新天文学
[詳細]
Astronomia Nova
ティコ・ブラーエとヨハネス・ケプラー
二巨星の邂逅がもたらした天文学革命
惑星軌道は古代ギリシア以来考えられていた
円でなく、楕円を描いていた!
ティコ・ブラーエより膨大な火星の観測データの解析を託されていたケプラーは、
試行錯誤のはてに、コペルニクスはもとより
ガリレオも前提としていた円を脱却し、
楕円軌道の発見にいたる。
近代天文学への扉を開いたケプラーの第1法則、第2法則発見プロセスの全容。
ラテン語原典より本邦初の全訳。
■目次 |
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至高の天文学者ティコ・ブラーエの誘い
序論 著作全体の梗概表/各章の議論
第1部 仮説の比較について
◎ 第1章 第1の運動と惑星に固有の第2の運動の相違◎ 第2章 離心円と周転円付同心円の単純な最初の等値とその自然学的理由
◎ 第3章 相異なる観点や量的に異なる仮説が理論上等値となり一致して同一の惑 星行路を形成する
◎ 第4章 同心円上の2重周転円ないしは離心周転円と離心円におけるエカントの 間に認められる不完全な等値に
◎ 第5章 エカントもしくは第2周転円を用いたこの軌道の配列も実際には同一(な いしほぼ同一)でも惑星を平均太陽もしくは視太陽との衝で観測するのに応じて同一の時点でどの程度まで異なる外観を呈しうるか
◎第6章 惑星の第2の不整を論証するプトレマイオス、コペルニクス、およびブラーエ説の理論上の等値 また3説を太陽の視運動と平均運動に適用したときの相違
第2部 古人の説にならった火星の第1の不整について
◎ 第7章 どんなきっかけで火星論に出会ったか◎ 第8章 ティコ・ブラーエが観測し算出した火星と太陽の平均運動の線との衝の表およびその表の検討
◎ 第9章 火星の黄道上の位置をその円軌道に還元する
◎ 第10章 ティコ・ブラーエが太陽の平均位置と衝になる時点を求めたさいの拠り所である観測結果そのものの考察
◎ 第11章 火星の日周視差
◎ 第12章 火星の交点の探求
◎ 第13章 黄道面と火星軌道面の傾斜の探求
◎ 第14章 離心円の面がぶれずに平衡を保つ
◎ 第15章 夜の始めと終わりに見えた位置を太陽の視運動の線に還元する
◎ 第16章 第1の不整をうまく説明するための仮説を探求する方法
◎ 第17章 遠地点と交点の動きの一応の探求
◎ 第18章 発見された仮説による初更の12の位置の検証
◎ 第19章 大家たちの見解に従い初更の全位置により確証されたこの仮説に対する初更の緯度による論駁
◎ 第20章 初更の位置以外での観測結果による同仮説の論駁
◎第21章 誤った仮説から正しさの生じる理由とその正しさの程度
第3部 第2の不整すなわち太陽もしくは地球の運動の研究 あるいは運動の物理的原因に関する多彩にして深淵な天文学の鍵
◎ 第22章 周転円ないし年周軌道は運動を均一化する点(エカント)の周囲に均一に位置しない◎ 第23章 地球から太陽までの2つの距離と獣帯上の位置および太陽の遠地点を知って太陽(ないしはコペルニクス説の地球)の行路の離心値を求める
◎ 第24章 周転円もしくは年周軌道がエカントの点から離心していることのより明白な証拠
◎ 第25章 宇宙の中心から太陽までの3つの距離から獣帯上の位置を知り遠地点と太陽もしくは地球の離心値を求める
◎ 第26章 周転円が固定点つまり軸から、年周軌道(太陽を回る地球の軌道ないしは地球を回る太陽の軌道)も太陽ないし地球の本体の中心から、ティコ・ブラーエが太陽の運動の均差によって発見した値の少なくとも半分は離心していることの、同じ観測結果による証明
◎ 第27章 初更の位置ではないが同じ離心位置にある火星の別の4つの観測結果
から、地球軌道の離心値、遠日点、獣帯上の火星の離心位置と合わせて地球の各位置での軌道相互の比を論証する
◎ 第28章 獣帯上の太陽の位置だけでなく離心値1800から地球と太陽の距離も想定し、同じ離心位置に来る火星をかなり多く観測することによって、太陽から火星までの距離と離心位置とがあらゆる所で一致するかどうか見る この議論により、太陽の離心値がちょうど1800であり、想定の正しかったことが確認される
◎ 第29章 離心値を知り太陽と地球の距離を定める方法
◎ 第30章 太陽の地球からの距離の一覧表およびその用法
◎ 第31章 太陽の離心値を2等分してもティコの提示した太陽の均差は感知できるような混乱をきたさないこと、および4つの均差算出法
◎ 第32章 惑星を円運動させる力は源泉から離れるにつれて減衰する
◎ 第33章 惑星を動かす力は太陽本体にある
◎ 第34章 太陽の本体は一種の磁石であり、自らの占める空間で自転する
◎ 第35章 太陽に由来する運動も光のように遮蔽によって惑星に届かないことがあるか
◎ 第36章 太陽から発する運動を司る力は宇宙の広大さによってどの程度弱められるか
◎ 第37章 月を動かす力はどのようにして得られたか
◎ 第38章 惑星には運動を司る太陽の共通な力のほかに本来の固有な力が具わっている また個々の惑星の運動は2つの原因から成る
◎ 第39章 惑星に内在する力が、エーテルの大気中の惑星軌道を一般にそう信じられているような円にするには、どういう経路と手段で運動を起こすべきか
◎第40章 物理学的仮説から均差を算出する不完全な方法 ただしこの方法は太陽もしくは地球の理論には十分である
第4部 物理的原因と独自の見解による第1の不整の真の尺度の探求
◎ 第41章 すでに用いた太陽と衝になる位置以外での観測結果から長軸端、離心値、軌道相互の比を調べる試み ただし誤った条件を伴っている◎ 第42章 火星が遠日点の近くに来るときの初更の位置以外での若干の観測結果と近日点の近くに来るときの別の若干の観測結果とにより最も確実な遠日点の位置、平均運動の訂正、真の離心値、軌道相互の比を求める
◎ 第43章 惑星軌道が真円になると想定したときに離心値の2等分と三角形の面積から立てられる均差の欠陥
◎ 第44章 第1の不整を切り離して無視し、ブラーエとプトレマイオス両大家の説で第2の不整に由来するその螺旋の連鎖も理論的に除外しても、エーテルの大気中を通る惑星の道は円ではない
◎ 第45章 惑星が円からこういう形で外れる自然な原因について 最初の説の検討
◎ 第46章 第45章の説によれば惑星の動きを表す線はどのようにして描けるか またその線はどのようなものになるか
◎ 第47章 第45章で得られ第46章で描こうとした卵形面の求積法試論 およびそれによって均差を出す方法
◎ 第48章 第46章で描いた卵形円周の数値による測定と分割を介した離心円の均差の算出法
◎ 第49章 先の均差算出法の検証と第45章の見解による卵形軌道の構成原理にもとづくさらに整備された方法
◎ 第50章 離心円の均差を立てるために試みた他の6つの方法
◎ 第51章 各半円上で遠日点からの離隔が等しいときの火星と太陽の距離を調べて対比する 同時に代用仮説の信頼性も調べる
◎ 第52章 惑星の離心円は太陽の周転円の中心あるいは太陽の平均位置の点ではなく太陽の本体そのものの周囲に配置される また長軸線が前者の点ではなく太陽の本体を通過することを、第51章の観測結果によって証明する
◎ 第53章 初更の位置の前後の連続的な観測結果によって火星と太陽の距離を調べる別の方法 そのさい同時に離心位置も調べる
◎ 第54章 軌道相互の比のいっそう精密な検証
◎ 第55章 第51、53章の観測結果と第54章の軌道相互の比から第45章で性急に取りあげた仮説が誤りであること および平均的な長さを取る所の距離が適切な値より短くなることを証明する
◎ 第56章 以前に掲げた観測結果から火星の太陽からの距離はいわば周転円の直径によって測り取るべきことを証明する
◎ 第57章 どういう自然の原理によって惑星はいわば周転円の直径上で秤動するようになるのか
◎ 第58章 第56章で証明し発見した秤動も不適切に使用するとどのようにして誤りが入り込み、惑星軌道が豊頬形(buccosus)になるか
◎ 第59章 周転円の直径上で秤動する火星の軌道が完全な楕円になること および円の面積が楕円周上にある点の距離の総和を測る尺度になることの証明
◎第60章 物理学的仮説つまり最も真正な仮説から均差の各部分と真正な距離を立てる方法 これまで代用仮説ではこの両者を同時に行えなかった 誤った仮説の論証
第5部 緯度について
◎ 第61章 交点の位置の検証◎ 第62章 軌道面の傾斜の検証
◎ 第63章 緯度についての物理学的仮説
◎ 第64章 緯度による火星の視差の検証
◎ 第65章 太陽と合および衝となるときのそれぞれの側における最大緯度の探求
◎ 第66章 脇への最大のずれは必ずしも太陽と衝になるときに起こるわけでない
◎ 第67章 交点の位置と火星軌道面の黄道面に対する傾斜から、火星の離心値の起点が平均太陽の位置を示す点(あるいはブラーエ説における太陽の周転円の中心)ではなく太陽の中心そのものであることを証明する
◎ 第68章 火星軌道面と黄道面の傾斜角は現在もプトレマイオスの時代も同一なのか および黄道の緯度と交点の不均一な周回
◎ 第69章 プトレマイオスの3つの観測結果の考察 および平均運動と遠日点・交点の動きの訂正
◎第70章 プトレマイオス時代の緯度と軌道相互の比とを調べるための、プトレマイオスが用いた残る2つの観測結果の考察
訳注・解説・索引
■関連図書(表示価格は税別) |
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■関連情報 |
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●岸本良彦氏、2014年度 日本翻訳文化賞 受賞
ケプラー『新天文学』をラテン語原典から翻訳された岸本良彦氏が、第51回(2014年度)日本翻訳文化賞(日本翻訳家協会主催)を受賞されました。2014年10月31日に行われた表彰式の模様、審査報告、岸本氏の謝辞を再録します。こちら >>>
■書評 |
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●天文月報2014年11月号 木下 宙氏(国立天文台名誉教授)書評
「新天文学」はケプラーがいかにして惑星運動の法則を発見したかを自らの言葉で詳細に記述した労作である。岸本氏はAstronomia Novaのラテン語原典から完訳された。世界大思想全集,社会・宗教・科学思想篇,第31巻,河出書房新社,1963 に含まれている島村福太郎訳「新しい天文学」はドイツ語訳からの転訳であり、ルドルフ二世への献辞と序文だけれあって、本論は訳されていない。したがって、島村訳からではケプラーの観測データとの苦闘の闘いの実際はわからない。…
国立天文台にはケプラー全集,変形A4判で全24巻(1934年から2009年にかけて出版)が幅1mにわたって鎮座している。しかしラテン語なので手も足も出なかったところに、岸本良彦氏による日本語訳が出版された。手に取ってみて読み出して超難解であることにびっくりした。…
●山本義隆氏 『世界の見方の転換』あとがき(みすず書房/2014.3月刊)
昨年11月にケプラーの『新天文学』の邦訳が工作舎から出版されていることを、最近になって知りました。この訳がもっと早くに出ていればずいぶん助かったであろうと思われます。訳者の岸本良彦氏は、以前に大槻真一郎氏とともにケプラーの『宇宙の神秘』を訳されて以来、『宇宙の調和』(本書では『世界の調和』)、そして今回『新天文学』をそれぞれ一人で訳されたわけで、このように難解で重厚な書物の訳業に取り組んでこられたその努力に頭が下がります。
●みすず2014年1・2月号 読書アンケート特集 金森 修氏
その特異な数学的自然観で知られるケプラーの主著の一つ。『宇宙の神秘』『宇宙の調和』と並んで、ついに彼の天文学上の主著の邦訳が揃ったということになる。正直、読み通すのは大変だ。しかしその一部でも通読すれば、ヨーロッパの数学的自然観なるものが構築されていく際に、どれほどの労苦と発意が必要とされたのかが実感されるはずだ。我が国の科学史研究は若干衰退傾向にあるが、このような一次文献の紹介こそが、その屋台骨を徐々に堅固にしていくという事実はいまでも揺るがない。貴重な文献である。
● 2014.1.24 週刊読書人 金子 務氏書評
三部作原典完結 大転換をもたらした証言の書
…ついに今回、惑星楕円軌道の発見(第一法則)と面積速度一定の法則(第二法則)を含むもっとも生産的なプラハ時代の記念碑『新天文学』(1609年)全70章が原典訳の日本語で揃った。一つの事件である。
●日経サイエンス2014年2月号
…コペルニクスもガリレオもたどり着けなかった楕円軌道の法則をついに定式化する。本書は全5部からなる "Astronomia Nova" をラテン語原典より邦訳した日本初完訳で、680ページを超える大著。ケプラーが数学的なモデルを生み出すに至った思考をたどることができる。現代物理学の夜明け前を知るうえでも貴重な一冊。
●週刊読書人2013年回顧・動向収穫
ヨハンネス・ケプラー(岸本良彦訳)『新天文学:楕円軌道の発見』(工作舎)は、ラテン語原典から訳した大著である。特殊なラテン語の読解と、天文学や当時の思想の知識がなければできない翻訳である。(横山輝雄・南山大学教授)