●キルヒャーの音楽図譜 01
『普遍音楽』より
ナマケモノの不思議な声
音楽が新世界で初めて発明されたとするなら、その起源はまさにこの動物にあると推測すべきだ。その性質と形状が全く異様で、その動きが実にゆったりとしていることからナマケモノと呼ばれている。…
この動物は夜以外に声を聞かせることがない。加えて全く不思議な声であり、ウト、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、ソ、ファ、ミ、レ、ウトと音階を上行、下行する。それぞれの音にソスピーロ*または半終止を置くが、これはよく学童が音楽の最初の基本を歌うのと何ら違いはない。スペイン人がこの地方に初めて来たとき、夜にそのような叫び声を聞き、新世界の人々が音楽の指導を受けているに違いないと思ったほどだ。住民たちからはハウド(Haud)と呼ばれるが、この声が音階の各音をハ、ハと繰り返すからに他ならない。(「第一巻 解剖学 第十五章 全て動物の自然の声」より)
*ソスピーロ:ある長さの休符を表すが、その長さは状況によりまちまちである。ここでは直前の音符と同じ長さの休符を表す。原意は溜息、呼吸。