ライプニッツ著作集[概要]
バロックの哲人の普遍的精神の全容を精選・翻訳した
世界初の本格的著作集
記号論理学・微積分学の創案、2進法の考案、エネルギー概念の先駆など、
科学革命をリードする17世紀の哲人・ライプニッツの普遍精神の全容。
論理学、数学、科学、哲学、宗教から中国学まで、
多岐にわたる主要著作を総合的に編んだ、本邦初、世界に類のない著作集。
10年余をかけてついに完結。
■本著作集の特色 |
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■科学・哲学・数学にわたる有機的な思想の精髄を編集。
■今日の情報社会を先取りする発想や発明の起源となった主要著作を収録。
■ラテン語、フランス語、ドイツ語にわたる論考を手稿を含めテクスト・クリティークのうえ翻訳。
■訳文は正確、平明を旨とし、充実した訳注・解説を付して、思想的背景や後世への寄与を明かす。
■『ライプニッツ著作集 全10巻』の構成 |
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[1] 論理学 定価 本体10000円+税 新装版
[2] 数学論・数学 定価 本体12000円+税 新装版
[3] 数学・自然学 定価 本体17000円+税 新装版
[4] 認識論[人間知性新論…上] 定価 本体8500円+税 新装版
[5] 認識論[人間知性新論…下] 定価 本体9500円+税 新装版
[6] 宗教哲学[弁神論…上] 定価 本体8253円+税 新装版
[7] 宗教哲学[弁神論…下] 定価 本体8200円+税 新装版
[8] 前期哲学 定価 本体9000円+税 新装版
[9] 後期哲学 定価 本体9500円+税 新装版
[10] 中国学・地質学・普遍学 定価 本体8500円+税 新装版
■監修者:
下村寅太郎+山本 信+中村幸四郎+原 亨吉
■造本:杉浦康平
■刊行の辞(1986年4月・肩書きは当時) |
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天才の時代の最も天才的な天才
下村寅太郎
われわれは「いまなぜライプニッツか」は問題ではない。われわれにとっては、ライプニッツは「いま」の人でも「いま」の問題でもない。何時も何処でもの「人」であり「問題」である。17世紀は「天才の時代」と言われる。ライプニッツはその天才の時代の最も天才的な天才であった。その博識と透徹は古今東西に比を見ない。その全集の刊行はドイツにおいて第1次大戦直後から着手されたが未だに完了せず、今後なお100年を要するという。
われわれの学界は、古代以来の西欧の大哲学者の主著を略々訳出したが、ただ独りライプニッツのみ極小部分に止っている。学界の無関心の故でも人材の乏しい故でもなく、おそらく困難の故による。彼の労作はあらゆる領域にわたり、飽くことなき追求のためにすべて未完の断片に止った。彼自身完成よりも不断に前進と深化を意欲した無際限の探究心による。生涯の哲学思索の成果を要約した所謂『モナドロジー』は僅かに数十頁の短論文である。短篇断片の故に軽視を許さない。本邦で訳出されたものは、40年以前に河野與一氏による形而上学に関する数篇とその他に止まる。
本著作集は、論理学、数学、自然学、認識論、宗教哲学、形而上学、さらに中国哲学論にわたる主要作品を精選した、大半が本邦初訳のものである。もとより全著作の上からは極小部分であるが、いずれもライプニッツの思索の重要な領域のエッセンスを示すに足るであろう。長く待望された読書界の期待に沿うことを期した。
生前ライプニッツがまとめた著書は『人間悟[知]性新論』と『弁神論』の2書しかない。前者は当時の哲学界を衝動したロックの『人間悟[知]性論』の逐次的批評を通して自己の認識論を展開したもの、後者は当時の知識人の必読の書とされたピエール・ベールの新しい宗教哲学論の批評であり、彼の弟子にしてプロシア王妃であったソフィ・シャルロッテの追想のために公けにしたもの、その他のものは短篇ながらすべて哲学史、科学史、思想史を飾る独創的な珠玉の論文であって、その中には、現代にいたって初めて新しくその意義の認められたものがある。中国哲学関係の論文は、西欧社会に初めて東洋の先進文化の所在を紹介し西欧思想界を驚倒せしめたものである。
ライプニッツの発見術が一望のもとに
アルベルト・ハイネカンプ(ライプニッツ文庫教授・哲学)
ライプニッツの業績に対する評価は、この数十年の研究により、とみに高まっている。微積分の発見者、サイバネティクスの始祖、近代的論理学の才能あふれる先駆者、先見の明にみちた学問のオルガナイザー、新しい歴史学的・言語学的探究の提唱者、そのほか多くの学問領域の提案者としてはもとより、彼の哲学自体も新しい光のもとに見直されてきている。かつては一顧だにされなかった彼の暫定的な論考や未完の著作が人々を魅了するようになり、彼の哲学上の業績は、彼の時代の課題に対する的確な答えであったと見なされるようになった。
ライプニッツの関心の幅や知識の領野は、実に多面的なものであった。だからこそ異なる学問領域の問題や成果を相互に結合することができたし、それによって新しい知見を得ることもできた。これこそが彼の発見術(ars inveniendi)である。
ライプニッツの業績に親しむのは非常に難しい。著作の量が多く、性格が特殊であるばかりでなく、それがいくつかの異なる言語で書かれているからである。学者に供される書物はラテン語、宮廷の仲間との会話はフランス語、自国の少数のインテリに向けられた著作はドイツ語で書かれた。ライプニッツを原文で読みたければ、三つの言語をものにしなければならない。もし信頼できる翻訳が意のままに使えるようになれば、彼の業績は、より多くの人々にとって近づきやすいものになるだろう。
このたび日本で『ライプニッツ著作集』が刊行されるのは、とりわけ喜ばしいことである。日本人は、文化および人間精神の諸成果を広く受け入れることでは定評がある。今回の著作集の幅の広さ、視点の鋭さに比肩しうるようなものは、今のところいかなる言語においても存在しない。またこの著作集は、ライプニッツの中心課題、国民間の文化交流に多大な貢献を果たすだろう。著作集がほかならぬ日本で刊行されることをライプニッツが耳にしたとしても、彼は驚かないかもしれない。なぜなら彼は、当時ヨーロッパに大量にもたらされつつあった東アジア文化についてのさまざまな報告に深く心を動かされていたからである。それゆえ、私はこのたびの著作集が成功をおさめることを心より望むものである。
発明の起源を知る
彌永昌吉(東京大学名誉教授・数学)
「発明の起源を知るほど重要なことはありません。そのほうが発明そのものよりもたいせつであると私には思われます。……」
1674年ごろの書簡の一部に、ライプニッツはこのように書いている。政治的な使命を帯びてパリに滞在していたときのことである。ライプニッツは、そのころルイ14世の宮廷にオランダから来ていたホイヘンスと知り合い、その示唆を得てデカルトやパスカルの数学上の業績に親しみ、実質的には微積分学を発明していたようである。その先駆としての「円の算術的求積」は、殊にホイヘンスらの賞讃を博した。その「起源」を公けにしようと、学術誌の編集者に宛ててライプニッツの認めた書簡に上の一節がある。当時の学界事情や、ライプニッツの考え方、意気込みなどを反映し、興味の尽きぬ内容の書簡である。
「円の算術的求積」というのは、今日風に簡単にいえば
ということである。ライプニッツがこの結果を得たことは、邦文の数学史の本にもみられるが、その書簡の全文を収録して、「起源」を解説したようなものは、今のところ見当たらないように思う。
今度下村寅太郎博士らの監修で、解説つきの邦文『ライプニッツ著作集』が工作舎から刊行されることとなった。数学のみにとどまらず、自然学、哲学、論理学の全域にわたるライプニッツの精力的な思索の「起源」が、この著作集によりわれわれに近づき易くなることを心から喜びたい。
夜明け前の冷気と万能の知
樺山紘一(東京大学教授・西洋史)
ライプニッツは、ウェストファリア条約の直前に生まれた。30年戦争に決着をつける条約だ。そして、ユトレヒト和約が完結した直後に世を去った。スペイン継承戦争をおさめる和約だった。ライプニッツが生きた17世紀、ヨーロッパの大地は冷えきっていた。戦争、国家理性のエゴイズム、宗教的対立、飢餓、騒乱……。とくに、ドイツ諸領邦がひどかった。30年戦争での疲弊が著しい。
哲学者であり科学者でもある、歴史家であり外交官でもあるハノーヴァー公家の図書館長は、「ヨーロッパ知性の一奇蹟」とよばるべきであろうが、そのライプニッツに受難と孤居の影がおちるのは、やむをえない。あのダ・ヴィンチがそうであるように、癒しがたい痛みが、その万能の知にひそんでいたように思えてならない。
18世紀、ライプニッツのあとからは、啓蒙の哲学者たちが自信にみちた喜ばしい姿で登場するだろう。レッシングとカントが、ドイツの精神を謳歌しはじめるだろう。ライプニッツは、夜明け前の冷気に身をひきしめつつ、思考したのだった。その受難と孤居にわたしは魅かれる。戦争のただなかで、平和を構想し、人間たちの分裂のなかで響和しうる人間モナドを追究し、断裂のなかで微分値の連続性を思惟しえた17世紀人。このたびの日本語版『ライプニッツ著作集』は、わたしたちに、この巨大な魂への眼をひらかせてくれるだろう。そう確信している。
■関連図書(表示価格は税別) |
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■関連Web |
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ゲルハルト版 ライプニッツ哲學著作全集影印本刊行趣意書
https://www.fuchu.or.jp/~d-logic/jp/kbd.html
日本におけるライプニッツ関連刊行物
https://www.fuchu.or.jp/~d-logic/jp/lij.html
◎ライプニッツの『プロトガイア』研究のために(平井浩博士のサイト)
https://www.geocities.co.jp/Technopolis/9866/labo32.html
錬金術に関する知的情報満載のサイト bibliotheca hermetica への入口
https://www.geocities.co.jp/Technopolis/9866/
◎金沢工業大学《世界を変えた書物「工学の曙文庫」》収蔵の原典
「極大と極小に関する新しい方法」(1684)」初出誌
https://www.kanazawa-it.ac.jp/dawn/168401.html
『計算機械についての論述 』(1710) 初版
https://www.kanazawa-it.ac.jp/dawn/171001.html
■書評 |
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●2000.11.9 朝日新聞「科学をよむ」 黒崎政男氏書評
300年後に実現した思索 デジタル技術の驚異
哲学者ライプニッツは、現代のデジタル技術の基礎となった、二進法を確立しつつあった。…
(だが、)抽象的すぎてなんら実用的ではない、というもので、まったく理解されず、学会誌にも掲載されなかった。…
ある先駆的な哲学者の〈思想〉がちょうど300年の年月を経て〈実現化〉する。深い思索に、テクノロジーは300年かかって追いついたわけである。