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喪われたレーモンド建築 [詳細]

目次編著者紹介関連図書書評



ホンモノは、「残さないでよかった」ことは一度もなく、
「残してよかった」か「残せばよかった」しかない
——永井路子

武蔵野のおもかげを残す自然豊かなキャンパスに凛としたたたずまいの建築群。
ライトの弟子、A・レーモンドによる九棟の建築群のなかでも東寮と体育館は、
前川国男や吉村順三を育てた建築家の最初期の芸術作品であるばかりか、
新渡戸稲造、安井てつ、A・K・ライシャワーの崇高な建学精神の結晶でもあった。
この二棟の世界的文化遺産が、なぜ解体されねばならないのか?
素朴な問い発しつづけた卒業生たちによる、保存を願い、賛同者をつのり、
一万を超える署名を集めながら、なお解体を防げなかった活動の全記録。




■目次

口絵
はじめに──語り伝えるために   藤原房子

序章 東京女子大学とレーモンド建築

 東京女子大学の創設にいたる精神
   エディンバラ万国宣教師大会/礎を築いた新渡戸・安井・ライシャワー/
   キリストの精神にもとづく全人間教育
 国を超えた協力によるキャンパス建設
   海外ミッションからの支援/祈りと献金が生んだ巨額な資金/卒業生らの貢献
 アントニン・レーモンドのキャンパス総合計画
   若きレーモンド/建学の精神を具現した建築群/レーモンド建築一五年の軌跡

第一章 喪ったものの大きさ──東寮・体育館の魅力と価値

◎東寮の魅力
 建学の原点としての寮建設
   東寮に埋め込まれた礎石/二つの「日本初」──鉄筋コンクリート造と個室寮/
   寮の構成
 寮が育んだもの
   一人部屋で──内省から祈りへ/集団生活と協働/暖炉のあるパーラーで/
   自治と選挙と自由な気風/COLUMN◎寮のストーム/寮に寄り添う学長住宅
 ライト風とチェコ・キュビズムの美しさ
   ライトの「建物の原則」/高さを抑え水平に伸びるデザイン/
   世界に稀少なチェコ・キュビズム建築
 考え抜かれた耐震構造
   関東大震災を耐えた建築/構造に軽さを求める/
   木造瓦葺き屋根と細い柱とコンクリートの床
 先駆的機能を備えた寮の塔(通称エントツ)
   堂々たる白い造形/一階厨房と食堂棟/
   地下ボイラー室と二階のガス台、アイロン台、音楽室も
◎体育館の魅力
 その名も体育兼社交館
   「品格ある社会性」涵養の場/式典や祈りの空間として/
   記憶を紡ぎ、歴史を刻む/寮とのつながり
 体育館らしからぬ魅力はどこから来るのか
   フロアを下げた効果/「見る・見られる」視線の交錯/劇場空間として/
   東西のステージ、自由自在の演出/音響効果のすばらしさ
 身を置いてわかるレーモンド空間の心地よさ
   体育教員の実感/COLUMN◎表現意欲を育て受け止める場/楢材の床/
   光と風/五つの暖炉/テラスと花鉢
 耐震構造の合理性とその技術
   耐震性の証明/教室棟によるダブルコア/アーチ型の天井と屋根/
   天井に走る三本のパイプとテラス

第二章 「東女レーモンドの会」が生まれるまで

 キャンパス整備の歴史と西寮の解体
   学生数の増加と記念建設事業/東西寮の閉寮と西寮の解体/
   COLUMN◎西寮の解体──現場に佇ちつくして/部室棟として活かされた東寮/
   登録有形文化財の申請/COLUMN◎東寮の銘板
 それは牟礼キャンパスの売却から始まった
   牟礼の跡地利用問題/学内委員会から理事会マターに/マンション建設反対運動/
   地元同窓生から同窓生グループTWOへ/大学・同窓会へのはたらきかけ/
   牟礼キャンパス売却/突然の「牟礼お別れ感謝会」通知
 唐突に公表された東寮・旧体育館の解体計画
   2006年度同窓会定期総会/『学報』2006年7・8月合併号/
   90周年・100周年キャンパス整備計画とは
 「卒業生有志の会」発足へ
   TWOメーリングリストに寄せられた思い/行動への萌芽/別組織の立ち上げ
 専門家による東寮実査
   藤岡洋保氏、東寮へ/東寮は守るに値する貴重な文化財
 原田理事長・堀地常務理事との面談
   初対面での出来事/堀地常務理事「建物の売却金は建物にしか使えない」
 「有志の会」から「東女レーモンドの会」へ
   広報活動の開始/事務局メンバー集う/永井路子の発起人参加/建築界との連携/
   最初の新聞報道/レ会発足と第一回発起人会議

第三章 保存をめぐる理事会との交渉

 レ会活動の開始──理事長との話し合いを願って
   ホームページの開設とフェアな情報公開/署名活動/web署名の魅力/
   署名の広がりと大学への提出
 第一回理事長との懇談
   祈りをもって対話を始める/なぜ二棟を有形文化財申請から外したのか/
   残す「意志」を問う/「耐震基準に不適格」/話し合いの継続は……/
   基本財産売却金に使途制限なし
 緊急シンポジウムの開催
   なぜシンポジウム開催か/満席の参加者を迎えて/
   永井路子氏「手触りを残すことの大切さ」/
   時枝俊江氏「女性の自律を促した寮と体育館」/
   藤岡洋保氏「合理性と先駆性を具現したデザイン」/
   西澤英和氏「関東大震災に耐えた耐震性」/
   フロアを交えての意見交換/記録の作成とその活用
 第二回理事長との懇談
   再び懇談の申し入れ/原田理事長のエッセイ「対話が足りない」/
   三号館跡地利用案の提示/シンポジウムの成果を伝える/
   30年前のコンクリート調査/レ会は大学の信用を失墜させているか/
   「理事会決定を考え直す、それはできません」/堀地常務理事の約束は反古に
 二つの取材──国も地方自治体も口出しできない
   文化庁が示した無念/手厚い杉並区の文化財保護と補助金
 同窓生の直訴はがき668枚
   卒業生一人ひとりの声を/10日で342枚、総計668枚
 同窓会理事との懇談会
   初めての会合/小さな紙片は語る/疑問は解けたのか/募金活動の提案/
   「同窓会はどちらの肩も持たない」とは
 2007年度園遊会にて
   「レ会はご遠慮いただきたい」/おしゃべり会/
   レーモンド建築見学ツアーと懇親会/同期会や東寮お別れ会で

第四章 東寮解体

 解体目前の学内外の動き
   樹木のテープと工事用フェンス/杜を守りたい/「レーモンド展」がやってくる
 2007年度同窓会定期総会
   発言する場がない/同窓会の姿勢と会場の反応/
   「レ会・同窓会総会報告」の作成と送付
 パネルディスカッションと会員懇談会
   「なくしていいのか建築文化」/
   「経済最優先主義」への危惧と「風化の美」の再認識/たとえ足場が組まれても
 理事会との進まぬ交渉
   書簡の数は九対三/なぜ「三号館解体」を変更したのか
 公開質問状と理事長からの「最終回答」
   情報公開と説明責任を求めて/整備計画決定プロセスへの疑義/
   キャンパス整備内容への疑義/解体理由への疑義
 東寮の解体がはじまる
   井戸とヒマラヤ杉のお祓い/解体に抗議──「ここで逢ったが百年目」/
   事務局長の案内でフェンスの中へ
 (エントツ)も解体へ
   「塔の会」の緊急呼びかけ/跡形もなく消されたエントツ
 専門家による解体写真の分析
   東寮はヤワだったか/学術的記録を残す責務
 記録と資料保存の要望
   たとえ一部でも/消された歴史ミュージアム/東寮段ボール箱入り資料の行方/
   塔と歩んだガスメーターの落ち着き先
 「東寮喪失」という現実を前に
   愛する寮が消えた/体育館に迫る危機/次へ──
 

第五章 体育館保存に学内が動いた

 レ会の再出発
   第二回発起人会議/路線変更をはかるべきか/「歴史を作るということ」
 学内当事者の危機感
   体育教員の強い意志/少数の行動と多数の無関心/
   建物を丸ごと使った旧体イベント/学生たちの旧体育館研究
 同窓生の中へ──連携を広げる
   2008年度園遊会──体育科卒業生と語りあう/建物見学会と三沢浩氏講演会
   2008年度同窓会定期総会と永井路子の要望/チラシの配布とその反応
 立ち上がる教職員、二分する学内
   何も知らなかった/知っても動けなかった/
   学生の旧体研究がきっかけに/過半数に達した「解体再考」署名
 教職員有志主催「三・一四旧体シンポジウム」
   旧体育館を会場に/250名が参集/主催者の思いと理念/卒業生は訴える/
   建築専門家の証言/「寄る辺」としての社交館復活を/
   明らかにされた「いまだ解けぬ疑問」/アピール文の採択/
   『三・一四シンポジウム記録集』とその成果の共有/
   「壊してしまえば文句は出なくなる」

第六章 体育館、最後の日々

 三・一四旧体シンポジウム以降のうねり
   高まる期待と「凍結決議」の否決/有識者の会とメディア報道/
   2009年4月29日園遊会にて/5月5日、旧体暖炉は美しく燃え/
   5月11〜22日「旧体メモリアルウィーク」/COLUMN◎旧体育館の暖炉/
   創立90周年記念『東寮・旧体育館写真集』/COLUMN◎花鉢に寄せて
 工事用フェンスを横目に続く解体凍結要請
   5月25日、有識者の会緊急記者会見/
   5月26日、「旧体、ありがとう!」──別れの輪が旧体を囲む/
   5月28日、抗議の意思表示に大学へ/「学長先生と語る会」の学生たち/書簡を手渡す
 アスベスト問題の浮上と住民署名活動
 2009年度同窓会定期総会
   重機の投入/最後の機会への意欲/強まった発言への規制/
   チラシの配布とその没収/変わらぬ総会、されど……/記憶はことごとく抹消された

特別寄稿
 人と建築を考える 不条理と闘う考
   ──東京女子大学キャンパスの二つの建築  兼松紘一郎
 歴史の一証言として──原田理事長との往復書簡  永井路子
   
おわりに 感謝をこめて振り返る  藤原房子


資料編
 関係資料一覧
 主要資料
 年表:東京女子大学レーモンド建築 東寮・体育館保存活動
編集後記
付属CD
 主要資料を含め関係資料一覧の大半および「一覧」に記載されていない写真その他も収録




■編著者紹介:

東京女子大学レーモンド建築 東寮・体育館を活かす会

東京女子大学の卒業生115人から成る会だが、この会の活動に参加した思いは多様である。記録書の出版についても個々に意見の違いがあろうと配慮し、一貫して活動の中枢を担った事務局メンバー10人が事実上の記録刊行グループに移行して編集作業を行い、編著者としての責任を負った。編集後記に各自が記したように、世代、専攻学科、職業、関心等も異なる。しかも体育館は全員が授業や部活動等で使い心地よく知っているが、東寮生活は二人しか経験していない。思いに濃淡はあるが皆同じ方向をみていた。ジャーナリスト、編集者、コピーライター、翻訳者、IT技術者、組織の管理職、研究者等、職業上のスキルもそこから来る知識や感覚も異なるメンバーの恊働作業だが、最後まで結束は続いた。ここに同窓の歴史作家永井路子が顧問格で参画、全体の進行にも適切な助言と激励を惜しまなかった。




■関連図書(表示価格は税別)

[レーモンドの本]
  • 私と日本建築(SD選書) アントニン・レーモンド 鹿島出版会
  • 自伝 アントニン・レーモンド 鹿島出版会
  • アントニン・レーモンドの建築(SD選書) 三沢浩 鹿島出版会
  • レーモンドの失われた建築 三沢浩 鹿島出版会
  • A・レーモンドの住宅物語 三沢浩 建築資料研究社
  • A・レーモンドの建築詳細 三沢浩 彰国社

    [工作舎の建築の本]
  • 空間に恋して 象設計集団 4800円
  • クリストファー・アレグザンダー S・グラボー 3689円
  • 廃棄の文化誌 新装版 ケヴィン・リンチ 3200円
  • 摩天楼とアメリカの欲望 T・v・レーウェン 3800円
  • 茶室とインテリア 内田 繁 1800円



  • ■書評

    ◎2012.6.28 読売新聞 書評
    建築保存運動の教訓
    …解体計画を知った卒業生のジャーナリスト、作家、編集者らは大学側に保存を働きかけた。建築史家から「チェコ・キュビズム建築」との評価を受け、建築に込められた設計思想と建学の精神を守ろうとする。
    しかし、大学キャンパス内の建築保存は、権限のない卒業生や専門家がいくら熱心でも、教職員や学生が関心を持たなければ進まない。東京女子大でも教職員の一部が動いた時は、すでに間に合わなかった。建築保存に多くの教訓を与える一冊。

    ◎2012.6.24 毎日新聞 書評
    …この本が何よりも心を打つのは、保存に立ち上がった卒業生たちが、あふれるような母校愛を持っていることだろう。東寮は日本初の個室を持つ学寮だった。それは「個」を重んじ、「自由」を大切にした東京女子大の理念を具現したものだったという。体育館は演劇や音楽の上演場所にも使われ、自己表現やコミュニケーション能力を養った。寮のストームなど、思い出をつづったコラムも楽しい。編著者たちの活動は、単なる建築保存運動ではなく、大学とは何かを問いかけていたことがうかがえる。(重)

    ◎2012.6.15号 週刊朝日 書評
    …OGで発起人の一人である作家の永井路子は理事長に会議や文書で何回も撤回を求めた。
    冷静な永井の物言いは迫力がある。さまざまな文化財の保存運動に参加している永井は「ホンモノは『残さないでよかった』ことは一度もなく、『残してよかった』か『残せばよかった』しかない」の名言を残している。
    しかし、大学側に押し切られ、保存の願いは叶わなかった。…

    ◎2012.6.2号 週刊東洋経済 書評
    明治維新から150年近く経ち、モダニズム建築の取り壊しが進み、文化遺産該当の建築物保存の正否で、議論が絶えない。いわば価値評価における経済性と文化性のぶつかり合いだ。その文化遺産の水準が世界レベルとなればなおさらだろう。その検討手順・評価に一石を投じたのが本書だ。…

    ◎2012.5.15 建設通信新聞 書評
    母校への愛着 ひしひしと
    結果的に解体は避けられなかったが、アントニン・レーモンドの初期作品2棟にかかわる活動は、その規模や取り組みの真剣さにおいて、近年まれにみる本格的な保存運動であった。何よりも、卒業生を始めとする関係者の母校への愛着が第三者にまでひしひしと伝わってきたことは、歴史や文化といったもののほかにも建築の価値を高める要素があるのだと強く感じさせてくれた。
    …どこかのタイミングで特別な活動をすれば保存が実現できたのか、または最初から勝ち目のない運動だったのか、その答えを出すことはできない。しかし、多くの人が参加したこの活動が、両建築の歴史の一部となったことは間違いない。




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