「デレク・ベイリーを聴く会」vol.07報告
『間章著作集』の編集者・須川善行さんを特別ゲストにお迎えしたサウンドカフェ・ズミ。
まるで季節の迷路にさまよい込んだような、肌寒ささえ感じる9月の最終土曜日に開かれた「デレク・ベイリーを聴く会」vol.07。今回は『間章著作集』(月曜社刊)の編集を担当された須川善行さんを特別ゲストにお迎えしました。おかげさまで満席となり、駆けつけてくださったみなさまにはほんとうに感謝いたします。vol.01の様子|vol.02の様子|vol.03の様子|vol.04の様子|vol.05の様子|vol.06の様子
間章(あいだ・あきら)氏は、1970年代に活躍した音楽批評家で、フリー・ジャズ、プログレッシヴ・ロック、パンク・ロックなどを積極的に日本に紹介する一方、国内外のミュージシャンのコンサートやレコーディングをプロデュースするなど、多岐にわたって活動を続けました。1978年4月にはデレク・ベイリーを日本に招聘。雑誌『モルグ』を発刊し、デレク・ベイリーとの対話、批評などを発表するも、その年の12月、脳出血で逝去(享年32歳)。2006年には映画監督・青山真治氏が手がけた7時間半に及ぶ長編ドキュメンタリー映画『AA』も公開されました。
須川さんが間章の文章と最初に出会ったのは、中学生の頃、マイク・オールドフィールドの『チューブラー・ベルズ』のライナーノーツ(『間章著作集IIIさらに冬へ旅立つために』に収録)を通してだったとか。「今までに読んだことがないような文章で、強烈な印象が残りました」。
めぐりめぐって著作集の企画編集を手がけるまでになるわけですが、須川さんは間章のデレク・ベイリー観をどうごらんになっているのでしょうか。
「間章はデレク・ベイリーに対して、いろいろな言葉を当てはめていて、一番有名なのは〈アナキスト〉という言葉。別なところでは〈完全なるランダムネスを目指して〉という言い方をしているところもある。でもだからといって、その言葉のレベルのままで話を先に進めようとしても、あまり意味が無い。間章がそうした言葉で何を指し示そうとしていたのかを見極めることが大事で、たとえば〈アナキスト〉では〈自立した個〉というような意味を指し示そうとしていたのだと思います」。
没後35年以上たって、著作集が世に送り出されるということで、間章は今の時代、どのような位置づけでとらえることができるのでしょうか。
「一周してすごく面白くなってきた。実存主義、マルクス主義、疎外論、形而上学、神秘主義など、間章が体現していた思想は80年代以降、全部切り捨てられたものばかりなんですね。ただ、間さんには、それだけでは片付けられない姿勢も確実にあって、たとえば〈主体性を全然信用していない〉ところなどは、彼ならではと言っていい。しかし、時代がひとめぐりした今、これらの思想をメタ的な視点も含めてとらえなおすべき時期に来ていて、間章がそのきっかけになればいいと思っています。なによりも今、間章のようにジャンルを超えた言説を音楽と結びつけようとしている批評家がちょっと見当たりません。個人的には、正体不明で雑食性という点で、虹釜太郎さん(90年代初頭、渋谷にあった伝説のレコードショップ「パリペキン」のオーナーで、各種音楽レーベルを主宰)が継承者かなと思っていますが」。
さて今回、須川さんにお話いただいたもうひとつの重要テーマは、デレク・ベイリー著『インプロヴィゼーション』第二版では何が削除され、何が書き加えられたか、です。『インプロヴィゼーション』は原書第一版が1980年に刊行され、邦訳は弊社が1981年に刊行しました(同年のミルフォード・グレイヴス/田中泯/デレク・ベイリーの来日公演「MMD計画」に合わせての出版)。
イギリスでは1992年に、ベイリー自身による改訂が施された第二版が刊行されました。 「本全体のまとめにあたる第9章の【自由と制約】、【制約と自由】の節が大きく変更されていることが目を引きますね。ベイリー自身の即興演奏に対する考え方の変化が読み取れて興味深いです」と須川さん。当日は、第一版のどこが削除、書き換えられ、第二版では何が追加されたのかの資料もご披露いただきました。 (db.1st.ver.pdf)(db.2nd.ver.pdf)
詳細については、須川さんが翻訳した第二版の一部が掲載されている雑誌『KLUSTER!』をご参照下さい。スティーヴ・レイシーが「15秒で作曲と即興の違いについて説明する」魅力的な一節も含まれています。また同誌には間章の「ジャズの“死滅”へ向けて」のノートからの抜粋も掲載されていて、きわめて資料価値が高い一冊です。 今回聴いたアルバムですが、皮切りはソロ・ギター作品In Whose Tradition? (Emanem 3404)収録の「The Last Post」(1979年録音)から。『デレク・ベイリー:インプロヴィゼーションの物語』の中で、DB自身が、「エマネムが出したレコードに、僕がマーガレット・サッチャーについて語っているのが入っていただろ。話しながら『キミに夢中さ(ユー・ゴー・トゥ・マイ・ヘッド)』を弾いているやつだ」と証言している演奏です。「サッチャーの演説を流したり、この時点ですでに引用のスタイルを試みているんですね」と須川さん。政治には日常的に関心を払い、自宅台所で、テレビの議会中継に合わせてギターを弾くこともあったというDBの側面がうかがえる演奏でした。 次に盟友トニー・オクスリーの3枚目のソロアルバムTony Oxley (Incus 8)。ソプラノ・サックスのエヴァン・パーカー、トロンボーンのポール・ラザフォードも参加した「EIROC II」の起伏に富んだ演奏に、須川さんも思わず「面白い!」。 続いて1972年録音盤に突入し、この時期ならではの大編成(22名)のアンサンブル演奏、London Jazz Composers Orchestra Ode (Incus 6/7)。狂った「原子心母(Atom Heart Mother)」(ピンク・フロイド)のようなファンファーレとともに突入する怒涛の応酬。DBもここぞというときに鋭いプレイで切り込んできます。プログレッシヴ・ロック的なニュアンスもあり、「こういう演奏のものもインカスは出しているんですね」(須川さん)、「実にイギリスらしい」(山崎春美)などの反応が。 最後に聴いたのはハン・ベニング(perc)とのデュオ・ライヴ作品Live at Verity’s Place (Incus 9)。まるで巌流島の一騎打ちといったテンションの高いやりとりがある一方、民族音楽的な展開をする箇所もあり、「このデュオは本当にはずれがない。ハン・ベニンクが最後のほうで叩いているのはタブラに聴こえますね」と須川さん。 今回聴いたアルバムは4枚に留まりましたが、間章や『インプロヴィゼーション』第二版をめぐる須川さんの充実したお話があり、十分にお楽しみいただけたのではないかと思います。 (dzumi.list7.pdf)
さて、次回vol.08では、特別ゲストに写真家の五海ゆうじさんをお迎えします。五海さんは、デレク・ベイリーが初来日時(1978年)に、間章プロデュースでレコーディングしたアルバムDuo & Trio Improvisation(Kitty Records MKF1034)のジャケット写真を撮影されました。
またサックス奏者の阿部薫とも親交があり、2013年には『OUT TO LUNCH! 阿部薫写真集』(K&Bパブリッシャーズ刊)を刊行されています(編集を担当したのは今回のゲストの須川善行さんです)。
当日は初来日時のデレク・ベイリーのエピソードをお話いただくとともに、未発表のお写真もご披露いただく予定です。
ご参加ご希望の方は、できるだけ事前のご予約をお願いします。満席の場合はお立ち見となります。スタンプカードをお持ちのみなさま、今回も何卒よろしくお願い申し上げます。
「デレク・ベイリーを聴く会 」vol.08 :70年代の音源[6]
ゲスト:五海ゆうじ(写真家)
2014年10月25日(土)18:00〜
会場:Sound Cafe dzumi サウンドカフェ・ズミ(吉祥寺)
JR吉祥寺駅南口より徒歩5分
武蔵野市御殿山1-2-3 キヨノビル7F tel:0422-72-7822
入場料:1500円(ドリンク付)
先着20名 要事前予約:event.dzumi[a]jcom.home.ne.jp([a]を@に変えてください)
件名「デレク・ベイリー」、氏名、人数、お電話番号をご連絡ください。
*満席の場合はお立ち見となりますので、できるだけご予約をお願いします。