聖ルイの詩編』など、13世紀の写本の中で成立している絵画の〈語り〉について考察。その他の著書として、「書物の経験とイメージの読解」(“Book Experience and Image Reading” in The Enduring Instant: Time and the Spectator in the Visual Arts, ed. A. Roesler-Friedenthal / J. Nathan, Berlin, 2003)、『世界美術大全集ゴシック(2)』(小学館、共著、1994)、「写本絵画の物語叙述とコンテクスト」(『中世ヨーロッパを生きる』甚野尚志,堀越宏一編、東京大学出版会、2004)、翻訳に、エバーハルト・ケーニヒ『ベリー公のいとも美しき聖母時祷書』(日本語版監修:辻佐保子、岩波書店、1994)などがある。




■関連図書(表示価格は税別)

  • バロックの神秘  E.ハルニッシュフェガー 工作舎 8000円
  • 綺想の帝国  トマス・D・カウフマン 工作舎 3800円
  • ルネサンスのエロスと魔術  ヨアン・P・クリアーノ 工作舎 4800円
  • 迷宮  ヤン・ピーパー 工作舎 4200円
  • 表象の芸術工学  高山 宏 工作舎 2800円
  • 本の美術誌  中川素子 工作舎 2500円
  • 色彩論 完訳版  ゲーテ 工作舎 25000円



  • ■書評

    「歴史と地理 世界史の研究」2010/8月号
    あれほどの繁栄を誇ったコジモ=デ=メディチが、だからこそ、その経済的繁栄に罪深さを感じて霊的救済を深く追求したというその姿や、巡礼が聖遺物や聖地のコピーを訪れるという代替巡礼として、また絵画の図像プログラムを通じた巡礼体験という形で脈々と続いていたということなどから、当時の人々に内在化されたキリスト教の存在や心理を感じられた。(中略)聖アウグスティヌスや聖フランチェスコの生涯が、言葉よりも絵画のほうがなんだか迫るものを感じたりもする。
    カラーも含む、ふんだんな図版を通じての解き明かしがまるで美術館を訪れたがごとく楽しく、またルネサンス期の人々の心に触れさせてくれる本書を是非一読されることをお勧めする。 山川志保(東京学芸大学付属高等学校教諭)/「歴史と地理 世界史の研究 2010/8月号」山川出版社刊


    daily-sumus 林哲夫氏書評
    前川久美子『巡礼としての絵画ーーメディチ宮のマギ礼拝堂とゴッツォリの語りの技法』(工作舎、二〇〇九年)を読み終わった。エキサイティングとかスリリングとかそういう興奮ではなく、淡々と例証を積み上げて結論を導くというオーソドックスな手法の周到さに感嘆した。
    ルネサンス絵画に限らず美術は美術そのものとして鑑賞されたのではなく、ひとつの手段として受容された、ちょうど建物がそれぞれに目的をもっているのと同じように絵画にもその時代ならではの使命があったわけだが、その受容という観点から絵画を読み解く、これが当今の美術史のメインストリームらしい。当時の人間の視点で絵を見る。そうすれば何故そういう画像がああいうふうに描かれたのかが自然と見えてくる。… 全文は daily-sumusサイトへ




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