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アルスロンガ_イメージ

美術家を映しだす作品

作品が美術家を反映するという考えは古代にまでさかのぼる。ルネサンスのネオプラトニズムの思想家たちは、人間の魂はその身体に映しだされる、そして美術家の魂はその作品に映しだされると考えた。この考えはとくに重要である。マルシリオ・フィチーノ(1433〜99)は『プラトン神学』(1482)の中で次のように述べている。「絵画や建築から美術家の知恵と能力が輝きでる。私たちはその中に、美術家の精神のあり方や反映も見てとることができる。というのも、これらの作品の中には精神が表出されているからである。これは、人間の顔がその人が見ている鏡の中に映しだされるのと同様である」。

美術家自身が意図して作品に同化することも、他者が作品と美術家を同一視することも、ここで見たように、様々なかたちをとって、くりかえし起きている。時代や地域を超え、普遍的に見られる現象なのである。

にもかかわらず、こうした作品と美術家の関係を多角的に考察する試みはいまだなされていない。本書では、作品と美術家の一体化ないし同一視の多様なありかたを示し、その成立や展開を追跡するとともに、それを支えた思想的、社会的、政治的要因を作品の外部に求めることを試みる。




アルス・ロンガ、ヴィタ・ブレヴィス( Ars longa, vita brevis)という格言は「芸術家の人生は短いが、作品は長く残る」という意味でもつかわれます。この確信から、美術家と作品が一体化し、作品の中で永遠に生き続けるかのように見える作例が多数生みだされました。 こうした美術家と作品の関係を多角的に考察する書籍『アルス・ロンガ(仮)』を準備中です。刊行に先立ち、一部を紹介します。[連載にあたって]




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