工作舎ロゴ 書籍解説

HOME > 書籍 > ジャンル一覧新刊一覧 > 摩天楼とアメリカの欲望/基本データ




摩天楼とアメリカの欲望[詳細]

目次 著者紹介 あとがき関連図書関連情報書評



超高層ビルの崩壊は、宿命か!?

ニューヨークの摩天楼

「商業の大聖堂」を建てた百貨店王フランク・ウールワース、
「世界最高にして世界の中心」の自社ビル建設をめざした
新聞王ジョゼフ・ピュリッツァーなど、
世俗の権力欲と霊的昂揚への憧憬のダイナミズムをあわせもつ
摩天楼の魅力に迫る。




■目次より

まえがき
序章 すばらしき摩天楼の時代
   ◎天空志向
   ◎資料
   ◎形式

第1章 天空志向 「摩天楼──革新か伝統か」
   ◎現代のバビロン
   ◎シカゴ・トリビューン社設計競技
   ◎サリヴァンとサーリネン
   ◎トーテムとしての摩天楼

第2章 万物の復興 あるいは摩天楼の再興
   ◎始源において、すべての世界はアメリカだった
   ◎最後のコスメトロポリス
   ◎素敵! これぞ都市ね
   ◎建築の再構築
   ◎われわれの背後に永遠が横たわっている

第3章 聖なる摩天楼と世俗的な大聖堂
   ◎そのなかに教会はひとつも含まれていない
   ◎商業の大聖堂──ウールワース・ビル
   ◎物質主義の優越
   ◎幼形進化
   ◎競争
   ◎自己教養
   ◎原理の栄光
   ◎学問の大聖堂──ピッツバーグ大学
   ◎スカイラインに十字架の復活を!
   ◎擬神化

第4章 自然成長の神話──新聞ビジネスの夢
   ◎森林──エクイタブル・ビルとゾーニング法
   ◎閉ざされた庭(The hortus conclusus)
   ◎変転するスカイライン
   ◎集積した庭(Hortus congestus)
   ◎遠距離矯正メディア
   ◎投機の庭(Hortus speculativus)
   ◎欠乏の吸引力と商業広場恐怖症
   ◎求心力
   ◎新聞社街── サド・マゾ的な闘技場
   ◎レンガとモルタルのキリン──ニューヨーク・トリビューン
   ◎偉大な道徳機関
   ◎摩天楼──封建男爵
   ◎価値化とはすべて垂直化なのである
   ◎二つの夢──ジョゼフ・ピュリッツアーの衝動
   ◎先端巨大症

第5章 自然成長の神話 2── アメリカ精神の伏流
   ◎ワイルドワーク
   ◎摩天楼問題──道徳的かつ審美的議論
   ◎サリヴァン「芸術的な価値をもつ高層オフィスビル」
   ◎有機的自然の形態形成
   ◎建築的錬金術
   ◎クロード・ブラグドンの建築秘儀
   ◎凍れる音楽
   ◎『凍れる噴水』
   ◎シンドバッド
   ◎悲しみの聖母に捧げる賛歌──ゴシック摩天楼
   ◎エネルギー
   ◎芸術的クーデター
   ◎田園的庭園──クランブルック芸術学院
   ◎クライスラー・ビルと宇宙のシンボリズム

注/ 参考文献/ 事項索引/ 人名索引
訳者あとがき
著訳者紹介

キルヒャー「ウルブス・トゥリタ(塔の街)」
アタナシウス・キルヒャー
「ウルブス・トゥリタ(塔の街)」,1682

ウールワース・ビル
ウールワース・ビル
1913:絵葉書

ヒュー・フェリス「宗教」
ヒュー・フェリスの
幻想的な絵 「宗教」
The Metropolis of Tomorrow,
1929



■著訳者紹介:トーマス・ファン・レーウェン Thomas van Leeuwen 1941-:

ライデン大学教授として、長年にわたり建築史・文化史・芸術批評を講ずる。1971年にアメリカに渡り、ドキュメンタリーフィルムの制作スタッフやコロンビア大学の客員教授、ワシントンDCのナショナルギャラリー研究員などを歴任。アメリカ建築史のみならずヨーロッパ精神史全般わたる該博な知識とジャンルにとらわれない軽快なフットワークにより多彩な活動を展開。著書は本書のほかに、『池の中の飛込台──プールの詳細な歴史』(1998)がある。空、水に続いて、地、火、および運動も加えた五部作を構想している。

三宅理一(みやけ・りいち) 1948-:

1972年、東京大学工学部建築学科卒業。75年よりフランス政府給費留学生としてエコール・デ・ボザール、パリ = ソルボンヌ大学に留学。79年卒業。芝浦工業大学教授、リエージュ大学客員教授を経て99年より慶應義塾大学大学院政策メディア研究科教授。専門は、建築史、地域計画、デザイン理論で、文明論的な視点から世界各地で文化振興、遺産保護、地域振興等のプログラムを手がける。ルーマニア、中国での世界遺産保護、フィンランドのアートガーデン計画などを実施する一方、ポンピドーセンターやドイツ建築博物館、ヴィトラ・デザイン・ミュージアム等で共同展示企画を実現。著書に、『世紀末建築』全六巻(講談社1984)、『エピキュリアンたちの首都』(学藝書林1989)、『次世代街区への提案』(鹿島出版会1998)、『文化をつむぎ文化をつくる』(鹿島出版会2004)など。

木下壽子(きのした・としこ) 1969-:

1993年、日本女子大学家政学部住居学科卒業。芝浦工業大学大学院修士課程修了後、英国に留学。96年、ロンドン大学大学院修士課程を修了後、ロータリー財団国際親善奨学生としてグラスゴー大学マッキントッシュ建築学校で研究を行う。東京理科大学非常勤講師などを経て、現在、東京大学大学院工学系研究科松村研究室博士課程に在籍。研究、執筆、翻訳活動のかたわら、(株)アビターレ代表取締役として、集合住宅の企画・管理事業も推進。編著書『20世紀のモダン・ハウス:理想の実現』(エー・アンド・ユー2000))。



■訳者あとがきより

…筆者の博覧強記には眼を見張らされる。摩天楼の背後に神話構造を見てとり、フレイザー、エリアーデ、ブローデルと宗教学や歴史学をめぐる言説を渉猟する。「世界の七不思議」をキーワードとしてバロックの建築家フィッシャー・フォン・エルラッハから20世紀の画家ヒュー・フェリスに到る「驚異の建築」の系譜を整理して、20世紀のバビロンの原点を探り当てようとする。さらには進化論の観点から摩天楼に着目したイギリスの哲学者ハーバート・スペンサーからシンボルの構造をめぐるエルンスト・ゴンブリッジの言説に到る精神史の流れを検証する。

…一般に受け入れられているトールマッジ、マンフォード、ヒッチコックと流れるアメリカの建築史家の系譜に疑問を挟み、クロード・ブラングドンのように忘れ去られていた歴史家を発掘し、チャールズ・ハリス・ホィッタカーといったマイナーな批評家を引用する。あえて主流ではないところに摩天楼を解く秘密を嗅ぎ取り、いったんヨーロッパのロジックに引き寄せてそこから別個の論理を構築しようとする意欲は見上げたものである。

同国人コールハースとは関心を共有し、彼が摩天楼が密集するニューヨークに記号論的な意味作用を見てとって『錯乱のニューヨーク』と題した著書を世に問うたのに対して、ファン・レーウェンはその歴史のメタフィジックスを展開するわけである。(三宅理一)




■関連図書(表示価格は税別)

[すばらしき摩天楼の時代 1870-1935]
  • 錯乱のニューヨーク  レム・コールハース ちくま学芸文庫
  • ニューヨーク—摩天楼のアールデコ  海野弘 学習研究社
  • ニューヨーク黄金時代 ベルエポックのハイソサエティ  海野弘 平凡社
  • 100年前のニューヨーク  鈴木智子 マール社
  • クライスラー・ビル[20世紀] 磯崎新の建築談義#12  磯崎新/篠山紀信撮影 六耀社
  • ニューヨーク—摩天楼都市の建築を辿る  小林克弘 丸善
  • エンパイア  ミッチェル・パーセル 文藝春秋
  • エッフェル塔  ロラン・バルト ちくま学芸文庫
  • パリ・世紀末パノラマ館—エッフェル塔からチョコレートまで  鹿島 茂 中公文庫
  • エッフェル塔物語  フィレデリック・サイツ 玉川大学出版部
  • 夢の消費革命  ロザリンド・H・ウィリアムズ 工作舎
  • 悪魔と博覧会  エリック・ラーソン 文藝春秋
    [天空志向]
  • 聖と俗  ミルチャ・エリアーデ 法政大学出版局
  • 永劫回帰の神話  ミルチャ・エリアーデ 未来社
  • 金枝篇 上・下  ジェームズ・フレイザー ちくま学芸文庫
  • 構造人類学  レヴィ=ストロース  みすず書房
  • 空と夢  ガストン・バシュラール 法政大学出版局
  • キルヒャーの世界図鑑  ジョスリン・ゴドウィン 工作舎
  • 星界の音楽  ジョスリン・ゴドウィン 工作舎
  • 北極の神秘主義   ジョスリン・ゴドウィン 工作舎
  • 迷宮 都市・巡礼・祝祭・洞窟…迷宮的なるものの解読  ヤン・ピーパー 工作舎
  • 天体の図像学—西洋美術に描かれた宇宙  藤田治彦 八坂書房
  • 古代占星術  タムシン・バートン 法政大学出版局
  • 天使の世界  マルコム ゴドウィン 青土社
  • 歴史的建築の構想・注解  フィッシャー・フォン・エルラッハ 中央公論美術出版
    [ゴシック!]
  • ゴシックとは何か 大聖堂の精神史  酒井 健 ちくま学芸文庫
  • ゴシックの大聖堂 ある精神の遍歴  山田圭一 クレオ
  • ゴシックの図像学 上・下  エミール・マール 国書刊行会
  • ランスの大聖堂  ジョルジュ・バタイユ ちくま学芸文庫
  • ゴシック・リヴァイヴァル  ケネス・クラーク 白水社
  • ゴシック・リヴァイヴァル  クリス・ブルックス 岩波書店
    [日本の摩天楼]
  • タワー 内藤多仲と三塔物語  INAX BOOKLET INAX
  • 東京タワーが建ったころ   岩永辰尾 第三書館
  • 東京タワー(写真集)  安原直樹 新風舎
  • 六本木ヒルズ×篠山紀信  篠山紀信 幻冬舎
  • 脈動する超高層都市、激動記録35年 西新宿定点撮影  中西元男 ぎょうせい
    [工作舎の建築関連図書]
  • クリストファー・アレグザンダー  S・グラボー 工作舎
  • 空間に恋して  象設計集団 工作舎
  • ジオメトリック・アート  カスパー・シュワーベ他 工作舎
  • 劇場都市 東京オペラシティ物語  LOK=編 工作舎
  • 表象の芸術工学  高山宏 工作舎
  • 森の記憶  ロバート・P・ハリソン 工作舎



  • ■関連情報

    2006年9月 六本木にて刊行記念フェア

    9/11から1カ月間、青山ブックセンター六本木店にて、『摩天楼とアメリカの欲望』刊行記念ブックフェア「天空志向——上へ上へ立ち昇るもの」を開催いたします。
    本書は、アメリカの超高層ビルに文字どおり摩天(天空志向)の思想を読み取る書。摩天楼、エッフェル塔、東京タワーなど高層建築、ゴシック大聖堂をはじめ、本文中に数多く引用されるキルヒャー、エリアーデ、バシュラールなどの著作も集めました。幻想的な画風で人気のヒュー・フェリスの画集(洋書)も取り寄せ。
    折しも2棟の摩天楼が標的にされた、9.11事件から5回目の季節がめぐってきました。摩天楼には民主主義を標榜しながらも「帝国」をめざすアメリカの深層意識が反映されています。アメリカという国の本質を知るうえでも格好の企画、ぜひお立ち寄りください。 ※フェアの写真はこちら>>>
    『摩天楼とアメリカの欲望』刊行記念ブックフェア
    「天空志向——上へ上へ立ち昇るもの
      青山ブックセンター六本木店




    ■書評

    週刊読書人 2006.12.8 小沼純一氏 書評
    メタファーとしての摩天楼 遠い過去の滅んでしまった栄光を再現
    …いまでこそ写真で見慣れてしまっている超高層ビルの立ちならぶ光景に、ひとりのオランダ人が疑問を投げかける。これはどんな発想から生まれたのか。なぜヨーロッパではなくアメリカなのか。なぜ広大な土地がありながらも、狭いところに密集するように建てられたのか。それは従来のように、経済や商業、あるいは素材や建築の発達のみで解き明かされるものではない。そう主張され、本書が生まれることになる。…
     たしかにアメリカにおける超高層ビルをめぐる、つまりは建築についての著作ではある。実際の建築を参照し、ときには特定の建築家の思想を、その評価や評判にも目を配りつつ、あぶりだす。多くの図版を使い、さまざまなタイプの摩天楼を目にし、さらには古い神話的時代の図像を対照させてくると、これまであまり意識してこなかったことどもが見えてくる。しかしまた本書は、建築以上にアメリカという集合的意識、無意識をめぐる論考、メタファーとしての摩天楼を解読したアメリカ論なのだ。…

    週刊文春 2006.11.30号 酒井順子氏 書評
    遠い東京、摩天楼、不吉なアメリカ
    …『摩天楼とアメリカの欲望』を読んで、私が六本木ヒルズを見上げる時に感じるまがまがしさのようなものを、摩天楼が登場した時にアメリカの人々も感じていたということを知って、何となくほっとした。あまりに巨大な見慣れぬものは、どこの国においても人を不安にさせるにもかかわらず、しかし人はそのような建物を作らずにはいられない。…

    2006.11.12 読売新聞 林道郎氏 書評
    天空への妄想と神話
    …ニューヨーク(マンハッタン)を外から眺めると、いつもなんとも言えない気分のおそわれる。あの小さな島に林立する高層ビル群は、軍艦と見まがうばかりの力を誇示していながら、銀幕に映しだされた幻のように、どこか現実味がない。それは天空を切り裂きつつも、よるべなく中空に漂うと見えるあのビル群が、テクノロジーの確かな達成であると同時に、高さに託された妄想の痕(あと)でもあるからだろう。
     事実、本書をひもとけば、十九世紀後半から二十世紀前半にかけて、シカゴやニューヨークを襲った摩天楼熱の背景には、技術論や様式論をこえた「欲望」の組織的動員があったことがよくわかる。その「神話的構造」が、行き届いた調査によってみごとに炙りだされている。…

    bk1 書評
    自説を証明する、っていうのに言葉ではなくて、写真と図版を上手に使う、これってとっても分かりやすい。何でアメリカの高層ビルの天辺があんな形だったのか、良く分かります
    …カバー写真があまりにみごとで、こういうシンプルでストレートなブックデザインもいいなあ、と、ついつい手にして読んでしまいました。そして、映画などでよく見るアメリカの古い摩天楼の多くが、なぜあのような形をしているのかという疑問が解けました。…  全文はbk1サイトへ

    2006.10.1 東京新聞 書評
    <聖と俗>の神話構造を大胆に分析した建築史
    …現代版バベルの塔と言える<世俗的な大聖堂>にはどんな世界観が投影されていたのだろうか。強迫神経症的な垂直指向を自由競争のトーテムに見立て、旧体制の欧州とは異なる天地創造の野望を読み取るなど、文明論の観点から深層を探る。<聖と俗>の神話構造を大胆に分析した建築史。

    2006.9.17 日本経済新聞 書評
    高層建築から読む米国の心象
    …本書は、オランダの建築史家が摩天楼に魅入られた人々と米国社会のありかを描く摩天楼の精神史だ。高さは成功の価値を示す。 …著者はこうした世俗的な欲望の背後にある神話的な構造を掘り下げる。高層の建築物は神の警告を無視して築き上げられたバベルの塔になぞらえられる。ゴシック様式の尖塔はそれ自体宗教的モチーフだ。「歴史がない」米国で高層建築で都市の秩序が形作られる様は、いわば近代の宇宙創造という。世界の覇権を競い始めた当時の米国のアナロジーを見いだすことも可能だ。…






    ALL RIGHTS RESERVED. © 工作舎 kousakusha