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桂離宮のブルーノ・タウト[詳細]

目次著者紹介関連図書関連情報書評



日本は眼に美しい国である─ブルーノ・タウト

ブルーノ・タウトがモスクワでの設計活動を終えてベルリンへ戻ったのは、1933年2月のことだった。すでにドイツはナチス政権下にあり、タウトはナチスから逃れるようにして日本への亡命の途についた。タウトの日本上陸は1933年5月3日。翌4日には桂離宮へ案内され、およそ3時間半にわたり御殿から御庭まで隈なく見学している。タウトの53歳の誕生日でもあった。彼は、その日の『日記』に「今日はおそらく私の一生のうちで最も善美な誕生日であったろう」と記している。こうしてタウトは桂離宮との劇的な出会いを果たしたのである。

翌年5月7日、タウトは2回目の桂離宮の拝観をおこなった。9日の午後には日本の筆で二十六葉が一気に描き上げられた。タウトはその結論部の第二十三葉で、「眼は論攷と芸術の、哲学と現実の媒介者である」と述べている。唯物的な現実の世界と、精神的な美学としての芸術的な哲学の世界の両者を架橋するものとして、身体知である視覚認識の重要性が指摘された。その視覚をもとにして、桂離宮の御庭や御殿に様々な関係性を見出したタウトは、精神的な意味の地平におけるまったく新しい、関係性の芸術の可能性を提唱したのである。


 帯の煌めき|『『桂離宮のブルーノ・タウト』写真


■目次より

まえがき 『画帖桂離宮』とは何か
日本語訳書文献リスト

第1章 桂離宮—『画帖桂離宮』の誕生

 第1節 桂離宮のブルーノ・タウト

第2章  御庭—『画帖桂離宮』の前半の構成と主題

 第2節 表紙
 第3節 思惟するのは視覚である
 第4節 御殿へのアプローチ
 第5節 御庭の松琴亭へ
 第6節 松琴亭から賞花亭へ
 第7節 新御殿の御庭と伊勢
 第8節 御庭から導き出された結論

第3章 御殿—『画帖桂離宮』の後半の構成と主題

 第9節 御殿の意匠
 第10節 空間の軸と動線
 第11節 建築家の三つの条件
 第12節 芸術の精神への変換
 第13節 惜別の辞

『画帖桂離宮』全体構成
あとがき 関係性の美学から中動態の美学へ

索引



■ブルーノ・タウト Bruno Julius Florian Taut, 1880-1938

ドイツ、ケーニヒスベルク生まれの建築家、都市計画家。鉄の記念塔(1913)、ガラスの家(1914)が評価され、表現主義の建築家として知られる。ナチスの迫害から逃れるために、1933年に来日し3年半滞在。仙台や高崎で工芸の指導や、日本に関する文章を書いた。1936年にトルコへ移住し、数多くの建築設計に携わる。
主な著作に『アルプス建築』『建築藝術論』『都市の冠』など、日本関連のものには『画帖桂離宮』をはじめ、『ニッポン』『日本美の再発見』『日本文化私観』『日本 タウトの日記』などがある。


ブルーノ・タウト|『桂離宮のブルーノ・タウト』写真


■著者紹介

長谷川 章 (はせがわ・あきら)
1954年東京生まれ。1979年早稲田大学大学院修士課程修了。1985年DAAD西ドイツ政府所給費留学(アーヘン工科大学)。『北ドイツ表現主義建築の研究』で工学博士(早稲田大学)。東京造形大学教授、早稲田大学非常勤講師。専門はドイツ近代建築史。2019年に『ブルーノ・タウト研究─ロマン主義から表現主義へ』(ブリュッケ、2017)で日本建築学会著作賞受賞。著書に『ドイツ表現主義の建築』(鹿島出版会、1989)『世紀末の都市と身体─芸術と空間あるいはユートピアの彼方へ』(ブリュッケ、2000)、『芸術と民族主義─ドイツ・モダニズムの源流』(ブリュッケ、2008)、『絵画と都市の境界─タブローとしての都市の記憶』(ブリュッケ、2014)、『分離派建築会─日本のモダニズム建築誕生』(共著、京都大学学術出版会、2020)、『田園都市と千年王国─宗教改革からブルーノ・タウトへ』(工作舎、2021)。建築設計に「横浜人形の家」(商業環境デザイン大賞、神奈川県建築コンクール優秀賞受賞、1986)、「渋谷東急百貨店東横店」(北米照明学会特別表彰受賞)。




■関連図書(表示価格は税別)

  • 田園都市と千年王国 長谷川 章 4800円
  • 摩天楼とアメリカの欲望 トーマス・ファン・レーウェン 3800円
  • 茶室とインテリア 内田 繁 1800円
  • 喪われたレーモンド建築 東京女子大学レーモンド建築 東寮・体育館を活かす会=編著 2400円
  • 漁師はなぜ、海を向いて住むのか? 地井昭夫 2800円
  • 空間に恋して 象設計集団=編著 4800円



  • ■関連情報

    2024年日本建築学会著作賞受賞
    『桂離宮のブルーノ・タウト』が2024年 日本建築学会著作賞を受賞しました(一般社団法人 日本建築学会|2024.4.19発表)。選考理由には 「…豊富な図版に、新たな日本語訳を付した画帖の縮小画像を挿入するなど、資料としての価値も高く、今後の桂離宮やタウト研究において定番書として参照されていくものと考えられる。日本文化論や日独関係論としても意義を持ち、日本国内はもちろん国際的に見ても建築文化の枠を広げる優れた業績と言えよう」 日本建築学会賞|2024年各賞受賞者




    ■書評

    図書新聞 2023年3月18日号 赤木良子氏(星槎道都大学美術学部デザイン学科非常勤講師)
    「ブルーノ・タウト『アルプス建築』と『画帖桂離宮』を繋ぐもの」
    本書を通して、『画帖桂離宮』が単なるスケッチ集ではなく、
    タウト自身のいう“建築理論書”であることが、初めて明らかにされる

    …著者はタウトが『アルプス建築』において表現した重要な概念である“共同体”と桂離宮との接点に辿り着く。それはまさにドイツ・ロマン主義の精神世界であった。
     研究の展開には、近年ようやくタウトの日本での著作群がドイツ語原文で出版されたことが背景にある。本書はいち早く、日本におけるタウト研究の新たなフェーズにおける書籍となったのではないだろうか。

    週刊読書人2022年12月16日号 藤林道夫氏(フランス文学)
    桂離宮の美と照応するタウトの精神世界 「思惟するのは視覚である」

    …御庭を論じる前半は、18世紀ドイツ・ロマン主義の世界観で締め括られる。ベートヴェンの交響曲に代表される精神世界と響き合う桂離宮というテーマを提示することで、著者はタウトが決して単なるエキゾティズムによる印象批評ではなく、それまでの自身の経験と知識を充分に踏まえて桂離宮を評価したとその姿勢を強調している。
     御殿を論じる後半においてはより広い世界が展開する。最後の三葉は小堀遠州に捧げるエピローグとなっている。その前に本書の核心ともいえるタウトの文章が考察される。著者の訳では「思惟するのは視覚である」。タウトは同じ文章を前半の冒頭にも記している。まさにこの非人称且つ能動でも受動でもない境地にこそ桂離宮の美は照応するというのだろう。そしてエピローグでは、小堀遠州を通してタウトの理解した禅の精神世界について著者の思索が繰り広げられていく。…






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