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    人間にとってドラッグとはまさしく「諸刃の剣」である。

医療の分野では古来より麻酔や鎮痛剤として多大な恩恵をもたらしてきた反面で、快楽目的の使用による健康被害・中毒死や犯罪行為の誘発といった負の側面もあわせ持つ。日本でも若者を中心とした脱法ドラッグの使用が大きな社会問題となり、昨年ではMDMA等の合成麻薬の押収量は過去最高を記録した。

一方、ドラッグは人間の文化活動、とりわけ文学や音楽に多大な影響を及ぼしてきた。太古のシャーマンの儀式に始まり、ビートニク、ヒッピームーブメントやサイケデリック・ロック、レイヴ等がその顕著な例といえるだろう。ドラッグ抜きにして人間の営みを語ることなど不可能なのだ。

現在のようなライフスタイルやファッションとしての薬物使用が一般化したのは、おそらく60年代に誕生したヒッピーカルチャーあたりが源流なのだろう。彼等が好んで用いた薬物のひとつがLSDやその関連物質、いわゆるサイケデリック・ドラッグと呼ばれるものだ。このページでは、そのサイケデリック・ドラッグについて多角的に検証を行った『サイケデリック・ドラッグ』とドラッグにまつわる関連書籍を紹介しよう。

  サイケデリック・ドラッグ
——精神物質の科学と文化
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L・グリーンスプーン+J・B・バカラー(工作舎)


LSDやメスカリンといったサイケデリック・ドラッグが及ぼす薬効の最大の特徴は、「覚醒」や「意識の拡張」にある。 トリップは多くの人々を魅了し、60年代に全盛を迎えつつあったロックミュージックやフラワームーブメント、そしてベトナム戦争といった社会状況が後押しするかたちでサイケデリック・ドラッグは一大社会現象(社会問題)となった。

本書はサイケデリック・ドラッグの定義や起源から、主要なサイケデリック・ドラッグの詳細データ、そして60年代におけるドラッグを巡る論争、アメリカの薬事規制のプロセスなどを網羅したサイケデリック・ドラッグ研究の決定版とも呼べる書籍である。『サイケデリック・ドラッグ』書籍解説へ
 


【ドラッグカルチャーの立役者】




裸のランチ
ウィリアム・バロウズ(河出書房新社)


ラリって妻を射殺した「ウィリアム・テルごっこ」を筆頭に、ドラッグに関する武勇伝には事欠かないバロウズが、希代のジャンキー作家としての地位を不動のものとした名著。独自の技法「カットアップ」と自身の多彩なドラッグ遍歴に裏打ちされた本書は、今読んでも壮絶である。 そんなバロウズから影響を受けたアーティストは数知れず、さまざまなメディアで活躍している。 後に勃興する数多のカウンターカルチャーの起爆剤となった意味でも本書の存在意義は大きい。
私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか
——ロジャー・コーマン自伝

ロジャー・コーマン(早川書房)


「B級映画」や「低予算」のイメージが先行しがちなコーマンだが、アウトサイダーや社会不適合者にスポットを当てた『ワイルドエンジェル』や『白昼の幻想』といった名作も数多く残している。 サイケムービーの金字塔との呼び声も高い『白昼の幻想』の舞台裏では、元来勤勉なコーマンが、「監督を行う上での勉強」という名目でLSDをキメるという涙ぐましい努力があったそうだ。 この映画に出演したピーター・フォンダとデニス・ホッパー、そして脚本を担当したジャック・ニコルソンは、この後に名作『イージー・ライダー』でヒッピーカルチャーのシンボル的存在となった。
クール・クールLSD交感テスト
トム・ウルフ(太陽社)


『現代美術コテンパン』等でおなじみのジャーナリスト、トム・ウルフが60年代後半のヒッピームーブメントを鮮やかに綴ったレポート。ここに描かれているドラッグの使用法やコミューンでの共同生活といったヒッピー達の生態に関する詳細な記述からは当時の状況がよくうかがえる。資料的価値が極めて高いだけに絶版状態となっているのは残念だ。 ちなみにSonic Youthのギタリスト、サーストン・ムーアが主宰するレコードレーベル"Ecstatic Peace!"は本書の一節から命名されているとの説有り。
【ドラッグに散った天才】
エンドレス・ワルツ
稲葉真弓(河出書房新社)


ジャズの歴史はドラッグと縁が深い。チャーリー・パーカー、マイルス・デイビス、チェット・ベイカー等、名プレーヤー兼ジャンキーは枚挙にいとまがない。 日本のフリージャズ史に大きな痕跡を残した天才アルトサックス奏者、阿部薫もその一人。本書では阿部薫と作家鈴木いずみとの破天荒な愛憎劇が描かれている。若松孝二監督による映画版では、阿部薫役の町田康が好演。壮絶なラストシーンには思わず戦慄が走る。
King for a decade
ジャン・ミッシェル・バスキア(光琳社出版)


吹き荒れるノー・ウェイヴの嵐、鳴り響くヒップホップ、グラフィティに彩られた地下鉄や街並。 1970年代末〜80年代前半のニューヨークは先鋭的で強烈なエネルギーを持った新しい表現の坩堝だった。その中にはジャン・ミッシェル・バスキアの姿もあった。 突出したセンスとストリートで培った独自の作風、そして、かのアンディー・ウォーホルの支援によって輝かしいキャリアを歩み始めていたかのように見えたバスキア。しかし、かねてからのドラッグ中毒が原因で1988年に27歳という若さでこの世を去った。才能に溢れたグラフィック・アーティストとしてのみならず、白人以外の多くのクリエーターに門戸を開いたという意味でもバスキアのアートへの貢献度は計り知れない。
病んだ魂
マイケル・アゼラッド(ロッキング・オン)


1994年4月に自殺した悲劇のカリスマ、カート・コバーン(NIRVANA)とドラッグの関係性が赤裸々に語られている。幼少期は多動症の疑いからリタリンを処方され、十代後半でマリファナを覚え、以後もさまざまなドラッグに手を染めていく。バンドの成功とは裏腹に、薬物中毒は悪化の一途を辿り、そして…。 ちなみにカートとバロウズは共演盤として"The Priest They Called Him"(Tim Ker)をリリースしている。そこにはドラッグが繋いだ数奇な縁を感じずにはいられない。




【ドラッグを検証する】



マリファナ
L・グリーンスプーン+J・B・バカラー(青土社)


『サイケデリック・ドラッグ』のコンビが贈るマリファナ研究書。中毒性や害悪が嫌悪され、日常会話に上ることすらタブー視されていたマリファナに対し、早い時期から医療用途に光を当て、その可能性について果敢に取り組んだ研究成果がまとめられた名著である。その歴史と薬効から医療現場での可能性についてまで、精緻な考察が行われている。
乱用薬物の科学
井上堯子(東京化学同人)


科学警察研究所で活躍してきた著者が、快楽目的の薬物使用に警鐘を鳴らした渾身の書。種類別の薬物の解説はもちろん、医療目的での薬物使用における効能、そして中毒症状と依存性の恐ろしさまで細かく記されている。素人にも理解しやすい内容となっており、「薬物乱用は他人事ではない」という視座から多くの読者にその危険性を伝えようという真摯な姿勢が感じられる。




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