●キルヒャー・驚異の図像 18
『キルヒャーの世界図鑑』より口をきく彫像
キルヒャーの著書のなかで、今なお再販され関心を集めているのが、音楽についての著作である。なかでも『普遍音楽』は、当時台頭してきたバロック形式と古いルネサンス多声音楽の双方を論じ、バロック的「情動説」を最初に唱えている。これは後代のバッハやヘンデルらに影響を与え、17世紀のもっとも重要な論考のひとつとされる。
さらに音響論も展開するが、科学実験を愛好するキルヒャーは、拡声機、盗聴装置、イオリア竪琴(風で音楽を奏でる)へと移行する。「口をきく彫像」は、螺旋形の管が戸外の人の声やその他の物音を誘導し、そのために声や音がまるで彫像の口から出ているかのように聞こえるというキルヒャーの面目躍如たる仕掛けである。(『普遍音楽』より)