摩天楼とアメリカの欲望[詳細]
超高層ビルの崩壊は、宿命か!?
「商業の大聖堂」を建てた百貨店王フランク・ウールワース、
「世界最高にして世界の中心」の自社ビル建設をめざした
新聞王ジョゼフ・ピュリッツァーなど、
世俗の権力欲と霊的昂揚への憧憬のダイナミズムをあわせもつ
摩天楼の魅力に迫る。
■目次より |
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まえがき |
アタナシウス・キルヒャー 「ウルブス・トゥリタ(塔の街)」,1682 ウールワース・ビル 1913:絵葉書 ヒュー・フェリスの 幻想的な絵 「宗教」 The Metropolis of Tomorrow, 1929 |
■訳者あとがきより |
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…筆者の博覧強記には眼を見張らされる。摩天楼の背後に神話構造を見てとり、フレイザー、エリアーデ、ブローデルと宗教学や歴史学をめぐる言説を渉猟する。「世界の七不思議」をキーワードとしてバロックの建築家フィッシャー・フォン・エルラッハから20世紀の画家ヒュー・フェリスに到る「驚異の建築」の系譜を整理して、20世紀のバビロンの原点を探り当てようとする。さらには進化論の観点から摩天楼に着目したイギリスの哲学者ハーバート・スペンサーからシンボルの構造をめぐるエルンスト・ゴンブリッジの言説に到る精神史の流れを検証する。
…一般に受け入れられているトールマッジ、マンフォード、ヒッチコックと流れるアメリカの建築史家の系譜に疑問を挟み、クロード・ブラングドンのように忘れ去られていた歴史家を発掘し、チャールズ・ハリス・ホィッタカーといったマイナーな批評家を引用する。あえて主流ではないところに摩天楼を解く秘密を嗅ぎ取り、いったんヨーロッパのロジックに引き寄せてそこから別個の論理を構築しようとする意欲は見上げたものである。
同国人コールハースとは関心を共有し、彼が摩天楼が密集するニューヨークに記号論的な意味作用を見てとって『錯乱のニューヨーク』と題した著書を世に問うたのに対して、ファン・レーウェンはその歴史のメタフィジックスを展開するわけである。(三宅理一)
■関連図書(表示価格は税別) |
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[天空志向]
[ゴシック!]
[日本の摩天楼]
[工作舎の建築関連図書]
■関連情報 |
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9/11から1カ月間、青山ブックセンター六本木店にて、『摩天楼とアメリカの欲望』刊行記念ブックフェア「天空志向——上へ上へ立ち昇るもの」を開催いたします。
本書は、アメリカの超高層ビルに文字どおり摩天(天空志向)の思想を読み取る書。摩天楼、エッフェル塔、東京タワーなど高層建築、ゴシック大聖堂をはじめ、本文中に数多く引用されるキルヒャー、エリアーデ、バシュラールなどの著作も集めました。幻想的な画風で人気のヒュー・フェリスの画集(洋書)も取り寄せ。
折しも2棟の摩天楼が標的にされた、9.11事件から5回目の季節がめぐってきました。摩天楼には民主主義を標榜しながらも「帝国」をめざすアメリカの深層意識が反映されています。アメリカという国の本質を知るうえでも格好の企画、ぜひお立ち寄りください。
※フェアの写真はこちら>>>
『摩天楼とアメリカの欲望』刊行記念ブックフェア
「天空志向——上へ上へ立ち昇るもの」
青山ブックセンター六本木店
■書評 |
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●週刊読書人 2006.12.8 小沼純一氏 書評
メタファーとしての摩天楼 遠い過去の滅んでしまった栄光を再現
…いまでこそ写真で見慣れてしまっている超高層ビルの立ちならぶ光景に、ひとりのオランダ人が疑問を投げかける。これはどんな発想から生まれたのか。なぜヨーロッパではなくアメリカなのか。なぜ広大な土地がありながらも、狭いところに密集するように建てられたのか。それは従来のように、経済や商業、あるいは素材や建築の発達のみで解き明かされるものではない。そう主張され、本書が生まれることになる。…
たしかにアメリカにおける超高層ビルをめぐる、つまりは建築についての著作ではある。実際の建築を参照し、ときには特定の建築家の思想を、その評価や評判にも目を配りつつ、あぶりだす。多くの図版を使い、さまざまなタイプの摩天楼を目にし、さらには古い神話的時代の図像を対照させてくると、これまであまり意識してこなかったことどもが見えてくる。しかしまた本書は、建築以上にアメリカという集合的意識、無意識をめぐる論考、メタファーとしての摩天楼を解読したアメリカ論なのだ。…
●週刊文春 2006.11.30号 酒井順子氏 書評
遠い東京、摩天楼、不吉なアメリカ
…『摩天楼とアメリカの欲望』を読んで、私が六本木ヒルズを見上げる時に感じるまがまがしさのようなものを、摩天楼が登場した時にアメリカの人々も感じていたということを知って、何となくほっとした。あまりに巨大な見慣れぬものは、どこの国においても人を不安にさせるにもかかわらず、しかし人はそのような建物を作らずにはいられない。…
●2006.11.12 読売新聞 林道郎氏 書評
天空への妄想と神話
…ニューヨーク(マンハッタン)を外から眺めると、いつもなんとも言えない気分のおそわれる。あの小さな島に林立する高層ビル群は、軍艦と見まがうばかりの力を誇示していながら、銀幕に映しだされた幻のように、どこか現実味がない。それは天空を切り裂きつつも、よるべなく中空に漂うと見えるあのビル群が、テクノロジーの確かな達成であると同時に、高さに託された妄想の痕(あと)でもあるからだろう。
事実、本書をひもとけば、十九世紀後半から二十世紀前半にかけて、シカゴやニューヨークを襲った摩天楼熱の背景には、技術論や様式論をこえた「欲望」の組織的動員があったことがよくわかる。その「神話的構造」が、行き届いた調査によってみごとに炙りだされている。…
●bk1 書評
自説を証明する、っていうのに言葉ではなくて、写真と図版を上手に使う、これってとっても分かりやすい。何でアメリカの高層ビルの天辺があんな形だったのか、良く分かります
…カバー写真があまりにみごとで、こういうシンプルでストレートなブックデザインもいいなあ、と、ついつい手にして読んでしまいました。そして、映画などでよく見るアメリカの古い摩天楼の多くが、なぜあのような形をしているのかという疑問が解けました。…
全文はbk1サイトへ
●2006.10.1 東京新聞 書評
<聖と俗>の神話構造を大胆に分析した建築史
…現代版バベルの塔と言える<世俗的な大聖堂>にはどんな世界観が投影されていたのだろうか。強迫神経症的な垂直指向を自由競争のトーテムに見立て、旧体制の欧州とは異なる天地創造の野望を読み取るなど、文明論の観点から深層を探る。<聖と俗>の神話構造を大胆に分析した建築史。
●2006.9.17 日本経済新聞 書評
高層建築から読む米国の心象
…本書は、オランダの建築史家が摩天楼に魅入られた人々と米国社会のありかを描く摩天楼の精神史だ。高さは成功の価値を示す。 …著者はこうした世俗的な欲望の背後にある神話的な構造を掘り下げる。高層の建築物は神の警告を無視して築き上げられたバベルの塔になぞらえられる。ゴシック様式の尖塔はそれ自体宗教的モチーフだ。「歴史がない」米国で高層建築で都市の秩序が形作られる様は、いわば近代の宇宙創造という。世界の覇権を競い始めた当時の米国のアナロジーを見いだすことも可能だ。…