●月島を歩く〜『月島物語ふたたび』の世界へ 09
住吉神社
ほどなくして神輿は参道を抜ける。鳥居を潜り、本殿に達する。ここで祭りの最後の儀式である御霊抜きが宮司の手で行なわれた。境内を埋め尽くす見物人と報道陣に対して、儀式の最中はフラッシュを含めいっさいの光を遠慮してほしいという通達がなされる。やがて提灯を含めすべての照明が消された。緊張した一瞬の到来。このとき居合わせた誰もが気付いたのだが、今夜は奇しくも満月であり、中空には煌々とした月が輝やいている。思わず人々の間から感嘆の溜息が漏れる。月の光のもとで宮司がなにやら神輿の前で作業を行なっているさまが朧気に見える。一分ほどして照明が復活し、場の緊張が解れた。御霊は無事に神輿を離れ、宙空へと抜けたのだ。一本締めが行なわれた。儀礼は一応これで終了したのだが、三日にわたって蓄積された熱気はいっこうに境内から立ち去る気配がない。遠方より寄り来った旧来の知人を発見して語りあう人がおり、三年後の祭りのさいの順番を話しあう人がいる。
(『月島物語ふたたび』第九回 佃の大祭より)
■3年に一度、8月に行われる「佃の大祭(住吉神社の例祭)」は、月島の人々の精神的よりどころです。工作舎も初詣は住吉神社へ。祭りの熱気とはうってかわり、辺りは静謐な空気で満たされています。水盤舎の欄間をよく見ると渡船の様子が彫られており、古の海辺の生活がうかがえました。(編集部)