市川團十郎さん(左)と小泉英明さん(右)
3月の新刊 『童の心で―歌舞伎と脳科学』
3月の新刊、歌舞伎役者の市川團十郎さんと、脳科学者の小泉英明さんの対談『童の心で―歌舞伎と脳科学』をご案内します。
團十郎さんは、市川宗家・成田屋の当主として華やかな歌舞伎の本流を歩まれ、あまりにも有名。方や小泉さんは、工作舎では『育つ・学ぶ・癒す 脳図鑑21』と『脳科学と芸術』の編著者でもおなじみですが、脳計測法を開発し、昨年『日経サイエンス』誌創立40周年特集号ノーベル賞候補として紹介されています(『日経サイエンス』記事はこちら)。
おふたりの出会いは幼稚園、半世紀ぶりに再会して対談が行われました。「日本の伝統芸能は、数え歳6歳の6月6日からお稽古を始めると言われるが、ちょうどその時分にふたりは同じ幼稚園で心の出発点を育まれた気がする」(小泉さん「おわりに」より)。対談は忙しい合間を縫って、数年間くり返されました。最後の対談は東日本大震災直後となり、日本の再生への願いが語られています。
歌舞伎と脳科学、伝統芸能と先端技術という異分野の第一線で活躍するふたりの対談は、どのように展開するのでしょう? 教育分野にも造詣の深い小泉さん相手だからこそ、しつけやご家族への感謝も語られ、また、科学的な好奇心も旺盛な團十郎さんの素顔がかいま見られます。写真も多数収録。発売をどうぞお楽しみに。
■目次
日本人として大切なものを見直す 市川團十郎
第1章 コドモの園幼稚園からパリ,ヴァチカンへ
半世紀ぶりの再会──三つ子の魂百までパリ公演──フランス語の口上・バワーズさんの想い出
音の響きと劇場空間──オペラ座裏話
モナコ公演──鳴神が現実に
環境と感性──氏か育ちか
大酒飲みの遺伝子──弁慶と猩々
自分を見る・世界を見る──ダライ・ラマと歌右衛門
第2章 江戸庶民と荒事の精神
荒事と童の心──初代市川團十郎江戸根生いの市川家──『助六』と河東節
二代目の雄弁術と邦楽の発声法──「二の字起こし」と「産み字」
歴代團十郎の工夫──修行講・歌舞伎十八番・活歴物
ウソとウソをかけあわせて超現実へ──芝居と物理の色即是空
虚を実に見せる醍醐味──宙乗りせずとも空中浮遊
学習の動機づけと報酬系──判官贔屓はなぜ生じるのか
第3章 襲名システムの妙
稽古始め──三法師役で初舞台襲名と脱皮──商家・職人・芸能者の知恵
元祖三之助の幼少時代──ラグビーで丈夫になる
元祖海老さま──十一代目團十郎の重責
左利きは矯正すべきか──菅秀才役で筆は右に
教育というのは怒ること──『連獅子』を地でゆく愛の平手打ち
梨園の父親と息子──憧れと切磋琢磨
家族の想い出──旅行・芸者遊び・釣り
第4章 海老蔵から團十郎へ
円覚寺での修行──山脈の筆を大海の硯にひたして宇宙に描く大先輩たちの薫陶──勘弥と先代鴈治郎
海老蔵から團十郎へ──ハレの時間を共有するお練りの復活
荒事師を支える女性たち──勁い母・朗らかな妻
第5章 刹那と永遠の狭間で
『元禄忠臣蔵』と心の読み方──肚芸と心の理論間は魔に通じる──脳がつくる時間の流れ
乱拍子の劇的効果──祈念・怨念・情念
刹那と永遠の狭間──時間の矢・時間の環
静止顔と見得──脳にP300を出させて消す
引き吃とチンパンジーの発声──鳥獣にまなぶ
團十郎流記憶術──耳と口と身体を連動させる
失読症はなぜ起きるのか──言葉と音韻ループ
第6章 多彩なエロス、色悪の誘惑
女形の魅力──型と脳がつくる性官能系と情動系──衆道と文化
変身の妙──お伽噺の夢を体現する
歌舞伎における殺人とゲームにおける殺人──暴力の快楽の制御
第7章 歌舞伎座さよなら公演
歌舞伎座と文化遺産の保存──想い出の場所歌舞伎座という名器──衝撃音を活かす空間
歌舞伎座最後の『助六』──意地と張りの極致
第8章 日本文化の再発見
武道と死生観──鞘の内の文化と切腹武士道をつらぬくソフトウェア──主従は三世の絆と葛藤
日本の表芸の精神──日本刀と職人芸
お座敷文化の再興──邦楽の裾野
『陰影礼賛』の境地──ゆれる灯りの時間
信仰と芸能──慈・悲・喜・捨
第9章 日本の再創造に向けて
伝統文化と先端技術──伊達政宗の毛髪分析創造性を生む脳とは──意欲・情熱と自由意志
経済と文化──賢民の育つ国こそ豊かな国になる
東日本大震災後の再創造に向けて──経済至上主義から恵み合う文化へ
しなやかな靭さを育んだ共通の原点 小泉英明