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9月の新刊 ロンダ・シービンガー
『奴隷たちの秘密の薬』



『奴隷たちの秘密の薬』帯付き

9月の新刊は、 『奴隷たちの秘密の薬—18世紀大西洋世界の医療と無知学』です。


医学が「科学」になろうとしていた18世紀。
カリブ海植民地は熱帯医学のフィールドワークの場となった。
植物を使いこなし、独自の治療法を編み出した奴隷や先住民。
彼らの医療知識を評価する一方で、
その秘密を開示させようとするヨーロッパ人医師。
知をめぐる交流と葛藤、搾取と抵抗の相互関係を
科学史家ロンダ・シービンガーが分析する。

シービンガーは、近年ジェンダー研究に欠かせないテーマとなった「ジェンダード・イノベーション」と「無知学」の提唱者です。
「ジェンダード・イノベーション」は、性差に配慮した技術革新を指し、欧州委員会や米国衛生研究所と協力してプロジェクトを展開。日本でも2022年4月、お茶の水女子大学に「ジェンダード・イノベーション研究所」が設立されています。2023年4月の朝日新聞記事も参照。9月には明石書店から、本書の訳者・小川眞里子氏と鶴田想人氏らの編著『ジェンダード・イノベーションの可能性』が発売予定。

一方、無知学は青土社「現代思想」2023年6月号「無知学/アグノトロジーとは何か」で特集され、注目を集めました。
活躍がめざましいシービンガーの邦訳は工作舎から4冊刊行されています。

  • 『科学史から消された女性たち』
  • 『女性を弄ぶ博物学』
  • 『ジェンダーは科学を変える!?』
  • 『植物と帝国』

    特に『植物と帝国』は、18世紀カリブ海から伝えられた中絶薬の普及が妨げられたという本書に通じるテーマが綴られ、今年7月20日の朝日新聞書評欄「夏に読みたい3点」にて隠岐さや香氏がとりあげてくださいました。

    『奴隷たちの秘密の薬』は、A5判上製、368頁、定価 本体4500円+税、9月下旬発売予定。




    ■目次より

    序章

    大西洋世界における医学実験/人間の被験者/実験の分類学/植民地という坩堝/知の循環/情報源の問題

    第1章 科学的医学の台頭

    西インド諸島における実験/肌の色の科学、あるいは人種の細かな生理学的差異/移植された人間—場所vs人種

    第2章 「黒人医師」の薬物学実験

    鉄の木と知の循環/アフリカ仮説/ヨーロッパ仮説/アメリカ大陸仮説/大西洋広域圏仮説

    第3章 医療倫理

    ヨーロッパにおける倫理—「助けること、少なくとも害をなさぬこと」/西インド諸島における倫理̶奴隷の問題/誰を最初にするのか—冷水を用いた実験/奴隷—保護されたカテゴリー?

    第4章 搾取的な実験

    クワイヤーの天然痘実験/トムソンのイチゴ腫実験/兵士と水兵/ヨーロッパの子供と貧者/身体は互換可能なのか—医学の文脈から

    第5章 植民地という坩堝—奴隷制をめぐる議論

    オービアと妖術/偽薬を使った実験/奴隷医療者の非合法化/有色自由人の専門職からの排除/身体は互換可能なのか—植民地の文脈から/よりよい生活環境の提唱/出産をめぐる実験

    終章 知の循環

    ヨーロッパ人の植民地のつながり/アフリカ人の奴隷貿易のつながり/アメリカ先住民の征服のつながり/無知学と大西洋世界の医療複合体

    付図 本書に登場する西インド諸島のイギリス人・フランス人医師
    原注
    参考文献

    [訳者解題]
    新大陸の奴隷制について 並河葉子
    「秘密」の植物が照らす歴史の闇 鶴田想人
    訳者あとがき 小川眞里子



    ■著者紹介:

    ロンダ・シービンガー Londa Schiebinger
    スタンフォード大学歴史学科ジョン・L・ハインズ科学史教授。「科学、保健・医学、工学、環境学分野におけるジェンダード・イノベーション」プロジェクト創始者。科学史および科学にジェンダーの視点からメスを入れ、「普遍的かつ公正な科学」幻想を打ち砕いてきた。「科学と技術におけるジェンダー」研究の国際的な先駆者であり、国連、欧州議会、多くの研究助成機関で講演活動を展開。ハーヴァード大学で博士号を取得(1984)。アメリカ芸術科学アカデミー会員。アレキサンダー・フンボルト財団からフンボルト賞を受賞(1999–2000:歴史部門で全米初の女性)、米国のグッゲンハイム・フェローシップなど栄誉ある賞を多数受賞。スペインのバレンシア大学(2018)、スウェーデンのルンド大学(2017)、ベルギーのブリュッセル自由大学(2013)から名誉博士号を授与されている。
    初の単著『科学史から消された女性たち』に次ぐ2作目『女性を弄ぶ博物学』で国際科学社会学会・第2回フレック賞受賞。3作目『ジェンダーは科学を変える!?』では理工系分野の女性研究者をいかに育成するかを論じ、4作目『植物と帝国』では文化的・社会的文脈で抹殺されてきた知識の研究(アグノトロジー)の重要性を説き、3つの国際的な賞を受賞。ロバート・プロクター氏との共著でAgnotology(Stanford University Press, 2008)がある。Women and Gender in Science and Technology(Routledge, 2014)の四巻本を編纂し、過去およそ40年間にわたる「科学・技術における女性とジェンダー」に関連する論文や著作のアンソロジーを出版。近年では性差に配慮した革新「ジェンダード・イノベーション」を提唱し、欧州委員会や米国衛生研究所と協力してプロジェクトを展開。日本でも2022年4月、お茶の水女子大学に「ジェンダード・イノベーション研究所」が設立された。ジェンダード・イノベーション関連に、Gendered Innovations: How Gender Analysis Contributes to Research(European Commission, 2013)、Gendered Innovations 2: How Inclusive Analysis Contributes to Research and Innovation(European Commission, 2020)がある。

    訳者紹介
    小川眞里子(おがわ・まりこ)

    三重大学名誉教授(科学史・科学論)。(公財)東海ジェンダー研究所理事。博士[学術](東京大学2012年)。著書『フェミニズムと科学/技術』(岩波書店2001年)、『甦るダーウィン』(岩波書店2003年)、『病原菌と国家』(名古屋大学出版会2016年)。共編著『女性研究者支援の国際比較』(明石書店2021年)、『ジェンダード・イノベーションの可能性』(明石書店2024年)。共著『環境危機と現代文明』(朝倉書店1996年、新装版2008年)、『科学技術と社会』(東京大学出版会2020年)、『科学と倫理』(中央公論新社2021年)など。共訳書にシービンガーの主要著作四冊はじめ、ボウラー『環境科学の歴史』I・II(朝倉書店2002年)など。『病原菌と国家』で日本科学史学会学術賞。令和4年度男女共同参画社会づくり功労者内閣総理大臣表彰など。

    鶴田想人(つるた・そうと)
    大阪大学社会技術共創研究センター特任研究員。東京大学大学院総合文化研究科(科学史・科学哲学研究室)博士課程単位取得退学。修士(学術)。専門は科学史・科学論。日本学術振興会特別研究員(DC1)を経て現職。論考「無知学(アグノトロジー)の現在」(『現代思想』2023年6月号)、「植物の名を正す」(『ユリイカ』2023年4月号)など。共編著『ジェンダード・イノベーションの可能性』(明石書店2024年)、『無知学への招待』(明石書店、近刊)、翻訳にプロクター「無知学」(『思想』2023年9月号)など。

    並河葉子(なみかわ・ようこ)
    神戸市外国語大学外国語学部教授。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程中退、修士(文学)。専攻:イギリス帝国史、ジェンダー史。主要論文に共著「奴隷貿易・奴隷制廃止と「自由」」(『国民国家と帝国』岩波講座世界史16巻岩波書店2023年)、「反奴隷制運動の情報ネットワークとメディア戦略」(『情報の世界史』第6巻ミネルヴァ書房2018年)。共訳書にレヴァイン『イギリス帝国史—移民・ジェンダー・植民地へのまなざしから—』(昭和堂2021年)、共同監訳にシェリダン、シールズ編『イギリス宗教史』(法政大学出版会2014年)。







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