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本の仕事人

#006 青山ブックセンター六本木店 柳澤隆一さん

棚づくりは身体感覚、軽やかなフットワークで時代をつかむ

 
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ゆったりした店内の奥にメインフェアのスペースが広がる。4月は「闘う世代、60年代 Revisited」。

フェアの中央には、時代を象徴する田名網敬一のイラストが鮮やかな色彩を放つ。

細江英公、横尾忠則、寺山修司らのビジュアル、吉本隆明、埴谷雄高の思想。さらに三島由紀夫全集も。

「図書館的な本屋」、「知識だけ」はABCでは却下。要するに固定観念に縛られるなということを教えられた。

「自分がビビッときた感覚をお客さまにも感じとってほしい」。中央の『TERRA』(牛若丸出版)はまさにそんな本。

牛若丸の『ムットーニスモ』を手にする柳澤さん。

きわどくて、ちょっとキュートなエロス系の本やDVDを集めた「モンドエロマンティック」フェアが好評。ディスプレイも楽し気だ。

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青山ブックセンター六本木店


営業時間 月〜土10:00 〜 翌朝5:00
     日・祝10:00 〜 22:00
住所 東京都港区六本木 6-1-20 富山電気ビル1F
tel 03-3479-0479
fax 03-3479-0605



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  • 003 ブッククラブ回 榎本貴之さん
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  • 001 大盛堂書店 片岡清一さん
  • ■オブジェブックに五感を揺さぶられた瞬間

     「あれは月をモチーフにしたイタリアの洋書でした。コラージュや写真など、さまざまなアーティストの作品が集まった本。かなり厚く重みがあって…僕の記憶では表紙が鉄製だったかな、ふつうの紙じゃなかったですね。見たこともないような形、重み、触感…。五感がプルプルと震えるのを感じました」

     柳澤さんが六本木の青山ブックセンター(ABC)を初めて訪れたときの記憶を辿る。80年代半ば、学生時代のことだった。

      何の予備知識もなくフラリと立ち寄った店は、見なれた書店空間とは全く違う。建築書がドンと構え、デザイン書のまん中にヨーロッパの絵本が占め、人文には色鮮やかな図版の博物誌…。本が放つビジュアルの力に圧倒された。

     中でも極めつきが、くだんの洋書。ABCで本の面白さに目覚めたという。


    ■ディスプレイの妙が本を生かす

      卒業後六本木店で働いて13年になる。入社当時、稲葉恵一さん(現店長*1、渡辺富士雄さん(現次長*2ら棚の達人に教えられた。

     フェアの陳列を手伝ったときのことだ。途中から渡辺さんが手をかけると、本がガラリと表情を変えた。「見なれた本でしたが、急に生き生きとしてきたんです。まさにマジックでしたね」。多面で見せて(*3)圧倒させることもあれば、1冊の棚差しで存在感を感じさせることもできる。先輩たちの棚を自分なりに感じとる日々だった。

    「今でも覚えている渡辺さんの言葉があります。ある本をいいなあと思っていると、周辺の新刊が次々と入ってきて自然に棚ができると。今のフェアもそうですね。〈1968年〉(*4)が気になっていたら、細江英公さん(*5)と田名網敬一さん(*6)の新刊が出てきました」。シンクロニシティ? いやブームの半歩先をつかんでいるからだ。


    ■売れ筋はからだ全体でつかむ

     時代に敏感な人が集う六本木において、書店は時代や社会との結節点になる。「これは売れる」という感覚をからだ全体でつかみ、勢いよくお客さまに提示する。「頭だけじゃできないですね。知的なスポーツといってもいいかもしれません」。棚づくりには身体感覚が伴うのだ。

     さらに「なぜこの本がここにあるのか」というひねりが、ダイナミズムを生む。「僕の考えでは、カテゴリーを排していったのがABCの特長だと思います。デザイン性に秀でていればビジネス書がデザインコーナーにあってもいいわけです。あまりカテゴリーに縛られると本も窮屈ですから。すかしていると思う人もいるでしょうが、入社当時〈棚で遊ぶ〉と言われたことが、わかるようになりました」

    ■2004年7月16日、倒産——本が棚から消えた

     90年代後半になると先輩たちは次々と去っていった。柳澤さんはアート・建築担当として、棚の見えざるリズムや思想を受け継ぎ、自分の表現としてきた。しかし、2004年7月16日、ABC倒産——。

    「あの日、自分でも変な予感があったんです。営業中からドタバタしている様子が伝わってきましたし。『今日5時をもって閉店する』と告げられたときは、こういう形で本屋がなくなるのかと呆然としました。今はこうして棚には本がびっしり入っていますけれど、当日はあっという間になくなって」

     一部を残して、棚から本は消えた。

    「社長を恨むなんてことよりも、果たしてちゃんと仕事をしていたのか、今まで教えてもらったことが棚づくりに生かせなかったのかと、自分にずっと問いかけていました。売上のせいではないとわかってからも、あのときこうしていたら、このときは…と思ってしまって。辛かったですね。お店がなくなったということよりも、お客さまや出版社の営業、アーティスト、デザイナー、作家の方々に申し訳ないという思いでした」

    ■新たなスタートで、棚と向き合う

     多くのファンが嘆き、有志の応援の輪が広がる中、再建が決まる。9月29日ABCは甦った。
     
    「ありがたかったですね。再び六本木で働けるということが何よりうれしい。周りのスタッフやお客さま、出版社など支えてくれた方々のおかげです。今まで以上にやらないといけませんから、試行錯誤の連続です」

     皆の想いに応えるためにも今日も棚に向かう。搬入された本を前に、自分に何ができるのかを問いかけていく。この本を生かすために、お客さまの期待に応えるために。

    「六本木という場所は今も昔も情報発信地です。混沌とした情報の渦の中から、1冊でも2冊でも、お客さまの感性を刺激する本を提示していきたい」


    註:
    *1  稲葉恵一…1983年のABC立ち上げ直後からのメンバー。99年退社し、ランダムウォークに。親会社の洋販がABC再建に名乗りをあげたことで、兄弟会社となったABCに復帰。今も同じ六本木界隈にあるランダムウォーク ストライプハウス店店長を兼任する。

    *2 渡辺富士雄… 1987年ABC入社。六本木店の人文担当としてダイナミックな棚を作りあげ、『ブックマッププラス』には当時のインタビューが残る。ジュンク堂書店を経て、ランダムウォークへ。再建でABCに復帰し人文書を手掛ける。

    *3 多面で見せる…平積み・面陳(棚で表紙を見せる手法)でも、同じ本を複数列置くこと。

    *4 1968年関連図書…フランスの五月革命、東大紛争など1968年は学生運動のうねりが噴出した。2005年1月に刊行した『1968』(スガ秀実/作品社)の他、『ハイスクール1968』(四方田犬彦/新潮社/2004年2月)、『60年代が僕たちをつくった』(小野民樹/洋泉社/2004年5月)など。

    *5 細江英公(ほそえ・えいこう)…写真家。1963年三島由紀夫をモデルに撮った『薔薇刑』で評価を確立し、70年舞踏家土方巽を撮った『鎌鼬(かまいたち)』で芸術選奨文部大臣賞を受賞。長らく品切れだったこの『鎌鼬』が2005年4月青幻舎より限定復刊。装幀は田中一光。

    *6 田名網敬一(たなあみ・けいいち)… グラフィックデザイナー。1960年代からイラスト、アニメーション、グラフィックデザイン、ポスターなどで活躍し、「サイケデリックの魔術師」の異名を持つ。75年には日本版「PLAY BOY」の初代アートディレクターを務めた。2005年4月にイラスト集『BLOW UP2』(青幻舎)刊行。



    2005.4.4 取材・文 岩下祐子


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