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漁師はなぜ、海を向いて住むのか? [詳細]

目次著者紹介関連図書書評



40年余の漁村フィールドワークが明かす
しなやかな生き方・住まい方

海への憧憬と畏怖




■目次

序 漁師はなぜ、海を向いて住むのか?

1 来訪神空間としての漁村

   1-1 住宅と集落はどこからきたのか?
   1-2 丹後・伊根浦の研究・序
   1-3 漁村空間における漁港の役割
   1-4 日本の沿岸地域における信仰と生活形態
   1-5 漁村の人々はなぜ海を向いて住むのだろうか

2 しなやかな家族

   2-1 輪島市・海士町の海女家族
   2-2 漁村の生活と婦人労働の役割
   2-3 漁村の生活と環境を考える
   2-4 囲い込まれ、放り出される子どもたち

3 発見的方法

   3-1 壮大なる野外講義:大島元町復興計画
   3-2 発見的方法
   3-3 逆格差論
   3-4 沖縄振興のもう一つの視点

4 エトスの表現としての農村空間

   4-1 エトスの表現としての農村空間──安佐町農協町民センター
   4-2 山城を築きて国家と對決致し候──幻の蜂の巣城を復元する
   4-3 環境と建築──他力本願の住宅づくり
   4-4 草葺の家・私的体験から
   4-5 棚田の米づくり体験から「水の社会資本素」を考える
   4-6 日本はクラインドルフ政策を
   4-7 吉阪研究室と中国研究

5 島と本土の防災地政学

   5-1 三陸津波被害とその復興計画
   5-2 天災は覚えていてもやってくる──淡路と奥尻と伊豆大島と
   5-3 島と本土の防災地政学
   5-4 しまなみ海道とポスト架橋の地政学
   5-5 中山間地・水源地域と都市の共生
   5-6 島—国土の〈入れ子〉構造と島嶼地政学の課題

6 人類の海への三度目の旅

   6-1 拝啓 大前研一様「21世紀の海を拓くために」
   6-2 人類の海への三度目の旅

付録 都市のORGANON──現代建築への告別の辞
解題 地井昭夫の漁村研究・漁村計画  幡谷純一
解説 地井昭夫の仕事=海村へのオマージュ  重村力




■著者紹介:地井昭夫 (ちい・あきお 1940-2006)

北海道室蘭市生まれの漁村研究者,地域計画家、建築家。早稲田大学理工学部建築学科、大学院修士課程・博士課程に学び、建築家・吉阪隆正(1917-80)に師事。大学院在学中に伊豆大島の元町復興計画を手がけ、「発見的方法」を主唱するとともに、舟小屋で名高い丹後伊根浦の漁村空間に魅せられ、漁村空間・社会の研究を開始。広島工業大学工学部建築学科(69-82))、金沢大学教育学部(82-91)、広島大学学校教育学部(91-2004)。広島国際大学社会環境学部(04-‘06)などで建築学や住居学を教える。工学博士(早稲田大学 76)・広島大学名誉教授(04)。
漁村計画研究所を幡谷純一らと設立し全国の漁村計画を行うとともに、水産関係者や地域計画研究者らと漁村研究会を組織し、漁村の環境改善と生活改善に関する研究と提案を行う。地方都市や農山村の計画にも多くの足跡を残し、国土交通省・農林水産省や自治体の審査員をつとめる。後年はアジア・アメリカ・ヨーロッパ との交流を深め、国際研究を広く行う。日本建築学会農村計画委員長(94-98)、農村計画学会理事(96-98)。共著に『建築学大系18 集落計画』(彰国社 86)、『図説集落』(都市文化社 89)、『集住の知恵──美しく住むかたち』(技報堂出版 05)、建築作品に安佐町農協町民センターなど。




■関連図書(表示価格は税別)

[工作舎の建築の本]
  • 空間に恋して 象設計集団 4800円
  • クリストファー・アレグザンダー S・グラボー 3689円
  • 廃棄の文化誌 新装版 ケヴィン・リンチ 3200円
  • 摩天楼とアメリカの欲望 T・v・レーウェン 3800円
  • 茶室とインテリア 内田 繁 1800円
  • 喪われたレーモンド建築
     東京女子大学レーモンド建築 東寮・体育館を活かす会=編著 2400円



  • ■書評

    2012.12.16 毎日新聞「この3冊」
    ◎日本近代文学研究者・持田叙子(のぶこ)

    宮本常一に私淑し、長年を漁村研究にささげた建築家・地域計画家の遺稿集。海と交感する漁村のゆたかな空間創造性に着目し、そこから未来の地域社会のイメージや防災の知恵を汲む。災禍ゆえに漁師は高台に住み、職住分離すればよしとする施策にも、周到な配慮を促す。

    2012.11.18 北海道新聞「現代読書灯ナビ」 吉岡忍氏
    漁業復興の成否を握る 浜の暮らしの精神世界
    40年にわたる漁村集落研究者の遺稿をまとめる

    …海、漁港、漁村から成る浜を「来訪神型空間」としてとらえたのは、漁村研究者の地井昭夫である。彼は各地の漁村を歩き、漁師とその家族がたんに効率や便利さや安心安全の見地から暮らしを営んできたのではなく、祖先や他界や自然と一体となるような構造を考えながら家々を建て、集落を形成してきたことを突き止めていく。  1933(昭和8)年の昭和三陸大津波のあと、多くの漁村が高所に移転した。浜には頑丈な堤防も造られた。だが、10年もしないうちに、漁師たちは下におり、再びもとの場所に住み始めた。当時の高所移転が失敗したのは、集落を単純に安全に集合して暮らす場所として考え、浜に独特のこの宗教的・自然的構造を考慮しなかったからだ、という指摘は鋭い。…

    2012.10.30 日経新聞 重村力氏記事
    漁師の住む村 究めた男
    40年にわたる漁村集落研究者の遺稿をまとめる

    …(遺稿集編集)作業のさなか2011年3月には東日本大震災が発生。改めて地井の仕事の重要性が浮かび上がった。彼は33年に三陸一帯を襲った大津波、奥尻島が津波被害を受けた93年の北海道南西沖地震、95年の阪神大震災について論じているからだ。…
    …東日本大震災後に遺稿を「漁師はなぜ、海を向いて住むのか?」(工作舎)という書物にまとめ、地井の研究が一つの像を結んだように感じている。島国に暮らす私たちは漁村からもっと多くを学べるに違いない。彼の仕事を受け継ぎ、多くの漁村が被災した東北の復興に生かしていくことが残された次の課題だと思う。 *全文は日経新聞記事pdfへ

    2012.10.7 北海道新聞 古屋温美氏書評
    漁村の復興計画に示唆
    …昨年3月11日に発生した東日本大震災における漁港や漁村の甚大な津波被害をうけ、各被災地では漁村地域の復興が勧められている。しかし、復興スピードは遅く、震災直後から水産業の復興をめぐり、水産業復興特区、漁港集約化、集落移転などに関して、漁村地域とは遠いところで議論が続いた。私は被災地へ行き復興の仕事をする中で、浜で聞いたのは共通して「一日も早く漁港を復旧して元の漁業をやりたい」という願いだった。
     復興を進める上で、各漁村地域の漁業、生活、産業等の被災前後の実態を受け止め、地域の人が望む将来の姿を具体的な形にするという地域を主体とした復興の視点が求められる。本書はそのような視点を取り入れた漁村の地域計画論と計画策定やその実現に示唆を与えるものと期待される。

    2012.9.30 日本農業新聞
    農山漁村の環境・生活改善に取り組んだ建築家の遺稿集。地震・津波被害を受け、地域住民主体で集落を再生した事例や、災害における都市と農村が連携する「防災地政学」としても興味深い。…

    2012.9.19 中国新聞文化欄トップ記事
    漁村テーマ 共同体を問う
    元広島大学 地井昭夫氏の遺稿集
    画一的な開発 一貫して異論

    …タイトルは、人間社会の成り立ちの意味を本質から捉え直そうという地井氏の姿勢を示す。自身が掲げた「海帰人類学」を念頭に多くの具体的事例をちりばめた、いわば「海図」ともいえよう。
    伊豆、丹後、能登、沖縄…。地井氏は積み重ねたフィールドワークに基づき、漁村を人間社会の成り立ちを凝縮した集合体として捉え、「漁師-漁家-漁港-漁村-海」の枠組みの中で、共同体の本質の理論化を探った。… 所得増をうたう画一的な開発に異を唱える姿勢も一貫したものだった。沖縄の環境整備計画にかかわる中で、低所得でも衣食住や医療環境は充実しているという「逆格差論」の提起につながる。…

    都市問題 2012.9月号書評
    …漁村の空間構成(生産空間・生活空間)を読み解くとともに、そこに生きる家族や共同体のありようにもななざしを向け、漁村民たちの「しなやかな生き方・住まい方」を明らかにしようとしたのである。その洞察からは、文明社会に対する批判が鮮やかに浮かび上がってくる。同時に、その超克のためのよすがを漁村に見出していたことも伺われる。
    3.11の大津波により、東北沿岸の漁村は壊滅的な被害を受けた。その復興が緒についたばかりの今、著者が問い続けた海を向いて住むことの意味は、一層の重みをもって迫ってくるのではないだろうか。

    2012.7.27 週刊読書人「2012年上半期読書アンケート」
    ◎財政学・金子勝氏

    東日本大震災があって地方や地域のあり方についてしっかり考える必要性が生じている。地井昭夫『漁師はなぜ、海を向いて住むのか?──漁村・集住・海廊』(工作舎)は、建築家でありながら、長い間、漁村や中山間地の生業や住み方を独得の視点から見てきた筆者の研究を集大成した書物である。震災復興のあり方を考えるに際して、自然と向き合って住むことの意味を考えさせられる。

    ◎社会学・森反章夫氏 同上
    地井昭夫『漁師はなぜ、海を向いて住むのか?』(工作舎)。この書名は、本書の序の論文の表題である。地井は「漁師はそうしていたいからだと考えることにしている」という。まるで禅問答だ。照れ隠しのように、「協同の労働と平等の分配」という概念が添えられる。この得がたいスタンスが一冊の実証論考のすべてに漲っている。

    2012.7.21 図書新聞「2012年上半期読書アンケート」
    ◎建築批評・布野修司氏

    漁村研究者であった著者の遺稿集。高台移転をめぐって地域が分断される中で、漁村再生の根本を教えてくれる。




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